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東京ロール

誕生日おめでとう。傷だらけの皮膚、一枚一枚に呼びかける。誕生日おめでとう。東京はロールする。

いつかの疑問は石塀にはさまったまま動かず、ジェットコースターでやられた首には彼への手紙が張り付いている。コンビニの灯りでこの街は夜を形成しはじめる。誕生日おめでとう、ロール。

ミミズの巣みたいな形の会社で、私は同僚と楽しく笑っているか。笑っていたとして、果たしてそれを私だと思っているのか。私はどこにいるのか。ここからいなくなる予感に、呼びかけて呼びかけてロールする。

いつまでもとどまる私、ここへ現れた私、ここからいなくなった私、ここから逃げた私、沢山の私のせいでアパートは満員の表示で、赤くびかびか光っている。空から見れば、何かしらの警告に見えなくもない。東京でのちっぽけな私の叫びに、見知らぬ誰かがロールする。

ロールパン、ロールパンナちゃん、ローリングストーンズ、ロールキャベツ、ロールスロイス、ロールケーキ、沢山のロールに飲まれた私と私と私たち。生クリームべっとりの王国へようこそ。

畳の隙間から、シャワーヘッドから、給湯器から、冷蔵庫の裏から、手紙の間から、色あせた本から、顔を覗かせる沢山の私達をロール。肉体の隙間、こころの破片、まだ動きそうな心臓、きれいな肺胞、きみの爪一枚一枚、それらをあわせて、誕生日おめでとうロール、ロール。池袋、渋谷、円山町、品川、上野、秋葉原、日本橋、私の通ったそれらの道筋をあわせて、誕生日おめでとう。東京ロール、アンドロール。


#詩

もうちょっと頑張れよ、とか しょうがねえ応援してやる、とか どれもこれも励みになります、がんばるぞー。