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「不便」の中に、失われない価値観がある。多次元型焚き火台【RAPCA】制作者・黒川氏・日野氏インタビュー。

効率化が進む世界で、ある意味「不便」なキャンプを嗜む人が増えている。キャンプグッズのブランドは増え、専門誌も好調だ。それはまるで便利と引き換えに失ってしまった野生を取り戻すようにも思える。コロナ禍でも、「ベランピング」というベランダで楽しむキャンプに注目が集まった。

そんな中、不便なはずの焚き火にあえて注目して、多次元型焚き火台RAPCA】というプロダクトを制作し、クラウドファウンディング目標2500%達成を果たした株式会社フロントビジョン。これからの便利と不便の在り方について、それぞれ取締役の黒川氏と日野氏にお話をお聞きした。

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左:日野 慎哉 (クリエイティブディレクター/WEBエンジニア) 
右:黒川 貴弘 (コンサルタント/中小企業診断士)
【株式会社フロントビジョン】アウトドアから業務システムまで、ソフトもハードもものづくりを追究する個性派集団。オリジナルのアウトドアブランド “MAAGZ” ではアウトドア製品の制作、及び同名のウェブメディアの運営も行う。

アウトドア事業がスタートするまで。

-株式会社フロントビジョンは、アウトドアから業務システムの開発までと、かなり幅広い事業内容ですが、どのようにできた会社なのですか?

日野 :僕は、スマホアプリ、webのバックエンド、フロントエンド、デザイン、システム・アプリケーション開発を受注する会社をやっていたんです。元々、黒川とは別の会社だったんですが2016年に創業してここ八王子に本社を構えました。

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↑オフィスには、工房や展示スペースなども。八王子という都心を離れた立地ならではの広く自由度の高い仕様になっている。

黒川:僕は別会社を横浜でやっていたんですけど、この場所のリノベーションを手伝っていた共通の知り合いを通じて日野と出会いました。当初はまさか同じ会社で仕事するとは思ってなかった。僕はIT系のコンサルタントで中小企業診断士なんですが、WEB関連の補助金の相談から、制作まで一気通貫でできる体制を作りたくて日野の会社と合併しました。

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黒川氏(左)のスーツ姿に対し、日野氏(右)はTシャツ。対照的なスタイルからも底知れぬ事業領域が窺える。

-そこまで聞くと、完全にWEBやアプリケーションの開発会社だと思うんですが。アウトドア事業はいつごろから?

日野:うちの会社の役員で彫刻家の高石というのがいるんですけど、一緒に何かやりたいよね。と2017年くらいから相談してたんです。しかし僕はデジタルで彼は彫刻。なかなか分野的にも接点がなくて。その時、みんなで近辺の川でよくキャンプをしていたんですけど、ふと「キャンプグッズなら一緒に作れるかも。」と考えて。

↑RAPCAは、クラウドファウンディングで、2500%もの達成率を誇った。

-クラウドファウンディングも大成功していたり、すごく順調な気がします。

日野 :順調ではありますけど、やはり、元々がプロダクト販売メインではなかったので、色々な問題は起きます(笑)僕らは、自社でアウトドアメディア(MAAGZ)も運営しているので、これからは自社のコンテンツやギアも紹介して、連動を強めて、プロダクト事業の拡大をしていきたいですね。

-プロダクトの事業って、リスクも大きいように思います。在庫リスクやお客様からのクレームとか。

日野:実際のところはウェブの投資より全然リスクは少ないかな。ウェブでサービスを作るとなると、とにかく時間とお金がかかります。製品開発も人件費はかかりますけど、リリースしてから、回転するまでは製品の方が早いですね。

黒川:お客様の反響がわかりやすいのもいいところですね。

多次元型焚き火台RAPCAができるまで。

-そもそもなぜ焚き火台を作ろうと思われたのですか?

