見出し画像

穂先メンマを携えた海辺の騎士 2020.12.22

街は浮足立つクリスマス前の出来事だ。

このコロナ禍という中ではあるはずなのに、仕事が最終フェイズへ近づいている関係上、製品を実機でデバッグするようなことが多かった。
そんなある日の帰り、ふと、無性にラーメンが食べたくなった。
こういう日に我慢をすると、ラーメン以外何も食べる気にならず、次の日の昼頃まで何も食べられなくなるということが何度かあった。
「仕方がない。駅前に行ってラーメンを食おう。」
そう思い立ち、ラーメン屋を求めて放浪することにしたのであった。

画像1

一言にラーメン屋を探しているといっても、そう単純な話ではない。
ラーメン屋に求めるマストはやはり、一人でも気軽に座ることができるカウンターだ
机に一人で座った時に「ここはお前が一人で座るような席じゃねぇ」という雰囲気に焦燥感を覚えることだってある。そういう時には店員さんの「どうぞごゆっくり」もなんとなく「早く出ていけ」と言われているように感じる(もちろん被害妄想だろう・・・被害妄想だよね?)
そんなこんなで、まだ行ったことがなく、カウンター席があるラーメン屋に足を進めた。

店に入り、ラーメンを見たとき、不安を覚えた。

画像2

果たしてこの貴族の好青年のようなラーメンが自分を満足させてくれるのかと。
最近食べていたラーメンは二郎インスパイアの暴れん坊将軍や、濃厚つけ麺のようなルール無用の山賊。いずれも屈強な男たちのようなラーメンであった。

しかし、目の前には上品に礼をしているようなどこぞの好青年と

画像3

お供のようについてきた爺(実際に頼んだのは自分だが・・・)。そういった感じのラーメンと土手煮丼であった。
麺は運動をしたことがないかのような、なよっとした細い麺だ。

しかし、食べてみると印象が変わった。コシのある細麺。それは、減量中のボクサーのような麺だ。
どうやら自分は見くびっていたようだ。こいつは単なるボンボンじゃあねぇ。よく鍛えられた騎士だ。
そう考えながら次は土手煮丼を食べる。土手煮丼の牛スジがとても柔らかい。長く煮込まれたのだろう。物腰の柔らかい老執事のような佇まいだ。しかし、決して主張が弱いわけではない。味噌の香りにはその年季を感じさせ、また、その上品すぎない感じからは人当たりの良さを感じさせられる。

ラーメンに箸を戻す。次に目に止まったのはメンマだ。メンマというと細い短冊のような形を思い浮かべるだろうが、この騎士はそれではなく、穂先メンマを長剣のように携えていた。
食べ進めていると、海苔が分解され、また少し風味が変わった。海だ。海風を感じる街の長剣を携えた騎士。それがお前の正体か!

などと考えているうちに完食。久しぶりにこんな上品なラーメンを食べた気がする。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?