見出し画像

1.8新日本プロレスvsNOAH対抗戦・横浜アリーナ大会雑感


昨年11月下旬に突然発表された新日本プロレスとNOAHの団体対抗戦。
コロナ禍で沈鬱した業界や世の中を元気にするために両団体が合意、収益の一部は日本赤十字社を通じて医療従事者に寄付するそう。

といった建前を「ようは自分たちだけでは客が入らないから俺たちを頼ったってことだろ」(拳王)と出演者自ら率先して崩すのがプロレスの奥深いところです。
まあそのあたりはどちらの団体もお互い様なのだが。

横浜アリーナに来るのは2001年の大日本プロレス以来。
チケット完売。
さすが対抗戦。
それでも
観衆:7,077人
と聞いてそんなものなのか、と。
フルで入れたらこの倍の人数入るのに。

新日本が過去に行ってきた団体対抗戦を紹介するVTRからの対戦カード発表、試合突入。
客席の反応熱い。
声出せないのに前のめりな感じがする。

▼第0-1試合 シングルマッチ 10分1本勝負
[新日本]△藤田晃生
10分時間切れドロー
[NOAH]△矢野安崇

新日本とNOAHの若手同士の試合。
10分時間切れは順当なんだけど、逆エビ固めに行く時に相手の頭踏みつける藤田の性格の悪さが新日のレスラーぼくて今後伸びそうな予感。

▼第0-2試合 6人タッグマッチ 20分1本勝負
[新日本]天山広吉/○小島聡/永田裕志
12分18秒 ラリアット→片エビ固め
[NOAH/ファンキーエクスプレス]●キング・タニ-/モハメドヨネ/齋藤彰俊

この20年間大きく浮き沈みしてきた両団体に身を捧げてきたベテランたちによる対抗戦。
ってタニーここに入るの早くない?
ヨネ、彰俊というまったくファンキーさのない2人とファンキーエキスプレスというユニットを組んでたが「やらされてる感」がすごかった。DDT行ってフェロモンズ入ってこいよ。

往年の0.7倍くらいのスピードで俊敏に動き回る永田、天山、小島を見て、昔あなたたちが若手だった頃、新日本はよく横浜アリーナでやりましたよね…と感慨に浸る。
清宮海斗が大人エレベーターに乗って53階で降りたら永田裕志がいて、「プロレスラーって何ですかね」と聞くと永田がビールを飲みながら「会社のためなら開催3日前の総合格闘技のオファーも受けることかな……いや、もうそんな時代じゃないな。ふふ」と苦笑いするCMが見たいです。

ここから本戦。

▼10人タッグマッチ 30分1本勝負
[新日本]後藤洋央紀(CHAOS)/○YOSHI-HASHI(CHAOS)/石井智宏(CHAOS)/田口隆祐/マスター・ワト
11分42秒 逆エビ固め
[NOAH]原田大輔(桃の青春)/大原はじめ/稲葉大樹(フリー)/稲村愛輝/●岡田欣也

余り…もとい、両団体の精鋭たちによる10人タッグ。
稲村と石井の対戦がよかった。

こうやって見るとNOAHの選手ってみんな若いなーと感じる。
新日本は今日の大会で本戦に出てる20代の選手がマスター・ワトしかいない。
高橋ヒロムもSHOも30代。
今日出てないグレート-O-カーンが30歳。
そこらへんですよね。

▼シングルマッチ 30分1本勝負
[新日本/HOUSE OF TORTURE]○SHO
8分20秒 片エビ固め
[NOAH/桃の青春]●小峠篤司

今大会唯一のシングルがこの2人で、レフリーのブラインドをついてスパナで殴ったSHOがあっさり勝つという古典的な試合。
小峠はどこに向かってるんだろう。

▼タッグマッチ 30分1本勝負
[新日本/BULLET CLUB]石森太二/●外道
5分59秒 ヘデック→体固め
[NOAH/STINGER]○HAYATA/吉岡世起

久しぶりに動いてる外道さんを見られてよかった。試合中、ずっと「フヘヘ」「カマカマカマ」みたいな何語かわからない言語しゃべってるね。しゃべりプロレス。
NOAHのジュニア王者であるHAYATAにさっくり敗北。仕事だ。