日野 :このオフィスの2階には中庭があって、そこで焚き火が出来るんです
ちょうどキャンプグッズを作ろうとしている頃、自分たちの中でたまたま焚き火ブームだったんです。週に2~3回焚き火をやっていて。すごく楽しかったんですね。一番楽しんでいるものを作った方が説得力もあるし、良い物も出来ると思ったので焚き火台を作ろうと思いました。

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↑中庭での焚き火の様子。

-数あるアウトドアギアの中でも焚き火台は作るハードルが高そうですが。

日野:先ほども名前が出た、役員の高石が彫刻をやっているのもあって、立体造形に近いものの方が強みが活かせそうだったんです。

-かなり勇気のある事業展開ですよね?

日野:普段の業務はWEB制作をはじめとして、受注→制作だったんですけど、自分たちが発信して、沢山の人に届く事もやってみたいなって気持ちがありました。

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↑奥のアトリエスペースにてRAPCAを組み立てている様子。溶接など最後の工程は、オフィス内でハンドメイドで行われる。

-そうやって生まれた「多次元型焚き火台RAPCA」のコンセプトを教えてください

日野:大まかに言ってしまえば、どんなスタイルにも合わせてアレンジできるような余白を残したプロダクトを作りたかったんです。いくつか他の焚き火台を使ったりする中で、焚き火はできるけどご飯は作れない、拡張パーツはあるけど使いにくい、料理をしようとすると焚き火がしづらい・・・あとは重量の問題も大きくて、持ち運びや片付けもめんどくさい。そういった細かい不満を解消するアイテムを目指しました。とはいえ、他社のリサーチをしっかりやるという方向性ではなく自分たちの本当に便利だと思えるものを作った。という感じです。

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↑多次元型焚き火台【RAPCA】ホームセンターで売っている資材や金物だけで拡張した状態

焚き火を中心にコミュニティが生まれる。

-「焚き火」の魅力ってなんだと思いますか?

黒川:二階の中庭で焚き火してると人が集まってくるんです火を囲んでコミュニケーションをとっている時間はすごく楽しくて、焚き火があるのとないのとでは全然違うんですよね。

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日野:焚き火の何が好きかというはっきりした答えはないんですけど。やりたくなるからやってるだけかもしれないです(笑)。特に深くは考えてないですし、考える必要もないのかなと思っています。心地良いと思えるんだったらそれでいいんじゃないかと。ただあまり焚き火ばかりやっていると、他のこと何もしなくなりそうなので、たまに意識的に控えたりします(笑)

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-近年キャンプブームは加速していると思うのですが、何がそのブームを引率していると思いますか?

黒川 :人間は、狩猟採取時代からキャンプを行って火を囲んできたわけですから、火を見て安心するってのは、遺伝子レベルで求めていることなんじゃないかな。だから自然なこと。ストレス社会に対する陰と陽とも思えます。デスクワークだけだと、溜まってしまって外へ行きたくなるってことは実際にありますし。

日野:現代って色々なことが効率化した結果、動かなくてもいい生活になってます。リモートワークで移動しなくて良くなったりしましたよね?結果として、運動不足を招いて、結局ジムで運動しているとかって本末転倒というか。その効率化ってあんまり意味ないんじゃないか?って思っています。

-確かに、ちょっとねじれてるかも知れませんね。

黒川:都心から離れたオフィスも、焚き火も。不便を選んでいると思われるかもしれませんが、僕たちは人間が本質的に求めている面白いことを仕事で実現しているだけです。おかしいのは矛盾をそのまま受け入れている世間の方ではないかと(笑)。

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過渡期の自動化との向き合い方。

-お二方にとって、「効率化」「便利」ってどういうことなんですか?

