タテ割り・既得権益・悪しき前例主義の打破へ。続投の小泉進次郎環境大臣と梶山弘志経産大臣の連携がすでに始まっている。

 9月16日、「縦割り、既得権益、悪しき前例主義の打破」を掲げる菅義偉内閣が発足した。新内閣の人事に注目が集まったが、僕は小泉進次郎・環境大臣と梶山弘志・経済産業大臣が続投となったことに注目したい。環境省と経済産業省にまたがる領域にこそ、縦割り行政の打破、霞ヶ関全体のなかに横たわる大きな非効率な既得権益の壁があるからだ。

 小泉進次郎は、環境相に就任したばかりの 2019年9月の国連気候行動サミット(ニューヨーク)や12月のCOP25(マドリード)での発言が、メディアに批判されたことが記憶に新しいと思う。ここではその詳細は述べないが、石炭火力発電の廃止や温室効果ガス排出削減目標の決定権は環境省にはないため、進次郎は火力発電を是認する日本政府の方針を述べることしかできなかった。
 メディアは表層的なことしか報道しないので、背後にある構造的な問題を提起しようとしない。よくある進次郎批判である。
 たとえば、コロナ禍のなか 進次郎が政府の新型コロナウイルス感染症対策本部会合に1度だけ欠席(代理で環境政務官が出席)した。日曜日に開かれた地元の後援会の新年会に出ていた、と共産党議員に追及されメディアでも批判された。脇が甘い面があったのは事実だが、この日の会合はわずか11分である。この政府対策本部会合が形式的な「御前会議」に過ぎないことはこれまで指摘してきた通りだ。発言の機会もなく意思決定に関わりのないものであれば時間の無駄ではないかと思ってしまう、それもあながち否定できない(詳しくは拙著『公〈おおやけ〉』NewsPicksパブリッシング刊、を参照)。

 しかし、その後の進次郎は目に見える成長ぶりを見せている。
 2020年1月21日の記者会見で、石炭火力プラントの輸出の在り方、「輸出4要件」について問題提起した。ベトナムで進められてきた石炭火力のプラント建設計画で、設計・調達・建設をするのは中国とアメリカ企業で、日本は商社が出資するだけだったのだ。

「今日は1件具体的なことに触れたいと思いますが、今、ベトナムの石炭火力、ブンアン2という案件があります。この件に関しては、実態としてどうなっているかというと、日本の商社が出資をして、そしてJBICが入り、これは結果的にプラントのメーカーとして中国のエナジーチャイナ、そしてアメリカのGE、こういった形で成っています。私は、今までこの4要件の話の中でさんざん聞いてきた一つのロジックというのは、日本がやらないと中国が席巻すると、そういったことも聞いてきました。しかし、この構図は、日本がお金を出して、結果、つくっているのは中国とアメリカと、こういう実態を私はやはりおかしいと思います。こういった具体的な事例が見つかったことも一つ契機としまして、各省庁との議論、そして問題提起を引き続き行っていきたい」(環境省、2020年1月21日、「小泉大臣記者会見録」)

 日本の石炭火力は効率が高いはずだったのに中国に追いつかれていて、日本企業は資金を提供しているだけというのが現状なのである。このあたり、メディアがきちんと説明していない。
 石炭火力発電事業は、発電所に関する権限が経済産業省にあり、環境省には発言権がなかった。この構造的な問題を変えていこうというのである。その際には、環境省に「ファクト検討会」を設置するなど、最新のファクトやデータに基づいて意思決定ができる環境を作り上げようとしている。
 そして、7月には「インフラシステム輸出戦略」において、石炭火力の輸出の支援要件を厳格化し、「原則支援をしない」との文言を入れることができた。この背景には、梶山経産相との連携や、菅官房長官(当時)の理解があったと言われている(2020年7月9日、「経協インフラ戦略会議」)。

 さらに、国際的な発信にも取り組んでいる。コロナ禍のなか、気候変動に関する国際的なオンラインイベントが開かれているが、4月に開催されたドイツ主催の会合(ペータースベルク気候対話)でメルケル首相やグテーレス事務総長のスピーチが行われ、進次郎が二人へ質問をし、「オンラインCOP」の開催を提案した。コロナ禍によってCOP26は来年の11月に延期されることになっており、気候変動対策を国際的に話し合う貴重な機会となると期待され、実際に9月3日に進次郎が議長を務めて実現した。
 このオンラインCOPには最終的に計96カ国が参加し、気候変動関連のオンライン国際会議としては世界最大規模の会議となった。日本が議長国を務めるのは京都議定書が決められた1997年のCOP3以来であった。進次郎は9月4日の記者会見でこう振り返った。

「石炭火力輸出方針の抜本的転換やゼロカーボンシティのうねりをつくり出したことなど、脱炭素に向けた日本の前進をしっかりと世界に伝えることができました。日本がCOP3以来の気候変動閣僚級会合で議長を務めることで、まさに環境先進国日本の復権に向けた大きな一歩を踏み出したのではないかと思います」(環境省、2020年9月4日、「小泉大臣記者会見録」)

 来年の2021年に延期されたCOP26までに「地球温暖化対策計画」(環境省)の改定が予定されており、これに合わせて「エネルギー基本計画」(経産省・エネルギー庁)の再検討も開始されることになっているが、日本のエネルギーは石炭火力と原子力に依存したままでいいのか、それまでに環境省と経産省・エネルギー庁の縦割り状態を改めて議論しなければならない。

 小さな見直しは始まりつつある。
 今年の7月3日、梶山経産相が記者会見で再生エネルギーの普及を促進するために、送電線の運用ルールを見直しすると表明した。
 じつはこの問題は太陽光発電や風力発電、あるいは地熱発電といった再生可能な自然エネルギーの普及を阻害してきた問題だった。
 たとえば、稚内では風力発電をやっているが、その電力を札幌に送れないのだ。送電線には電力を送るキャパシティーに限界があるからだと思われていたが、じつは電力会社が送電線の使用を認めないという原因もあった。電力会社が既存の火力発電のため送電線を先着優先で仮おさえして排他的に独占していたのだ。
 2019年に東京電力が重い腰を上げ、全国に先駆けて、千葉県の火力発電の送電線の運用を変更する実験をやったところ、利用ルールを見直せば自然エネルギーで発電した電気を送ることができるとわかった。
 長期的には送電線自体の増強は必要だが、改革をすれば送電線を効率的に運用できるということだ。つまり、非効率な部分があるのにそれがずっと放置されてきたということでもある。

 エネルギー政策というと、日本国内では原発をどうするかがクローズアップされるが、世界ではいかに脱炭素社会を実現するかが問題となっており、そのために自然エネルギーの利用を促進するのが国際的潮流となっている。送電線の排他的独占運用の見直しなど変化は起きているが、世界の速度に追いつけていない。
 かつて日本は省エネ分野では先進国だったが、国際社会のトレンドの変化に追いつけず、気がつけば後進国になっているのが現状だ。現在はじわりじわりと国際的な「外圧」により変化を促されているが、いつ「黒船」がやってくるかわからない。
 今回の閣僚人事で小泉・梶原両大臣の続投が決まったことは、改革を進めていくという姿勢の現れだと思う。エネルギー政策と地球温暖化問題は、専門性が高く、いっぽうで情緒に流されやすい、そういう分野だ。注意深く改革への兆しをとらえる必要がある。
日本のメディアにはいちばん苦手とするところだが、あらためて「ファクトとロジック」にもとづいてチェックしていく必要がある。



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