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2017.10.21 意図が漂白された写真

美意識に苛まれている

 

——以前話した時、Cさんと私の共通点が「美意識に苛まれている」ことであることに気づいたんです。

 苛まれているよ。自分が美しくないという現実に、なんていうか苛まれている。勘違いしたことを言うと、最近自分の見た目がましになってきたみたいで。あなたの目から見たらそうじゃないと思うけど。あなたが僕を撮ってくれた写真を見たら、スタイルが良くなっていて嬉しかった。そのおかげか知らないけど、教え子の男の子に会ったら「先生、惚れそうなくらいかっこよくなってるじゃないですか。」と言われた。

 ——内面が変わった自覚は?

 それは、馬鹿みたいな恋をしたから変わったかもしれない。痩せたのもその子の影響が大きいから頑張った。私は去年驕っていたから、対策をしなくて去年いろんなものが壊れるのが分かっていた。薄々予感していたことが起こって、去年結婚するはずだった人と別れて、それで5ヶ月間仕事を抜いて、ある時「今年は何をやっても全て壊れていく方向だ」と思っていた。

振られると暗唱系が入ってこなくて、ある試験にも落ちてしまった。経済学とか数学はできるけど、民法とかはできない。精神状態が影響する。処理はできるけど、暗記ができない。新しい情報が入ってこない。オペレーションの遂行がうまくできない。女の子に関しても、そういうのができる手順はあるんだよ。

 ——男の子たちはオペレーションみたいなことを手順があってやるんですか。自然にできないんですか。

 自然にできる人もいる。営業と一緒ですよ。何かを売るときに買うか買わないかの意思決定をさせるまでの段階に何をやるかという話と全く同じ。それを機械的にいかにこなせるかが成果をたくさん出すという話になる。

俺だけか知らないけど、その辺にいる女の子でもコミュニケーション取れるなら仲良くなれる自信がある。そういうのずっとやってたから。英会話の教材販売の人や売り子さんを引っ掛けて。渋谷で教え子を100人ナンパさせたりしていた。その中でも苛まれてる面があって、教え子はイケメンだから俺のトーク授ければ一瞬で引っかかるんだよ。でも俺は率下がるんだよ。教え子はかっこいいなー、俺は美しくないという感覚かな。自分が痩せて思ったのは、太ってる人に耐えられなくなった。お腹出てるおじさんとかいるじゃん。自分もそうだったはずなのに、「うっ」てなる。

 俺は、浮浪者っぽい人が電車に乗ってるのを見るだけで気が滅入る。自分が綺麗な格好をしてこれから出かける時に、汚いもの・・・汚いって言ったらいけないけど、苛まれる気分になるから、視野から外しにいく。美しいもの以外視野に入らないようにしたい。

そういう意味では、平均的に女性の方が男性より美しいよね。身綺麗にしているし「うっ」っていう攻撃性が少ない。ただ、自分が素材としては(汚らしいのと)さして変わらないのに、そう思っているのはアンビバレントな感じがして、なかなか切ない。たまにヨガをやった後にパッと鏡が目に入ると、テンション上がる。ヨガやった後ってスッキリしたいい顔してるじゃない。ただ、そうじゃない時。疲れた時に鏡を見るとすごく苛まれる感じがある。「うわー、気持ち悪い・・」と。それがすごく嫌で。

 昔「あなたは全てに関してレベルが高いものが好きなんですね。」と人に言われた。自覚してなかったけど、亡くなった兄が全てに関してレベルが高かったからなんだよね。美術でも音楽でもいろんなことが上手くいってしまうから、それが非常に印象に残っていて。自分も何でもできなきゃいけなくて、それ当たり前だと思っていた。かつ、兄が死んで母がおかしくなって「お兄ちゃんは本当にすごかったんだ」みたいな話をする。それで「俺は東大に入らなきゃいけないんだ」というのがあって東大に入ることにした。

 ただ、俺は多分勝負事に弱いんじゃないかなと思ってる。じっくり、3年単位とかで競うことになれば勝つ。でも、3ヶ月、5ヶ月単位でとなると勝てないんだよ。最近、本当に好きになった子がいて、数ヶ月単位の勝負だった。好きになった子に、他にも男の人が寄ってきていたんだよ。

 俺、人が何考えてるかほぼ全部読めるんだよ。クライアントのお客さんに半年後何が起こるとか、誰が何をするかとかほぼ全部読める。だけど、恋愛している時って混乱してるから分からないじゃん。覚悟が固まったのが○月で「仕方ないから全部読もう」と思ったわけ。彼女から得た情報とか、俺が感じたことを全部読み終えて、おそらく相手は付き合って5ヶ月後に別れることになるのが分かった。そもそも相手の男は彼女のことが好きじゃないんだよ。彼女は4年間、相手のことが好きだったんだよ。でも、彼女が他の男と付き合い始めても彼女は俺のことが結構好きだったんだよ。自分のことを好きな顔って分かるじゃん。

 

意図が漂白された写真

——相手が自分のことを好きである顔?

