愛煙戦隊キツエンジャー

プロローグ:燃えかす、再燃。

「蒸せ、煮えたぎる魂!シガーレッド!」
「空よりも高く、高貴な煙!シガーブルー!」
「香り高きバーサーカー!シガーグリーン!」
「ヤニ汚れよりもしつこいぜ!シガーイエロー!」
「貴方と煙にフォールインラブ!シガーピンク!」
『5人合わせてキツエンジャー!!』
(後景でナパーム爆発)

タバコを吸う事で能力を得ていたキツエンジャーは、時代の流れと共に忌み嫌われ、20年後には人々から『分煙』されるようになっていた。かつてシガーレッドと呼ばれた、この初老の男はソファに座り、VHSが記録した過去の栄光を、力無く眺めていた。擦り切れかけたVHSを何度も何度も巻き戻す。死んだ友の姿を脳裏に焼きつける為に。

10日前、シガーブルーが刺されて死んだ。
彼の妻であるシガーピンクは、誰よりも泣いていたが、泣いて、泣き腫らした後、心中湧き上がった決心を見据えるような眼差しで斎場を後にした。
俺はその眼を見て、彼女に恋していた時の事を思い出す。
だが不謹慎さからくる罪悪感は、思い出を元あった場所に引っ込めてしまった。

「ウィンウィン、お届け物デース」

葬式の事を思い返していると、配達ロボが荷物を持って玄関口にやってきた。
VHSを一時停止し、中を見る。
届いたのは、見覚えのあるシガーケースとキスマークのついた一通の手紙。
口紅はピンク色。

理解ってる。
これは殺しの依頼だ。
復讐への手引きだ。
死んだ友への手向の花だ。
俺はタバコ20本全部に火をつけて、ひとまとめに咥えこむ。

変異は即座に現れた。
視野が30°広がり、IQは300くらいに上昇。
身体はタンパク質を貪欲に求め、飲み込んだプロテインは即座に筋肉となる。体重は300キロを超えたはずだ。
全身に力が漲り、毛穴という毛穴から煙が吹き出す。
かつての姿を取り戻した俺は、怒張した右脚で勢い良く扉を蹴破る。
そして仇討ちの闇夜へ、文字通り煙となって消えた。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?