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人の話が聴けなくなる時

人間関係は「人の話を聴くこと」からスタートすると言っても過言ではありません。
しかし、人の話を聴くことほど難しいことはありません。

人の話を聴くプロフェッショナルにとっても難しいことです。
「カウンセリングに行ったのにセラピストの苦労話や自慢話を長々と聞かされた」といった話をときどき耳にします。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
それは、人の話を全身全霊で聴くよりも、自分の話したり、アドバイスをすることの方がずっと楽で、簡単だからです。

長年、「共感力ワークショップ」で多くの人と話を聴く練習をしながら、
「人が人の話を聴けなくなるのはどんなときだろう?」とじっと観察してきました。
そこで気づかされたのは、聴き手が自分自身の過去の体験における未消化な感情に引きずられているときに、相手の話を聴けなくなるということです。
話を聴いているうちに、自分の内面が揺さぶられて苦しくなるので、聴く役割の人自らがおしゃべりをしだすのです。たとえ言葉を口にしなくても、頭の中のおしゃべりが始まったり、思考停止に陥って聴けなくなることもあります。

話の聴き方や心理療法を習って、どんなに頭で理解していても、その使い手の心が揺れていたり、相手を変えてあげなければというエゴに走ったり、
自分のことでいっぱい、いっぱいであれば、真の癒しをもたらすことはできません。

真の癒しをもたらすためには、まずは自分の感情に寄り添い、自分に共感して自分の内面を整えることから始める必要があります。
とはいえ、人は自分の良い面だけ、楽しいことだけ、明るいことだけを見て生きていきたいものなので、自分に向き合うことは勇気のいる作業です。
自分に向き合うためには、見たくもない自分の弱いところや、なかったことにしたい過去にも直面しなければなりません。不快だった出来事や感情を思い出し、つらかったり、苦しかったりして、ときには逃げたくもなります。それでもやはり、この作業なくして人の話を聴けるようにはならないのです。

マインドフルネスでも有名なベトナム人禅僧ティク・ナット・ハンも
著書「沈黙」の中で次のように述べています。

真の友、真の同僚、真の親、真のパートナーになるためには、慈しみの心で聴ける心の余裕(空間)をもつことが必須です。うまく聴けるようになるのに、心理療法のプロになる必要はありません。実際、セラピストの多くはいつも苦しみを抱えているので、この能力を欠いていることが多いのです。
長年心理療法を学んできて様々な技術をもとめながら、心のなかではクライエントをうまく癒しや変容に導けなかったと悩み、クライエントから痛みや苦しみを受けながらも、心のバランスをもつための気晴らしや喜びもないので、効果的治療に必要な心の余裕(スペース)がないのです。
患者の方は治療のためにセラピストに多額の金銭を支払い、何週間も通って診療を受けますが、カウンセラーに慈悲の心で内面を聴く力がなければ患者を救うことはできません。
セラピストやカウンセラーも同じように苦しみをもつ人間です。他者の心を聴くためには、自分自身に優しく語りかける能力が先決なのです。
「沈黙: 雑音まみれの世界のなかの静寂のちから」ティク・ナット・ハン著 より引用

InnerCore9の「感情力講座」では、感情についての私たちの学びや気づきをお伝えし、皆さんと一緒に自分を見つめる作業を楽しませていただいてきています。
受講者とお互いの気づきを分かち合えるのは参加者だけでなく、私たちにとってもかけがえのない時間です。
そこでの分かち合いがさらに、自分との対話の質を高めてくれます。
人は人とのかかわりの中で成長をしていくのだと気づかされています。

InnerCore9 オンライン感情力講座

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