BULLET CLUBとして出てる石森ももとはずっとNOAHにいて(2006年~2018年)、このあとに出てくる選手を見ててもあちこちの団体を流動してる人が多いわけで、そういうのを見てると今日は『いま新日を職場にしてる人vsいまNOAHを職場にしてる人』の争いなわけだな…と実感する。
そもそも両団体のトップであるオカダ、鷹木、中嶋、武藤、拳王…このあたりみんな外様なわけで。
中途採用社員とプロパー社員が力を合わせる、現代的な会社模様をそのままプロレスが反映している。

▼タッグマッチ 30分1本勝負
[新日本/鈴木軍]○エル・デスペラード/DOUKI
9分9秒 ピンチェ・ロコ→体固め
[NOAH/PERROS DEL MAL DE JAPON]●NOSAWA論外/YO-HEY

論外が始めたペロスデルマールデハポンというメキシコで人気のユニットを日本に持ち込む…という、どこかで聞いたことある話のもとになったユニット「PERROS DEL MAL」に一時期DOUKIがよく呼ばれて、それを紹介したのが論外だった、というバックステージ逸話が興味深かった。

前の試合はNOAHのジュニア王者に外道さんがあっさり負けて、この試合はIWGPジュニア王者のデスペラードに論外があっさり負ける。
良好な取引関係。

▼6人タッグマッチ 30分1本勝負
[新日本/鈴木軍]鈴木みのる(パンクラスMISSION)/タイチ/●TAKAみちのく(JTO)
9分37秒 オリンピック予選スラム→体固め
[NOAH/杉浦軍]○杉浦貴/桜庭和志(フリー)/X=矢野通(CHAOS)

杉浦軍に臨時加入するはずだったKENTAが5日のドームの棚橋戦でケガして(ムチャな試合してましたね)欠場、代替選手はX。
誰?と思ったら矢野通。
これは予想しなかった。
声を出してはいけない会場から大きな「エー!」というどよめきが起きました。
俺はケンドー・カシンだと思ってた。

そういや何年か前のドームで鈴木みのるvs桜庭とかやったな…みのるが白衣装になって、とか思ってたら今日はまったく絡まなかった。まっったく。
なんかあるのか。

女性問題で首を切られたTAKAがサラッとカムバックしてて、そしてうまく試合を回していた。

▼タッグマッチ 30分1本勝負
[新日本/HOUSE OF TORTURE]“キング・オブ・ダークネス”EVIL/●ディック東郷(みちのく)
9分53秒 豪腕ラリアット→片エビ固め
[NOAH]○潮崎豪/マサ北宮

潮崎とEVILのマッチアップは何を狙ったんだろう。
デイックさんが仕事をしていた。

▼タッグマッチ 30分1本勝負
[新日本/鈴木軍]ザック・セイバーJr./●金丸義信
15分20秒 不知火→体固め
[NOAH]小川良成(STINGER)/○丸藤正道(M's alliance)

新日本vsNOAHという大会だが実質NOAH再会マッチ。
ザックと小川は長いことタッグパートナーで、金丸と丸藤は長いことライバルだった。
往年のNOAHファンがみんな喜んだと思う。

▼ダブルメインイベントI 60分1本勝負
[新日本/Los Ingobernables de Japon]内藤哲也/○鷹木信悟/SANADA/高橋ヒロム/BUSHI
26分33秒 ラスト・オブ・ザ・ドラゴン→片エビ固め
[NOAH/金剛]拳王/中嶋勝彦/征矢学/●タダスケ/亜烈破

入場してくる両チーム見て“華”の差が否めなかった。
新日本はやっぱり業界トップなので、選手を“スター”に見せる方法を知っている。
NOAHは長年その方面に関心が疎く、ようやく最近始めた。その違いではあるんだが、いざ目にすると「うーん、これは…」になってしまう。

金剛は拳王がみちのく時代にやってた「阿修羅」というヒールユニットを発展させたものに見える。
阿修羅もイメージカラーは赤で、試合後に拳王が観客に「頭の悪いお前らに、明治大学を卒業して教職免許を持っているこの俺が説明してやる」と説教を始めるのが恒例の、全国の明治大学OBと教職免許を持つ人に風評被害が及ぶので早くやめてほしいヒールだった。

