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あとがき

 『チャレンジ 介護士篇』を最後までお読み頂き、ありがとうございます。私が、8年前に介護の仕事を始めてから経験したこと、考えたこと、学んできたことを一つのストーリーとしてまとめる試みにお付き合い頂いた皆様に、心より感謝いたします。

 ここに登場する人物は、実在しません。それぞれにモデルとなる人物は存在しますが、一人の登場人物には複数の人物像が投影されています。むしろ、共通点を持つ人物は多いのではないかと思いますが、特定の誰かのことではありません。また、そのような人物を非難するものでも、賞賛するものでもありません。登場人物の多くは名前を紹介していますが、仮に同じ名前の方がいたとしても、決して、その方のことではありません。

 私自身、介護・福祉の仕事に関心を持ち、主人公の海野総一と共通するような事情もあり、介護・福祉の仕事を始めることになりました。率直に言って、介護の仕事は、誰でも出来る仕事、むしろ、誰にでも出来なければいけない仕事なのだろうと思います。しかし、それを職業とするには、相応の覚悟が必要でしょう。仕事として対価をもらうためには、仕事に慣れ、熟達することが求められるでしょう。向き、不向きも、当然あるでしょう。

 スピードが全てではありませんが、オムツ交換を適切、丁寧、かつ迅速に行える余裕は、トイレ、食事、入浴、移動・移乗などにおける良好な介助と同様に、利用者に対するサービスの質を高め幅を広げるでしょう。オムツ交換やトイレ介助が適切に行えないのに利用者の福祉や生活の質を語ることは無理があるかも知れません。

 一方で、高齢化が進み、高齢者の福祉が求められる現代において、なくてはならない介護・福祉の仕事は、決して待遇が良いものではありません。全産業の平均に比べて月10万円近く安いとされる介護職員の給与。その原因は何でしょうか?介護職員の知識や能力の低さが理由ではないでしょう。誰でも出来る仕事でも、誰かがしなければならない仕事、しかも、相当な質と効率が求められる仕事です。

 介護職員の給与が低い理由は、経営の問題、人事評価の問題などを除けば、介護職員や職員を代表する法人が、より良いサービスに対してより高い報酬を求めることが出来ないからでしょう。介護報酬は国が決めていて、より良いサービスに対してより高い報酬を得ることは出来ません。裕福な資産家等を対象とする特別な介護サービスを除けば、民間の介護事業者でも介護保険サービスの利用者負担分が実質的な基準価格となるでしょう。

 結局のところ、介護サービスの単価は決まっていて自己負担割合が3割の所得の高い利用者であっても介護サービスの単価が通常の利用者の3倍になることはありません。経営的な優劣はあっても、職員の給与の原資となる法人の収入は大きくは増えことはなく、職員は、全体的には、奉仕の精神で働くか、我慢をするかしかないでしょう。そして、まさに、その奉仕の精神や職員の我慢が介護サービスを支えていると言っても過言ではないでしょう。

 北欧のような高負担高福祉の社会を実現するなどして、介護職員を公務員・準公務員とする、あるいは、税金も含めて介護職員の生活費負担を軽減するなどの対策がなければ、介護職員の待遇が抜本的に改善することはないでしょう。特別処遇改善加算の導入などによって改善はあるとしても、職員間の競争や評価の見直しによって特定の職員の給与を引き上げる方法では足りないと思います。介護・福祉業界の給与水準の底上げが必要でしょう。他に方法があるとしても、そんな議論の材料やきっかけが提供出来れば良いと思います。

 ここにまとめた、私のささやかな経験や思考が、介護職員の処遇の改善や介護・福祉事業の拡充、さらには、社会の発展や人々の幸せのために少しでも役立つことを願っています。

いのくま あつし


お読み頂いた記事などをまとめて書籍化したいと思います。介護や福祉に限らず、結婚、子育て、起業、ビジネス、政治など幅広い情報交換、学び、交流の機会を設けていきたいと思います。サポートして応援して頂ければ幸いです。