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燦然たる断片

朽ち果てた機動兵器の残骸で弾幕をやり過ごしながら、俺は傍の肉塊に目をやる。陸軍の兵士。吹き飛ばされてきた割には損傷が少ない。右腕と首が足りないぐらいだ。

俺は背負ったコンテナから手頃な腕と生首を取り出す。肉塊に手早く接合し、活性化。肉塊は痙攣と共に赤黒いものを吐き出しながら、ゆらりと立ち上がった。

接合した首が持つ脳は自我漂白済だ。俺は足元に転がる誰かのライフルを拾い上げて手渡す。トリガーに絡み付いた指の残骸は丁寧に剥がしコンテナにしまった。

兵士が呻き始める。俺は手甲に仕込んだ端子を兵士のこめかみに突き刺す。兵士はびくりと震え、口をつぐむ。漂白が甘かったか。

植え付けたパターンに従い、兵士は残骸の影から躍り出る。降り注ぐサーチライトと銃撃に怯まぬ囮。これで俺は人目につかずこの戦場を横切れる。ネクロマンサーの俺にとって、ここには幾らでも素材がある。

平地を走り抜け素材を拾い、安全な岩場まで到達した。曲がり道の死角をカメラで探る。誰もいない。走り抜ける。

<おい>

誰もいないはずの曲がり角に人が立っていた。俺はバランスを崩し、派手に転倒する。コンテナが開き、道中拾った人体が散乱した。

起きあがり、俺は人影の方を見る。若い、いや幼い女が曲がり角にいた。清廉な衣を着たその身体は透けていて、角に作られた石碑に足をめり込ませている。くそッ。俺は自覚の無いまま精神を蝕まれたか。

<幻覚ではないぞ、小僧>

女はいたずらっぽく笑い、くるくると指を回す。そこにはコンテナの鍵が引っかかっていた。バカな。

<竜の死体か>

女は鍵を石碑の隙間に落とす。落ち着け。俺の幻覚なら俺の目的を知っている。

<そこまで私が導いてやっても良い>

視界ハックの可能性。それなら心を読まれた事はどう説明する。

<だからこの封印、どうにかしてくれ>

直接の害はない。ともかく鍵は拾わなければ。俺は女の言葉を無視しながら石碑の解体を始めた。

【続く】

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