駆け出し百人一首(35)若竹の生ひゆく末を祈るかなこの世を憂しと厭ふものから(紫式部)

若竹(わかたけ)の生(お)ひゆく末(すゑ)を祈(いの)るかなこの世(よ)を憂(う)しと厭(いと)ふものから

紫式部集 53番

訳:若竹のようなこの子が健やかにこの先も成長していくことを祈るのだなぁ。私自身はこの世を嫌だと思うのに。

I hope my child will grow healthy and live long though I myself hate living in this society.


紫式部は、幼い頃から身近な人の死を目の当たりにし続け、晩婚で結ばれた夫にも、結婚してわずか数年で先立たれてしまいます。そうした人生を送る中で、紫式部は厭世的で悩みがちな性格になりました。
この歌が詠まれたのは、娘の賢子(後の大弐三位)が病にかかって看病しているさなかです。家に仕える女房も、唐竹を花瓶に挿して祈っています。その唐竹にちなんで、この歌ができました。
自分自身はこんな世の中生きていても仕方がない、と思っているのに、我が子には長生きしてこの世を謳歌して欲しいと願っている。その己の矛盾に気が付いたわけです。


和歌の修辞法

若竹の:若竹が成長する様子と我が子が成長する様子を重ねた見立て(比喩)。

文法事項

祈るかな:詠嘆の終助詞「かな」。〜だなぁ。
厭ふものから:逆接の接続助詞「ものから」。〜のに。


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