それはともかく、拳王の考えるヒール像は団体の主流派や幹部に「お前らの舵取りは間違っている」と否定してイニシアチブを取るクラシカルなスタイルで、それはいいのだけどそれ以上が特にない。
維新軍にせよUWFにせよnWoにせよロスインゴにせよ、人気出るヒールユニットはその「反逆」のあとに「なんとなく見てるファンがモヤモヤと思ってることをプレイヤー側から汲み取って代弁する」能力が求められてると思うのだけど、拳王にはその「汲み取る能力」が弱い。なので皮膚感覚だけで仮想敵を論破しようとする。
サイバーファイトフェスで高木社長に「おまえはNOAHのことなんか全然考えてねえじゃねえか」と噛みついたのが象徴的で、そもそも大社長はサイバーグループ全体の統括管理者になったので単純にNOAHのことは武田取締役に任せて、その上から口を出さないようにしてるに過ぎない。
そういうマッチメークになってなんとか盛り上げようとして出た言葉なのだろうけど、何か見てる側の思いからは横滑りする。
そして常に「言い過ぎる」。
「何が業界No.1だ、俺たちの方が上なんだ、ひっくり返してやるからな!」
みたいな言葉を連ねれば連ねるほど拳王が内側に抱えるコンプレックスや不安が垣間見えてしまう。
「見てもらえればどっちが上かわかりますよ」というオカダや棚橋の態度は言葉に説得力を持たせる。それが事実かどうかはまた別にしても。

拳王や中嶋のプロレスはハードヒットで、痛いことをやってるのはよくわかる。
もちろんハードヒットだから上、という単純なものではないが、そこに自信を持ってほしい。
拳王が言うべきだったのは「俺たちの方が強い」と言うのではなく、「ロスインゴのみなさん、何でもやってきてくださいよ。全部受け止めますから。その代わり、そちらは俺たちの攻撃受けられますか?」みたいなマウンティングであって、そこで初めてイニシアチブを取れたと思う。

ただ繰り返すがプロレスは「ハードヒットだから上」というものではなく、当たりの強さは表現の一つにすぎない。
この試合で印象的だったのが終盤、内藤が拳王の腕を捉えたままずっと首筋にエルボーを打ち続けた場面で。
あそこは「ほら、効くでしょ。動けないでしょ。こういうのもあるんだよ」と内藤が拳王に言ってるように見えた。

試合は鷹木がタダスケを抑えて勝つのだが(この2人も闘龍門新弟子時代同期だったらしい)、終わったあとも拳王が内藤に突っ掛かって、そこを内藤が倒したところで勝ち名乗りを上げたことで明暗がハッキリしてしまった。
だからそういうのは弱く見えるんだって…いいかげん気づいてくれ拳王…。

とはいえ金剛に剣舞だったさときゅんを入れて覇王にしたり(剣舞がヨーロッパ遠征中にタッグ組んだりタイトルマッチやったのがヤングライオン卒業後の高橋ヒロムだったそうで)、みちのくプロレスに強い思い入れがある人間としては、NOAHで一番気になるのは拳王なわけで。
がんばってるのはわかるよ。
でももう君は東北じゃなくて「世界」を相手にしないといけないんだから、それにともなう振る舞いを覚えないと。

まあでも、この期に及んで入場曲が「失恋モッシュ」なのも含めて、垢抜けないのが拳王の良いところなんだろうな。
鈴木みのるの「か・ぜ・に・なれー!」みたいに、いつか観客が「なーみだーのしーつれんモ~(シュ)」と合唱する日は来るだろうか。

▼ダブルメインイベントII 60分1本勝負
[新日本]棚橋弘至/○オカダ・カズチカ(CHAOS)
24分34秒 レインメーカー→片エビ固め
[NOAH]武藤敬司(M's alliance)/●清宮海斗

このタッグマッチがメインイベントになると決まった時点で「ああ、これは勝敗関係なくNOAHのための大会だ」と思った。
オカダも棚橋も武藤も、もうこの試合で評価が上がることはない。
清宮だけが上がることができる。
NOAHファンはオカダも棚橋もよく知ってるが、新日本のファンは清宮を知らない。
清宮だけがポイント上がる試合になっていた。

