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成人式のちょっと切ない話 ポニーテールのあの子について

成人式の時期になると毎年思い出す。
成人式に現れなかったあの子のこと。

あの子は、吹奏楽部の部長だった。
白い肌が瑞々しく綺麗だった。
美人で、快活で、人気者だった。

高い位置に結われた彼女のポニーテールが揺れるのを見る度に
「あんな風になれたらな」と少しだけ、憧れもした。

あの子は、私のクラスの「暗黙のリーダー」でもあった。
授業中、先生が板書をしているうちにクラス中に手紙を回しはじめるのは彼女だったし、先生が後ろを向いた瞬間に消しカスを投げはじめるのも彼女だた。クラスメイトのほとんどは彼女の行動に賛同し、後に続いて消しカスを投げた。

このクラスにはそれを「いやだな」と思う生徒も数人いた。
それは、私と私の友達だった。

私は、先生への「いたずら」の何が面白いのか、わからなかったし、何より普通に授業を受けたかった。成績が突出して良かったとは言えないけれど、当時の私にとっては、単純に勉強が楽しかったのだ。

友達が何を考えていたかはわからないけれど、自分にとっての正義を貫きたい頑固な私たち3人は、あの子やクラスメイトに倣って「いたずら」をするということはなかった。

あの子がはじめる「いたずら」で団結したクラスと、「いたずら」をしない私たちの間に、少しずつ溝ができはじめた。

初めは放課後のカラオケに呼ばれなくなって、聞こえるように陰口を言われた。
だんだんとクラス内での無視も増えてゆき、半年経ったある日、
私たちの机は廊下に出されていた。

独自の正義を持つ私は、それまで先生に何度か相談したが「気のせいだよ」で片付けられてしまっていた。
そのため、今思うと「机が廊下に出されている」という物的証拠を得られたことに少しホッとしていたかもしれない。

私達の念願が叶い、クラス全員からの事情聴取が始まった。全員が見ている中、一人一人が立たされて、順番に発言した。

クラスメイトのほとんどが口を揃えて
「あの子に言われて仕方がなくやりました。仲間外れにされたくなかった。すみません。」
と、あっさりと、当たり前のように言った。

あの子の番になると、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら今までのことを謝り、こう続けた。
「本当にごめんなさい。自業自得だけれど、次のターゲットは私に回ってきていました。先生に相談してくれて、本当にありがとう」

その日以降、あの子の快活な笑顔を見ることはなくなってしまった。


成人式、私は母が準備してくれた振袖を纏い、当時共に闘った友達と胸を張って参列していた。中学時代のいじめは私たちにとって過去でしかなくなっていたのだ。
私たちは、高校、大学で友達や先輩に恵まれ、充実した生活を送っていた。過去のことなど、どうでも良いくらいに、今が楽しい。

それでもあの時のことを忘れた訳ではなかった。
今も何かのきっかけであの時のことは印象強く思い出される。
胸がぎゅっとする。
そして、あの子のことを思い出す。

成人式に来ていなかったあの子、今は明るく笑えているのかな。

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