日野:今現在のことを考えると、局所的に便利になるものが増えていっている。例えば鍵が勝手に閉まるとか、エアコンが自動でオンオフするとか、ひとつのことしかできないIoTが多い。だから、僕たちの生活を大きく変えることは、今のところないのかな。全てを自動化するようなシステムがあってはじめて、IoTの意味が出てくるんじゃないかな。

黒川:僕は、自動運転には注目していますね。移動は生活の中でも大きな制約だから。実用化されたら、都心から少し離れた家でスローライフを送りながら、オフィスへのアクセスは最新システムの自動運転で…というような極端な世界も実現できる。僕たちみたいな仕事の価値観を持つ人がもっと増えるんじゃないかと思います。

日野:僕たちは ITに造詣が深くても、新しいものを積極的に取り入れるタイプではないし、今の所は少し目配せしながら、取り入れるものだけを取り入れています。それに、どんなに効率化が進んでも焚き火までは自動化しないって思いますよ(笑)。

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流れに逆らわないものの作り方


-プロダクトのネクストアイデアがあれば、少しお聞かせください。

日野:今、ハンモックを試作しています。このオフィスの二階部分が住居になってるんですが、里山ハンモックに所属しているハンモッククリエーターが今年の一月頃から住むようになったんです。色々と仕事も一緒にするようになって、せっかくだしハンモック作ろうかってことになりました。

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↑試作中のハンモック。実際に座らせていただくと、包まれるような座り心地でした。

-これもまた自然な流れですね。このオフィスにいる数人だけでものづくりをしている印象です。

日野:あくまで自分たちでやれる範囲。やれる範囲ってより無理してやらないという方が近いですけど、それを事業化するという感じですかね。アパレル系の縫製をやるメンバーもいて、同じオフィスの1階にある縫製室で試作を手軽に作れるのも強みのひとつです。

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-どういったハンモックになる予定ですか?

日野:座っても寝てもいい、両方使える形で、丈夫で伸縮性があるものを考えています。あとはオプションでスタンドも開発中です。極力軽量にして、持って行って設営して上にタープを張れば、テントを立てずに済むんです。

-とても楽しみにしています。

これからの世界で失いたくないもの。

-最後に、お二人にお伺いします。世の中から絶対に失くしたくないものは、何ですか?

黒川:僕は人の繋がり。合併したのもそういう理由もあって。わりと一人で仕事してる感じになっていたんで、寂しさをすごく感じて。やっぱり仲間と一緒になんかやりたいという思いが強かったんです。気の合う少人数コミュニティでなんかやりたいですし、繋がりはそこから派生して、お客さんとも仲良くやりたいですし、面白みってのがそこから生まれてくるような気がしていて、どんなに技術が進もうが人との繋がりってのはやっぱり大事かなと思います。

日野:場所ですかね、このオフィスみたいな場所です。僕自身、人見知りなとこもあって、積極的に色々なコミュニティに参加するタイプじゃないので、自然に集まれる場があるといいなと思います。別に仕事をするための場所ってわけではなくてなんとなく来れる場所というか。最終的にはここも仕事しにくるのではなくて、遊びたいから来るくらいの場所にしたいと思っていて。仕事は別にどこでやってもいいと思うので。たまに気が向いた時に来たら、誰かいるとか、別にアポイントをとって話すわけでなくて自然発生的にコミュニケーションが生まれるような場所ってのはずっとあって欲しいなとは思います。

黒川:そういう事が出来る人達が勝手に集まってくる場所になっていっている感じはしてます。ハンモックもその一例で、ミシンが使える人も実はい
てみたいな。人の繋がりが先にあって、そこから新しいプロダクトを作っているような感じもして。焚き火台もそうですね。元々焚き火をしていたメンバーで焚き火台を作ったわけですから。信頼関係が先にあるコミュニティをベースにしたものづくりを続けていきたいと思います

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Less is More.

流れに身を任せる姿勢無理をしすぎないでいようとする態度が、二人のベースにある。それが共通言語となり、人が自然と集まり、プロダクトの事業を生み出した。野生にも便利にも固執しすぎないバランス感覚の大事さが生み出した多次元型焚き火台RAPCA】。「便利とは何か?」を考えるきっかけになりうるプロダクトではないだろうか?

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(おわり)


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