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猟師が作る猪ドーナツ

猟期が始まる前の10月、私たちは夢だったドーナツ屋をオープンさせた。
はっきり言うと、ここまでの道のりは非常に大変だった。狩猟より圧倒的につらかった。

運を味方に

きっかけは、とある交流サイトでの募集だった。元パン職人である夫は、現在会社員をしながら狩猟をしているが、そもそもは自分のパン屋を開きたいという夢を持っていた。いつかお店を・・・そんな夢を心にしまいながら、出来ることからコツコツとしていたある日、テナント使用レンタルの募集があった。自宅から1時間程の観光地だった。

ひとまず話を聞くため、私たちはオーナーとコンタクトを取り、実際にお店の内見をすることになった。そこは、想像していた以上のメイン通りで、好立地。しかも格安で借りることが出来たので、私たちは3日間限定ではあるもののドーナツ屋の開業をすぐに決めた。

夫は経験があるものの、私は飲食の仕事は未経験。不安がない訳ではなかったが、オープンを決めてしまったので、もうやるしかなかった。狩猟を経験した事で、コツコツとやれば、何とかなるだろうという自信が付いていた。回りだした歯車に乗ってしまえば動かざるを得ないのだ。

ちなみに、パン屋なのになぜドーナツ?と言われるが、ドーナツは発酵生地で作るため、パン職人の技術が生かされる分野で、原材料の負担がパン屋より抑えられるうえ、無限の可能性があるので、お試しで始める我々と今の時代に合っていた。そのため、”ドーナツ屋をやりたい”と、ひとまずの夢を変更している。

猪ドーナツ誕生

ドーナツ屋のオープンまで4か月近くあった。しかし、オープンを決めた時点では、一切ドーナツのレシピが出来ていない。そのため、ここから地獄の商品開発が始まった。ドーナツの種類は、イースト生地、クッキー生地、チュロス生地。3種類全7パターン。少ないようにも思えるが、完璧主義で職人気質の夫が納得行くドーナツを作り上げるまでは果てしなく、試作は幾度となく繰り返され、オープン当日まで改良は続いた。(コーヒー、ドリンクメニューもあります)

世の中に出回るドーナツレシピの嘘。デタラメ。これらに翻弄された。試作の苦戦原因にもなり、情報化のメリットとデメリットを目の当たりにした。

そして、ドーナツブームの中、本当に美味しいと言えるのか?というクオリティーの低いもの。それらが許せなかったし、世の中に見せつけたい気持ちでもあった。だからこそ、試行錯誤して納得のいく味を追求した。この努力の継続と粘り強さは、狩猟を経験したから身に付いたものだと思う。私は、すぐに諦めやすい性格だったが、随分と成長したものだと我ながら思う。

そして、その中で生まれた「猟師が作る猪ドーナツ」。
これは初めて獲れた猪をイメージしたもので、その命への感謝を込めて作った。味はキャラメルホイップ。決して猪肉が入っている訳ではないので安心してほしい。

大成功と代償

ドーナツは想像以上に売れ、お客さんは非常に喜んでくれた。次回オープンを願う声も多数頂き、自分たちのお店の周りに沢山の人がいて、老若男女がドーナツをほおばり、「美味しかったです!」と言ってくれたり、「もう一つください」と続けて購入してくれたり、その嬉しさは味わったことがない感情だった。努力した事がこれ程まで報われたのは初めてだったかもしれない。

接客すら10年ぶりの私は、精神的にも肉体的にもギリギリだったのだが、挑戦してみて良かったと心から思った。

ただ、ドーナツ屋を3日間営業した翌日、私は会社の健康診断があったのだが、ご飯も食べずにドーナツを作り、売り続けたものだから、しっかりE判定が付けられた。トホホ


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