かぼちゃのスープ

かぼちゃのスープで、かぼちゃは溶けない。多分、入れた出汁が気に食わなくて、折り合いがつかなくなったのだと思う。黄色い鍋をぐるぐる回して話しかけても、他の野菜たちは楽しそうに笑っているのに、かぼちゃだけはつんとして、鮮やかな色を必死にしまいこんでいる。

あの日から帰ってくる二十三時の僕たち。白線だけ透かした道路を笑いながら歩いて、雨に濡れているかもしれない、持たせた傘は使い物にならなかったかもしれない、荒野の太陽は容赦なく輪郭を奪い取ったもしれない、星はいつもこんにちはの挨拶しかしない、僕たちが帰ってくる。アパートにささやかな灯りをともして、暖かなスープと炊き立てのご飯を用意してやりたい。

それでもかぼちゃは溶けてくれない。予定の時間になったらコンビニまで迎えにいかなくちゃいけないから、もう少しそれらしく、スープの中で笑っていておくれよと頼んでいるのに、ぐるぐるまわる換気扇は子供たちの笑い声を吸い込んでいくばかりで、なんの当てにもなりはしない。

夜に形がないからどの家もは屋根に色をつけて鮮やかなカーテンをしめるんだと、あの日から帰ってくる二十三時の僕たちは教えてくれた。たまに送られてくる手紙はひっそりと鍵のかかった部屋に積み重なって、読まなくてもわかる。地球からの挨拶は、どんな風でもどんな言葉でもさよならになってしまうから、冷蔵庫のひよこ達が笑っている。

かぼちゃのスープ、あげたかった。家のドアをあけると食欲を刺激するおいしそうな匂いが充満するささやかなアパート、鍋を覗けば野菜がゆらゆら揺れていて、大きめに切ったかぼちゃの緑と黄色が鮮やかなスープ、早く炊きたてのご飯と一緒に食べたいと思えるようなスープ、あげたかった。風の強いあの日に出て行った僕たち、二十三時をまとった僕たちが帰ってくるための、ぼくたちのためのかぼちゃのスープ。  


#詩


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