たぶんそのあたりオカダも棚橋もよくわかってて、ゆえに「なるべく清宮にお土産を渡したくない」という気持ちがそこかしこに出ていた。
オカダは場外に落ちた清宮に
「調子乗ってるんじゃねえぞ。さっさと上がってこい!」
と言葉を荒げ、いいところまで攻めながら敗れた清宮が涙を見せると
「こんなんで泣いてんじゃんねえぞ。帰れ! コノヤロー」
と続けた。
ああ、オカダ焦ってる…!とザワザワした。
締めのマイクでも一切清宮に触れず、「プロレスっていいですね。これがプロレスのチカラだと思います。引き続き応援お願いします!」という、礼儀正しいが内容の情報量は何もない挨拶をしていた。

オカダが試合後のマイクで清宮に触れれば必然清宮に注目が当たる。
だからこういうことを言うわけだが、そんなオカダだって古くは高山善廣だったり、棚橋だったり、天龍だったりといった歴々の対戦相手から「お土産」を渡されてきている。
他団体の奴に…という意識が働いたのかもしれないが、自分のところでない選手だからこそオカダが清宮に「お土産」を渡していれば、「オカダ偉いな、業界全体のことを考えて…」と評価が上がることを、オカダは皮膚感覚でわかってない。
このあたりがいくら猪木の格好しても、結局まだ「坊っちゃん」感が抜けない理由になってると思う。
逆に武藤敬司くらい「俺は業界のことなんか知らないよ。俺は俺のことしか興味ないよ」というキャラクターを徹底できてればそれもまた強さなんだけどオカダはまだそこまでいかない。
新日本を支えるという強い自負はあるが、言われたことしかできないような頼りない部分がある。

バックステージでオカダは清宮に対してこう述べた。

「(対戦した感想は)それはもう見た人が感じてください。僕が言うとひどいことになってしまうかもしれないんで。それぐらい差があると思いますし、泣いてる場合じゃないよって。もう、名前を出さないでほしい」

オカダはキャリア18年の34歳である。清宮はキャリア6年の25歳。
しかも他団体。
普通だったら「いい選手ですね」「また戦いたいですね」で終わる。
それがこのコメント。
オカダ、どんだけ焦ってるんだろう。
どんだけ余裕ないんだ。

逆に言えば清宮はオカダにも観客にも楔を打ち込むことに成功した。
負けた悔しさに泣き、涙とともに引き上げることで、完璧に「画の中心」になった。
あの瞬間に清宮は観客の心に何かしらの感情を残し、今日の大会はこれから清宮がいつかオカダに勝つまでの物語の序章になった。かつて東京ドームでオカダが棚橋に負けて泣いたように。
一言もコメントしなくても、涙で自分がこの試合にかける思いを表現した清宮。
それを「泣くな!」と肩を貸して引き上げるのが武藤敬司で、この試合はあちこちに名場面があった。

帰り道、今日の試合を竹下幸之介は見ただろうか、とずっと考えていた。
17歳で武道館デビュー、天性の素質と鋼の肉体と稀有の運動神経を持ち「ザ・フューチャー」と名付けられた竹下ももう今年キャリア10年だ。年齢も27歳になる。
DDTで4度目のKO-Dチャンピオン戴冠を果たし、団体内で無双化した竹下。
けれどDDT内で他の選手を圧倒すればするほど『箱庭の王』という言葉が頭をよぎってしまう。

自分と同じように『プロレス界の未来』と呼ばれる清宮は横浜アリーナのメインイベントで現代プロレスの象徴とも言えるオカダ、棚橋と試合をした。負けはしたものの「試合の主役」になった。
そのことを竹下はどう考えるのだろう。
まして半年前のさいたまスーパーアリーナ『サイバーファイトフェス』では竹下は上野とともに清宮に完勝している。
本当にそのへんどう思ってるだろう。

清宮海斗の物語が始まってるけど、竹下幸之介の物語はまだ始まってもいない。
俺たちは負けて泣くぐらいの勝負をする竹下をいつ見られるんだろう。
そしてレスラーを作るのは勝利の数でなくて、舞台の数なんだということに竹下はいつ気がついてくれるだろう。 

いろんな余韻を残した #プロレスのチカラ 
ここから何が生まれるだろう。
楽しみしかない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?