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そして踵は打ち鳴らされる

野営の始末を終える頃、アイツはおれが与えたヒモをくわえて眠っていた。さっきまではちきれそうな桃色の肉球と僅かな爪でヒモと戦っていたというのに。銀色の柔らかい体毛に包まれた身体は呼吸運動の度、わずかに動く。「ネコ」とはかくも脆弱で無知性、単純な存在だ。

おれはヒモに神経を通す。ヒモのあちこちで目がぎょろぎょろと蠢き、おれの制御下に戻った。それでアイツの頭部後方を掴み、ゆっくりとケージに収納する。ここを掴むと容易に運べるのだと最近気付いた。出来ればずっと仕舞い込んでおきたいが、給餌と共にこうやって運動させなければ、おれは鳴き声に苛まれ続ける事になる。

ケージを閉じ、触手を吸収する。おれは彼方に浮かぶ碧い結晶を見ながら、行程を再確認する。出来れば今日中にこの山を越えたいが、難しいか。

「…いつまで隠れている?」

5時方向に呼び掛ける。
静寂があたりを支配する。

んみぃ…

ケージの中のアイツが寝言を発するのと同時に、藪の中から大質量が突進してきた。おれは素早く身を捩り回避。ケージを保護する位置取りについた。

火を噴き宙に浮かぶ大質量の正体は軍用機動兵器。二対の眼と腕と脚。鋭角的な装甲。かつてこの星を支配していた獣「ニンゲン」を模す、冒瀆的な機体。

奴は光刃を構え再び突進してくる。
ついに原隊復帰の呼びかけも無くなった。おれも、遺産たるアイツも生死は問わないと。

おれは後方の目玉でアイツを見た。眠りを妨げられて不満なのか、ケージの中でせわしなく蠢いている。やはり何度見ても悍ましさは消えない。こんなものをお前らは。おれはため息と共に、正面へ意識を向け直す。

おれもまた、冒瀆的な神話の獣に姿を転じる。ニンゲン型に膨れ歪んだ身体に装甲が一瞬で装着された。高くかざした両腕を一気に振り下ろし、全身に力を漲らせれば、その手には輝く拳銃が二挺。

「やるなら、おれからやれ」

【続く】

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