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地域分析の基礎 第8回 就業状況から、雇用機会の動きを見る

 今回は就業状況を把握することで、地域における雇用機会の動向を見ることにしたいと思います。
 これまで、地方圏では若年層の流出を抑制するためには雇用機会の確保が重要と考えられていました。そこで、高度経済成長期から現在まで、企業誘致が継続的に行われています。高度成長期には地方圏にも大企業の工場などが誘致され、一定の成果はあったと思います。しかし、80年代後半からの円高によって工場がアジア諸国に移転し、地域経済の空洞化が進行してきました。その後は観光や6次産業化など地域に根づいた産業振興も図られていますが、企業誘致も依然として重視されています。最近の地方創生でも「まち・ひと・しごと」の「しごと」は雇用機会の確保が軸になっています。
 雇用機会は地域経済の活動によってもたらされます。そして、地域経済の特徴を把握するために産業構造という言葉が使われています。第一次産業が農林水産業、第二次産業は製造業や建設業など、第三次産業がサービス業として大まかに分類されそ、れぞれの産業がどの程度の割合を占めているかを計算することで、その地域の産業構造の大まかな特徴が明らかになります。また、これまで企業誘致が続けられてきたといっても、経済の発展によって産業の特徴は第一次産業から第二次産業へ、そして第三次産業へと移行していくため(これをペティ・クラークの法則と呼びます)、産業構造は変化していくことになります。
 逆に言えば、第三次産業の比率が非常に高い地域は経済の発展が進んでいる地域と言うこともできますし、逆に第一次産業の比率が非常に高い地域は遅れている地域と言えるかもしれません。ただし、地域に固有の産業があることも忘れるわけにはいきません。例えば、私が長らく暮らしていた福井県には多くの原子力発電所が立地していて、これは第三次産業に属しています。また、県内には眼鏡枠で国内シェアの大半を占める地域や繊維産業の盛んな地域もあり、これらは「地場産業」として第二次産業に属しています。福井県はこれらの地場産業に代表される「ものづくり県」とも呼ばれ、産業の特徴が地域の特徴そのものとなっています。確かに眼鏡枠や繊維産業は海外製品との競争で厳しい環境に置かれていますが、地域が遅れていることを象徴するものではありません。産業構造は多面的に捉える必要があります。

 そのうえで分析したいのは、雇用機会の変動です。例えば、第一次産業と第二次産業、第三次産業の就業者数がそれぞれ100人、400人、700人だったとしましょう。合計1200人が何らかの産業に従事していることになります。それが5年後には80人、350人、900人になっていたとすれば、5年間の増減はそれぞれ△20人、△50人、+200人となります。これは、産業ごとの雇用機会の増減に他なりません。第一次産業と第二次産業は確かに雇用機会が減少しているものの、第三次産業はそのマイナスを大きく上回る増加となっているため、トータルでは雇用機会が130人増加したことになります。つまり、産業構造が高度化しながら雇用機会も増えているという結果になるわけです。
 では、この雇用機会がどのように変化したのか。ここから先は推測になりますが、例えば第一次産業と第二次産業に従事していた人々の一部が第三次産業に移ったことが考えられます。あるいは、他の地域から仕事を求めて転入してきた人がいたり、これまで仕事をしていなかった人が就職したり、といったことも考えられるでしょう(ただし、正規雇用とはかぎりません。パートなどの非正規雇用が増加している場合は雇用の質にも関係してきます。この点も重要ですが、複雑になるのでここでは省略します)。どのような産業で雇用機会が喪失し、どのような産業で雇用機会が創出されたかを知ることは、その地域の経済の動きをそのまま知ることにつながってきます。

 ここで、産業構造について何点か注意事項を述べておきたいと思います。
まず、産業構造という言葉が表すものについてです。ここでは就業状態に着目していますが、必ずしもそれに限定されるわけではありません。例えば事業所の数であったり、売上高であったり、付加価値額であったり、産業の活動によって生じるさまざまな側面のどれに光を当てるかによって、産業構造は多様な捉え方ができます。ここでは人口の動向からスタートしているため就業状態に焦点を当てましたが、何に注目するのかを明確にしたうえで産業構造という言葉を使うのが誤解を避けるために必要です。
 次に、産業の分類です。ここでは単純化のため産業を3つの分類でしか述べていませんが、産業分類は最もおおまかな大分類から最も細分化された細分類まで、いくつかの分類方法があります。今回の3つの分類は大分類よりもさらに大まかなものなので、実際の分析産業構造を表す際には基本的に大分類を使うと良いでしょう。
 なお、産業分類については、適宜見直しが行われています。特に情報化が進む昨今では、情報系の産業が新たな分類として設定されているようです。その他でも見直しが行われているので、産業構造の推移を細かく調べる場合は分類の見直しが行われているかどうかも確認しておきましょう。
 最後に、産業構造を調べるための統計が複数あることです。代表的なものは国勢調査と経済センサスの2つです。前者は人に焦点を当てているのに対して、後者は経済活動に焦点を当てたものです。視点が異なるため、地域別の結果にも多少の違いが出てきます。また、産業分類も必ずしも一致しているわけではないようなので、産業構造を調べる場合には国勢調査と経済センサスを混同しないよう気をつけてください。
 いずれにしても、産業構造は経済活動の状況を把握するうえで重要です。とりわけ。就業状態は雇用機会を表すので、地域の人口動向と同等の意義を持っていると思います。
 次回も、就業状況について述べたいと思います。

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