見出し画像

感謝の表現方法~その3分の為に行動できるか~

「いや、だから金払わせてください!」

強めの口調でそう言い放つ彼に、その日僕はもう勘弁してくれと思いながら電話口で謝罪していた。

いやもっと正確に言うと、なんで俺謝ってるんだろう?という感情だった。

72歳の電気主任技術者である、Kさんの再就職を支援した。

定年後生き甲斐を失っていたKさんへの支援はそりゃもう大きな介在価値を感じることができたし、支援した企業からは止まっていた発電プラントの再稼働ができてめちゃくちゃ感謝された。

ではなぜ謝っているのか。

Kさんに言わせると、ただただ恩を受けて何も返さないのは人の道理に反する、というロジックだった。

まぁ、、、理論上分からなくはないが、当時6年も転職エージェントとして働いてきてそんなことを言われたのは初めてだったし、そもそも僕たちは企業側からコンサルティングフィーをもらっている。

まず前提で、この御礼だってビジネスのフィールド上の話じゃないか。
その辺テンポよくいきたい。

Kさんに対してもう1時間近く「いや、だから候補者側は無料のサービスなんですよ」と説明しているが、分かってくれない。

タブーじゃないかと思いながらも「実は企業からお金は頂いているんですよ」とまで説明してみたが、一向に話は平行線だ。

「もういいです!話が通じない人だな!!」

と吐き捨てられ、受話器を強めに置かれて電話は切れた。

「なんなんだよ。。。感謝されることしたのになんでキレられんだよ。。。」と理不尽さを感じながら通常業務に戻り、メンバーに事の顛末を愚痴った。

「勝村さん、受付にKさん来てます。。。」

3時間後、アシスタントから申し訳なさそうにそう告げられた。

ふざけんなよ、いい加減にしてくれ。
今度は対面で説明かよ。
また悪くもねぇのに謝んのかよ。
じじいの相手してるほど暇じゃねんだよ。

正直、そんな失礼な感情を抱きながら受付に向かった。

なんならこっちからもガツンと言ってやろうと思っていた。

イライラしながらエレベーターに乗り、受付がある階に向かった。

受付に着くと、Kさんは立って待ってくれていた。
そして僕を見るなりこう言った。

「ありがとう。それだけ言いたくて来ました。」

Kさんの第一声に一瞬怯んでしまった。
あまりに予想外の一言だった。

「さっきはごめんね。年甲斐もなく言い過ぎました。ビジネスモデルは分かりました。それでも僕は形として御礼をしたい。けど勝村さんにも立場があると思います。けどこれくらいだったら受け取ってくれませんか?」

手渡されたのは銀座の有名なロールケーキだった。

Kさんの家は埼玉県北部。
赤坂に来るのに2時間はかかる。
あの電話から3時間くらいしか経っていない。
すぐに自分の言動を反省して、それでもやっぱり感謝の気持ちを伝えたくて、銀座に急いで向かってお土産を購入して、オフィスに来てくれたんだ。

驚きで言葉が出てこなかったが、そんなことが頭の中でグルグルしていた。

「じゃ、それだけだから帰るね。」

眩しい笑顔でそう言うと、Kさんはエレベーターホールに歩いていった。

まじかよ。
あんた2時間かけて田舎から出てきて
慣れない銀座で買い物してくれて
やっと言いたかった御礼言えたんだろ。
まだ3分もたってないぜ?
3分で帰んのかよ?
もっと自分の満足感の為に時間使いなよ。
もっとお互いのこと喋ろうよ。

と思っているうちにエレベーターは来てしまった。

「こちらこそありがとうございました!!」

と僕は、高校の部活以来の音量で気持ちを伝えることしか出来なかった。

感謝を表現するということ

「ありがとう」

という便利な日本語がある。これを使えば感謝は表現できる。

別にその言葉に追加して、時間やモノやお金で重ねて表現することが正しいわけではない。
そんなことは分かっている。

けどKさんの行動は、私に深く深く刺さった。

40歳年下であっても同じヒトとして対等に接する
感謝を感じたらそれをしっかりと口にする
言葉にする時は情緒と感情を言葉に乗せる
それを対面でしっかりと目を見ながら伝える
そして心をこめて選んだ御礼の品を笑顔で手渡す

費用対効果とか、生産性とかコストとか効率とか。

そんなことばかり考えてしまう今の世の中だけど、感謝を表現する時にそれは不要なのではないだろうか。

色々なものが発達しても、結局ここは変わらないんじゃないか。
いや、変えてはいけないのではないか。

感謝の表現方法。

それはありがとうの前後文脈も含めて表現されるもの。

そこを思い直させてくれたことが、Kさんから頂いた最大の御礼なのかもしれない。

---

Twitterやってます。是非フォローお願いします。

Voicyやってます。是非フォローお願いします。

人事やHR関係者がNDAを結んで本音で相談できるサロンを主催しています。
是非ご参加ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?