 あー、分かんないか、分かんないだろうなあ、女の子の笑顔って、好きな人の前だと本当に可愛くなるんだよ。分からないでしょう。

 ——分かりません。

 あなた絶対分からないだろうなと。 女の子は、好きな人の前で笑ってる時が一番可愛い。分かんない人だよねー、あなたは。どっちかというと、あなたは人の意図を頭で計算して、計算で対応して日常生活に溶け込んでいる。その計算の部分を普通の人は自然にやっている。普通の人にはインテンション認知能力といって、意図を認知する能力がある。前言ってたじゃない、「食べ物の写真を美味しそうに撮ることができない。」と。あれって「美味しそう」というのはその人の意図。それを表現するには自分の「美味しそう」という世界の切り取り方をしっかり取らないといけないんだけど、あなたの写真はどっちかというと世界を「美味しそう」という感覚なんかから全て漂白した形で切り取る。あなたのユニークなところってそういうところだよね。

 昔の同僚の娘さんが油絵で芸大に入ったけど、彼女は視覚がちょっと変で、遠近がずれている。それが面白いから彼女は現役で芸大に入った。あなたは意図が漂白された写真を撮る。人間を造作物として撮れるでしょう。それは、インテンション認知能力が非常に、もともとあまりないから。だから普通の人と見えている世界が違う。

森とかも、普通は生命のインテンションを感じながら風景が見えるわけだけど、あなたはそういう風に風景を見ていないから、生命感が剥ぎ取られたように風景が見える。怖い世界ですねえ。生命と非生命の話は、インテンションの有無なんだよ。

でもあなた多分、だいぶ世間に生きているから、無意識的にあなたのインテンションが働く部分がある。見てて思うよ。俺もすごく人工的に計算して生きるようになったから、女の子の顔が好きな男の前だと全然違う顔になる、というのが分かる。

要するに、人を撮るのが上手い人って「意図」を撮るでしょう。カップルの写真を撮るのが上手い人は、一緒にいて嬉しくて仕方ない様子を撮る。あなたの写真はそうじゃない。そういうオリジナリティだから、それはしょうがない。両方できていいし、両方できるんだ。俺も無理やりできるようにしている。ただ、壮絶に訓練しないとできない。

もう一個能力があるとすると、操作能力みたいなものが別軸にあって、IQ(知能指数)に近いやつ。IQとEQ(心の知能指数)で分けると、あなたはEQが低い写真を撮る。捜査能力を使ってインテンションを補っている。それは補いうるし、開発もできるし、脳の別回路を使ってやることはできる。そういう人の方が人の表情を読むのが上手くなったりするというのは、例えばサイコパスの研究で分かっている。サイコパスはもともと直感的に何かを感じ取ることはできないけど、計算してこの人は怒っているか怒っていないか、楽しいか楽しくないかが計算して分かる、とか。でもあなたもだいぶテンションの上下はあって、インテンションが動いている感じを、私は感じる。でも、自分では感じないでしょ。自分のインデックスがないと、人のが分かんないからね。

 例えば、感情のインデックスが自分にないと、他人がどういう感情を感じているか分からないでしょ、自分の中に楽しい、嬉しい、悲しい、みたいな辞書があって、それに対応する感情があって、それを感じることによって他人の感情が分かるようになる。

私が学生相手には、まず自分のインデックスを作り、作ったら他人と照会して分かるようになれというのをやっていた。あなたの場合は自分の感情が分かってない。

 ——自分のは分からないけど、他人のは分かります。

 他人のは計算して分かっている。感情というのは化学反応だから、脳の中にこういう物質が出て体の中でこういう反応が出るというのが対応してて、それも含めて感情だから。あなたの場合は体の感じとして感情を感じてない。言葉のインデックスで「この人は怒っている」とか計算して分かっている。あなたがもうちょっと違うところに行くためには、あなたが自分で何を感じているかをあなた自身が体感として捉えられるようになって、「ああ、きっとこの人はこういう風に体で感じてるんだ。」というのが分かるようになること。あなたの場合は自分の感情が分かり始めていると思うけどね。

 ——快か不快かはすごく感じます。

 快・不快でいいけど、人間の感情はもっと複雑で色んな言葉があるじゃない。どうしていろんな言葉があるかと考えると、きめ細やかにいろんな感じで人を味わっているはず。それを自分の中で探求していく。快不快で切り捨てるのではなく、快不快の時に自分の体がどう反応しているのかに自覚的になって自分の認知空間や体で探求していく。焦ると体がひやっとしたりするでしょう。自分で一生懸命感じていく。例えば、他人のあったかい感じというのを感じること。俺、自分でいうのは不遜だけど、超あったかい人だから。それは私がおそらく、自分の空間の中では暖かくあるからなんだろうね。認知空間全体を暖かくする。でも、自分のことなんか基本的には知りたくもないじゃない、通常は。

 しかも俺の場合、正しいから余計嫌だよね。でも、自分のことを自覚してない時ってすごく困るじゃない。あなたの場合、受け取る準備ができているから私の話を聞いてもそうかもしれないと思うかもしれない。

 言語を得ることで多少抱いていたイメージと合うみたいな話はあるかもしれない。あなたは今後、きっと色々分かっていくと思う。加速度的に。普通はこんな話できる人いないもん。俺がアカデミーに絶望したのは、ほとんど俺が言っている話を理解できる人がいなかったから。日本の認知言語学で一番まともな研究をしている◯さんしか分からなかった。

大学で教えてた時、教え子によく言われたのは「Cさんと会えたのは運です。」と。どこで会うかもわからなかったし、こんなことを分かる人が世の中にいるとは思わなかった、と。

 

2017年10月21日収録

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