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しあわせ


帰りの赤い電車で多摩川を超えるとき、眠りこけたおじさんがふと歌をうたう、乗客達はまばらに手拍子をはじめて、そのまま電車はスイッチバックを三回繰り返して鉄の坂道を登って行く。しあわせ。

夜の多摩川を縁取るマンション群の黄色い灯り、金にならない私の遊びを笑ってくれている。しあわせ。

同じ時間軸に巻き起こる家族の物語の中に、小さな羽虫や赤ん坊の胃に収まった柔らかな肉のぬらぬらした輝き、あれは生きてることよと母親がこっそり教えてくれる。しあわせ。

私の中で生きる四歳の私が五人、心配そうに私を見つめていて、こじれた糸をほどくより燃やした方がいいと教えてくれる優しさ。しあわせ。

よる九時に混じる夏の終わりのかおり、秋は薄く息をして身を潜めているけど、あの月のひかりでわかる。しあわせ。

誰かの口で秘め事を口移ししたい、私の手は不細工だからつかめない、歩いて帰れることを死にかけの叔母に伝えたい。

#詩


もうちょっと頑張れよ、とか しょうがねえ応援してやる、とか どれもこれも励みになります、がんばるぞー。