眠れない夜のための

大学2年生の頃、私は30歳で死ぬと思っていた。

それは、教授との個別面談の時の話だ。

私はほとんど授業に行っていなくて、大学1、2年生のための個別面談というものが年に一度設定されていたのだが、完全に無視していた。

それでも何度も催促が来るもので、四度目の催促くらいでやっと行く気になって、面談室に赴いた。

その時話した教授について、当時はほとんどなにも知らなかった。その人はどうやらかなりゆうめな建築家だったらしく、東大を出た後に腕一本で食ってきたということだった。

「30歳になったら、なにをしていると思いますか?」

いまならその質問が、私はのキャリアプランを聞いているのだと理解することはできる、

しかし当時の僕は

「30歳になったら死んでいると思う」

と言った。

驚くべきことに、素でそれを言ったのだ。

大して悩んでいたわけではない。どちらかというと楽観的に生きていた。にもかかわらず、僕は30歳で死ぬと答えたのだ。

1年後の面談も同じ教授だった。

「30歳より後も生きたくなりましたか」

というのが、彼の第一声だった。

正直、一瞬なにを聞かれているのか分からなかった。自分にとってそれくらい、印象の薄い出来事だった。教授にとっては、印象に残る出来事だったのだろう。


時々、深夜3時ごろに目が覚めて眠れなくなることがある。

眠りについて、目が覚めると、私たちは7時間分確実に老いている。

私たちは確実に年をとっている。

眠っている間にも。


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