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5-4.協働的・発展的なZoom授業に向けた7つのTIPS

(特集 心理職のためのオンライン授業入門)
北原祐理(東京大学大学院 臨床心理学コース 特任助教)

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《一歩先のオンライン授業デザインを学ぼう!》
2020/6/7(sun)14:00~開催/演者:三田地真美&下山晴彦

はじめに

前々章(5-2.)および前章(5-3.)を通して,Zoomによる授業の基本手続きと機能を紹介してきました。はじめのうちは,対面授業とは異なる雰囲気や反応に,教授者がやりにくさを覚えることもあるかもしれません。それは,学生側が(あるいは,臨床場面においてはクライエント側が)体験するやりにくさとも通じるかもしれません。Zoom授業に慣れてきたら,Zoom内外での関係性づくりや学びの促進も大きなテーマとなってくるでしょう。本節では,筆者の学習体験や教育機関の公開資料をもとに,協働的なZoom授業に向けたTIPSをまとめてみました。さらに,臨床心理学の授業デザイン例も紹介し,発展的な授業を考える際の資料となることをめざしました。

1)授業参加のルールを決めておく(安心感づくり)
2)ホスト側の役割分担をする
3)反転授業を取り入れる
4)臨床心理学(学部上級~大学院レベル)の授業を工夫する
5)授業前後の連絡ツールを使う
6)Zoom外での学びのコミュニティをつくる
7)ZoomのトラブルシューティングQ&A

1)授業参加のルールを決めておく(安心感づくり)

オンライン授業では,場の雰囲気を読み取りにくく,慣れないうちは発言に躊躇してしまうこともあります。また,初対面の参加者同士で急にディスカッションやワークを行うと,ぎこちなくなることもあるでしょう。ワークの最初に自己紹介の時間を設けたり,下記のような「授業のルール」を示したりすることで,場の安心感づくりをすることができます。

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なお,Zoomのギャラリービュー(全員のビデオ画面が一様の大きさで表示される設定)では,一画面に25人(5×5)までしか表示されません。そのため,参加者が25人以上でビデオをONにしている場合は,ホスト側で適宜ページを切り替えて25人ずつ表示させることになります。CPUの性能が高い場合は,一画面に49人表示(7×7)をすることもできます。
(→参照:https://zoom-support.nissho-ele.co.jp/hc/ja/articles/360027361992

以上の他にも,段階的にディスカッションを進める(例:ペア→グループ→全体),明確な指示をする(例:問いや求める成果物を画面上に文で示す),成果の発表のしかたを統一する(例:代表者が口頭で説明する)などすると,参加を促しやすいでしょう。

2)ホスト側の役割分担をする

はじめのうちは,ホスト1人ですべてを円滑に行うのは難しい場合もあります。そのようなときは,授業のサポート役(いわゆるティーチング・アシスタント:TA)をつけると心強いかと思われます。例えば,TAに,チャットや挙手の有無を確認してもらい,コメントがあった場合にホストに伝達するよう依頼すれば,取りこぼしも防げます。また,TAを共同ホストに設定することで,「参加者の管理」を任せることもできます。ホスト側の役割分担をして,全体に目が届きやすくすることで,教授者と学生のお互いが集中しやすい環境が整うことと思います。

★ポイント 「参加者の管理」とは:参加者のミュート設定,ビデオ設定,画面共有,名前変更,退室などについて操作やリクエストができる権限。

3)反転授業のアイディアを取り入れる

授業が回るようになってきたら,Zoom上の時間を最大限に生かす授業デザインを考えてみましょう。仮に1コマ90分だとして,学生にとっては1日に複数コマ受ける(ただ視聴するだけである)と退屈にもなります。そこで,能動的な作業時間を取るために,反転授業のアイディアを取り入れることも一案です。反転授業の詳説は,5-1章の3)にお示しした通りですが,従来の「教室で知識を得て,自宅では応用的発展的な学習を行う」という形態を,「自宅で動画やe-Learning教材から知識を得て,教室では共同作業による発展的学習,演習,研究に取り組む」という形態に反転したスタイルを指します。オンライン授業の場合は,自宅で取り組める自習課題を用意しておき,Zoomなどでリアルタイムに集まる場では,質疑応答やブレイクアウトルームを活用したグループで取り組む活動を行うなどが考えられます。インターネットで「反転授業(flipped classroom)」で検索すると,具体的な実践例も見つかるでしょう。

4)臨床心理学(学部上級~大学院レベル)の授業を工夫する

上記の反転授業の考え方を参考にしながら,臨床心理学の授業でできる工夫を考えてみましょう。特に,心理師(士)を養成する大学院レベルの授業では,ロールプレイングなどの演習が不可欠となります。コロナウイルス対策が続くことで,学生の現場経験が限られることが予想されます。そのため,学生にとっては,基礎となる知識や理論を身につけるとともに,できるだけ生に近い(authenticな)臨床事例やビデオ教材から,実践に活きる学びを得ることがますます大切になってきます。もちろん現場での実践そのものを補えるわけではありませんが,良い素材とZoomを通した体験的学習を揃えることは,学習の質を高める一助となるはずです。

