その男、ポジティブにつき

その男、ポジティブにつき

あるエンジニアとの立ち話で話題に上がったチーム、人物がいる。

『今年一番気にしてるのは名城大学、O君ですね。彼はドライバーとしても速いし、エンジニアとしても貪欲。』『うちがやってることに対する情報収集もすごいし、(車両運動も)よく勉強していて知識量も多い。個人的に彼には負けたくないですね。』と2019年王者・名古屋工業大学を牽引するエンジニアが対抗心を燃やすのは名城大学学生フォーミュラチーム『MeijoRacingTeam』とそのチームリーダーにしてシャシー部門トップ、そしてエースドライバーも務めるO氏だ。

国内の大学では珍しく自動車系の学科があり、そこの研究の一環として発足された『Meijo Racing Team』(公式HP)は2003年から継続して参戦しており今年度で参戦19年目を迎える。2019年大会はエンデュランスリタイアにより総合32位と後退したものの、2017年総合8位、2018年総合6位、オートクロスでは2017年に4位を獲得するなど東海地区、日本を代表する強豪チームだ。

困難を極める2021年、この強豪チームをまとめるO氏はカートレースのキャリアを持ち、戦績も輝かしい学生フォーミュラでは稀な『本職』のドライバーで、物腰が柔らかい印象の中にも確実に勝負を意識した言葉選びをするサーキットでよく見る『ドライバー然』とした人物だ。そんな彼に注目するキッカケとなったのは2019年の大会前、関西名門カートチームのロゴが入ったヘルメットを見た時だ。それは彼のキャリアの確からしさを表していた。そんなキャリアのあるドライバーが強豪チームの名城に入ったとなれば期待せずにはいられない、なぜなら同様なケースを見てきたからだ。
世代交代によって優勝争いから遠ざかった大阪大学に同じようにカートキャリアのあるドライバーが入学、仲間とチームのリビルトに成功し2018年総合優勝に返り咲いた例は記憶に新しい。同じストーリーを想像しつつ、今年のマシンとチームについてO氏に話を聞いた。

2020年、名城も他のチームにもれず活動自粛を強いられていた。『活動が再開出来たのは9月からですね。』『そこまでは先輩たちがメインの代で、作りかけのマシンをどうするかという話になって僕らは新しいマシンを作ることにしました。』名城はこのタイミングで2020年のマシンを諦め、新しくマシンの設計からスタートすることを選択した。ただその選択についてO氏はポジティブに『自分の代になって時間もあったので(ドライバーとして)自分が欲しいマシンを考えることができました。』『こういう年なので変更規模を小さくするチームが多いと思うんですけど、僕らは逆に大きくコンセプトチェンジしましたね。』と話す。

彼が今年のマシンについて最初に話してくれたのは設計手順だ。『これまでは設計手順に課題があって、結果的にマシンが重くなってました。重配(重量配分)もフロントに寄ってしまってましたね。』特にフレームの設計手順、優先順位の見直しを図ったという。この目論見は成功し、前年度から大きく軽量化され重量配分も狙ったところを達成出来たとのこと。重量配分にはドラポジの変更も大きかったようで、昨年からヘルメットと手の位置関係が変わってよりフォーミュラカーらしいポジションになった印象だ。

またフレーム設計手順を変えたことでサスペンションジオメトリーの課題も改善したとか。これまではジオメトリー設計が後手に回っていたことで、セッティングを変えても大きく改善することが難しかったようだが今年は彼が思い描くジオメトリー設計が出来たという。他にもサスペンションでは新たにエボサスも採用している。エボサスは名工、工繊、阪大なども採用しており上位チームでは標準装備になりつつある。『エボサスは某チームの某メンバーから勧められてとりあえず付けてみました(笑)』と必ずしも理詰めだけではない柔軟さも見せる。

2019年のオンボード映像(Instagram:mrt_formula_fsae)を見て彼のドライビングとマシンのアンマッチ、マシンの動きが大きいことが気になっていたためバネ系についても聞いてみた。『バネ系は2019年大会が終わったあとすぐに上げて(硬くする方向で)テストして効果を確認しました。』『エアロも効かせたいのでバネ系は今年上げました。』とのこと。具体的な数値は載せられないが、比較的硬い方向に振っている上位チームと同じくらいになってそうだ。

こうして迎えたシェイクダウンは『2019年マシンとはもう別のクルマという感じになりました(笑)』とかなりの好感触を得たようだ。エボサスはスラロームで大きな効果を得られたようで格段に曲がる方向になったとか。ただ『変更したところのネガも確認できたのでこれから対策していきます。』と話すように、ステアリング切り始めのフロントグリップが薄いところもあるらしく、エボサスのパラメータを見直すとともにジオメトリーにも手を入れていくとのこと。

もう一つ彼が話の中で繰り返したワードは『安さ』。上位チームがマシン開発にお金をかける一方で名城はそれに逆行していくという。上位チームほどの支援を得られていないという面もあるが、彼が語る『安さ』はそうしたネガティブなものではないようだ。『うちはカウルもGFRP(※上位チームはCFRP)ですし、サイドウイングも付けてません。』『上位チームに対してはコスト審査でアドバンテージを得てトータルで戦って行きたいですね。』と話す。当然お金をかければ速いマシンを作ることは可能だが、それによってコスト審査では不利になる。そこのバランスを見て勝ちに行くための『コスパの良いマシン』を目指しているようだ。『安いマシンで(お金をかけた)名工とかに勝ったら面白くないですか?(笑)』という発言からは支援の差に対する卑屈さは微塵も感じられない。

『ひとまず今年は入賞ですね。』と堅実な目標設定を口にするO氏だが、同時に『名工との車間距離は詰められてると思います。1秒差には入れたいですね。』『マテリアルは揃ったので後はしっかり戦うだけです。』と確実な自信も伺える。今年、名城とO氏に期待大だ。

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学生フォーミュラの情報を記事にしています。 モータースポーツとしての魅力が伝わればいいな、と思ってます。Twitterでは少ないですが動画もアップしております。宜しくお願いします。 Twitter : @inokaeru