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エトセノオンガク 3


etc.(エトセトラ)の新曲 Weekend Heroesのレコーディングに向けて、荒削りな部分を詰めたいと思っていた矢先、地元の後輩バンドマン、川口淳太が協力してくれることになった。

彼は自分の4つ下のバンドマンで、横須賀でモノクロメルトというバンドでドラマーとしてキャリアをスタートさせ、大学在学中にTEDDYというバンドを結成(この時からギターにパートチェンジ)、全国でライブをしまくった後、TEDDYは星になる。その後、横須賀でオルタナバンドFallsheepsを結成して活動、町田のMade in Me.に加入。バンドを2つやりながら音楽とデザインを生業として忙しく生活している。

現在は横須賀を離れてMade in Me.のメンバーと町田で共同生活をしているが、地元愛が深く、横須賀マインドが根っこにあるナイスガイである。TEENAGE UNITEDでエトセのライブを何回か観てくれたこともあり、彼もエトセを気に入っていた。ギター主軸の音楽が好きでギターロックの知識やアレンジの技術に長けている彼が、エトセのアレンジに入ってくれるのは心強かった。

メンバーと相談してアレンジ作業の段取りを組む。

今となっては、曲作りはDTM(デスクトップミュージック)というパソコンで録音をしながら曲を作るのが一般的になりつつあるが、エトセはスタジオで集まって、みんなで合わせながら曲を作るスタイルなので、アレンジ作業もスタジオに立ち会う形で行うことになった。

2020年3月6日 藤沢 太陽ぬ荘。

昼過ぎに、実家に泊まっていた淳太を車で拾って、藤沢のスタジオへ向かう。横須賀から逗子に出て、134の海沿いの景色を堪能しつつ、淳太オススメの音楽を聴かせてもらいながら藤沢へ向かうとあっという間に着いてしまった。集合時間の30分前。思ったより早く着いてしまったが、スタジオのロビーにはすずが座って本を読んでいた。小柄な彼女はこういう時、見た目通り小さくみえるが、ライブになると存在感が増すせいか小柄には見えない。見た目に反して、ベースの音も日に日にヤンキーみたいなブリっブリな音になってきているのが面白い。

続々とメンバーも集まってスタジオに入って準備をする。「先入っててください」と淳太は喫煙スペースで煙草をふかしに行った。煙草を吸ったことのない自分は分からないのだが、だいたいは休憩感覚で吸っている人がほとんどだと思う。しかし、その時の彼は集中力を高めるルーティーンのように煙草を吸っているような印象だった。

セッティングが終わりアレンジの作業が始まる。その前に改めてお互い一礼と挨拶。こういうのもバンドマンとして大事なことだと感じる。「いつも通り、最初のイントロから始めて、気になったところで止めるから、演奏してみて」と淳太が言うと、音が鳴り始める。

椅子に座っていた淳太が立ち上がり、いきなりイントロでストップをかける。イントロはギターのアルペジオから始まって、2まわしめでベースが一瞬入ってきてほしい、とのこと。その細かい一瞬のやり取りと彼のアンテナの繊細さが分かった瞬間、この曲の強度が高くなることを確信した。

そのあとは、なごのギターフレーズを少しだけ変化させたり、ドラムのフレーズやフィルを改善したり、サビ終わりのブレイク部分でハモリを加えたり、部分部分を丁寧にアレンジして、荒削りだった曲が段々ときれいにまとまっていく。

エトセはメンバー全員がいろいろな音楽を聴いてるが故に、曲作りが「足し算」と化してあれこれ要素やフレーズを詰め込む傾向にある。それもそれで魅力的な音楽を生み出すが、時には「引き算」をしてシンプルにしたほうが良い場合もある。今回は引き算が中心になった。

ちなみに2:07ぐらいのドラムのフィルは、本来もっと手数が多く、最後はブラストビート(シンバルとスネアを高速で交互に刻む、ヘビーメタルのドラム)みたいなフレーズだったのだが、かなりシンプルに変更した。「いやー、ブラストビート残したかったなぁ」と淳太とふたりで笑いながら話をしていたが、冷静になるとこの曲にブラストビートはどう考えても合わない。だが、ジャンルが全く異なるブラストビートをぶっ込む、ゆーなのセンスは面白くて好きだ。

淳太がドラムセットに座り、フィルを提案する。彼自身本来のパートはギターだが、高校時代にモノクロメルトや、最近までMade in Me.でドラムを叩いていたので、ドラムも上手い。特にスネアの鳴らし方が良い。スコーンと芯までスネアが鳴るように一打一打叩くのが印象的。彼が提案したフィルやビートは、なかなか難しいので淳太が叩くところをゆーなが動画で撮って、家で練習してくる流れになった。

エトセのメンバーも自身の曲がブラッシュアップしていく高揚感のせいか疲れなど全く見せることなく、あっという間に3時間のスタジオ練習が過ぎていく。大人二人はキチンと集中力を使い果たし、バッチリと疲れていた。若いって羨ましいな。

アレンジの作業とは別の話。この日のスタジオ料金は大人二人が加わっていたため、学生料金が適用されず、エトセのメンバーの手持ちの現金じゃ足らないことが発覚した。こういう時にさっと足りない分のお金を出すのが大人の対応だが、たまたまこの日、家を出る時に財布を忘れてしまった。しょうがなく、メンバーの家族を来させてしまうという事態になり、レーベルの代表として恥ずかしい出来事となった。足りないお金を持ってきてくれたなごのお母さんは、なごにそっくりだった。(以前にも書いたが)

結果として、淳太のおかげでWeekend Heroesのアレンジは綺麗にまとまった。その次はレコーディングに向けて、家での練習の仕方を伝えてこの日は解散した。スタジオを出るとまだ寒かったが、この曲がリリースされる頃には暖かくなるかなと思いながら、134を車で走らせて帰宅した。

淳太は良い仕事をしてくれた。次はレコーディングやディレクションをする自分の番だと言い聞かせてレコーディングに向けて気合を入れ直す。かぼちゃ屋でレコーディングする日程と時間を確認するため、どこかに置いたスマホを探した。(続く)


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