授業デザインの例(1)」は,事前に提示された臨床事例に対して,授業ではグループごとに事例中の問題の同定と介入の提案を行うというものです。この授業デザインは,パーソンセンタード・アプローチ,精神力動的アプローチ,認知行動的アプローチなどの概要を知っていることを前提としています。授業前の活動として,学生は関心のあるアプローチを選び,本などからその理論をさらに深く学び,事例に適用する方法を考えます。授業(Zoom)内では,発表10分+質疑応答10分などと決めて,グループごとに発表し,議論を中心に行い,各アプローチの特徴や背景にある考え方を理解することをめざします。

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授業デザインの例(2)」は,事前に精神病理学的な知識の学習と心理療法の実践例の視聴をして,授業ではそれらをモデルにロールプレイングを行うというものです(ここではうつ病に対する認知行動療法を例としています)。教材は,認知行動療法の初回セッションなど,特定のトピックに焦点を当てたものにすると,学習の目的が明確になります。学習目標は,例えば「うつ病の診断基準を説明できる」,「認知行動療法的なアセスメントができる」などとして,授業(Zoom)内のロールプレイングを通して達成することをめざします。3名グループで,クライエント(うつ病患者を演じる),セラピスト(アセスメントのための質問をする),オブザーバー(ロールプレイングを観察して,後にコメントやアドバイスをする)の役割を交代することで,全員が学習目標に即した活動に参加できるようにするとよいでしょう。

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授業デザインの例(3)」は,事前に行ったロールプレイングに対して,授業で逐語録と録音記録を用いてフィードバックを行うというものです。この授業デザインは,「共感面接」や「査定面接」に必要な技能を学習した後の演習として位置づけられます。学生は,授業外の準備として,ペアでロールプレイング(20~30分程度)を行い,録音します。さらに,逐語録を作成し,所感や難しかった点などをまとめておきます。授業(Zoom)内では,ペアが発表者となり,全員で録音を聴きながら逐語録を辿ります。そして,セラピスト役の発話の意図,そのときのクライエント役の反応(感じ方)を,やり取りレベルで確認しながら,技能の向上に向けた指導・助言を行います。

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以上に,臨床心理学の授業を想定したデザイン例を挙げてみました。続く「5-5.学部・公認心理師カリキュラムで動画講義を活用する」および「5-6.大学院・公認心理師カリキュラムで動画講義を活用する」では,臨床心理iNEXTで提供する具体的な動画例を紹介しています。e-learning素材の一部として検討してみてください。

5)授業前後の連絡ツールを使う

授業ツールをZoomに一本化するのは楽ではありますが,参加者がスライドの内容や連絡事項を聞き逃すこともあります。そこで大切になるのは,授業前後のフォローアップです。上記に示した授業デザインにおいても,事前課題の提示や,授業で扱いきれなかった疑問への対応などが必要になります。そのため,使い勝手の良い連絡ツールの併用が勧められます。教育機関にお勤めの方は,指定のLMS(Learning Management System)やGoogle Classを使用するほか,一般向けのツールとしては,DropboxやGoogle Driveで必要事項を共有する方法があります。また,投稿機能が付いたツールとしては,FacebookのグループページやSlackなどのアプリも使いやすいでしょう。ただし,守秘性の高い情報が取り扱われる場合もあると思いますので,一般向けツールのプライバシーポリシーについては適宜ご確認ください。

6)Zoom外での学びのコミュニティをつくる

授業準備にこそ力は入りますが,Zoom外に授業で学んだ内容を深める場づくりをするのも教授者の大事な役割です。自発的な学びのコミュニティは,個人のモチベーションの維持を助けます。例えば,定例のオフィスアワー,あるいは,学生同士による議論用のZoom URLを用意することで,個別の質問に対応したり,学生の自主的な集まりを促したりすることができます。また,授業の課題として,「ブレイクアウトルーム」で出会ったメンバーと議論をし,成果物を提出することを課してもよいかもしれません。

7)ZoomのトラブルシューティングQ&A

最後に,テクニカルな面でのトラブルシューティングを挙げます。

Q. 画面が固まるなど,通信障害が頻繁に起こるときは?
A. 次の方法で通信量を減らすように試してみてください。ビデオ(参加者の顔の映像)が最も通信量を大きくする原因となるようです。そのため,基本的に常に何かしら画面共有をしておくのがよいといえます。画面共有は,静止画であればそれほど大きな影響はありません。

・ホスト・参加者ともにビデオをオフにする。
・ビデオをオンにする場合,デバイス側の設定から解像度を落とす。
・ビデオをオンにする場合,Zoom側の設定からHD(高解像度)を外す。
(→デフォルトで,「ビデオの開始」>「ビデオ設定」の中の「HDを有効にする」のチェックが外れています。)
・Zoom側の設定により,画面共有時のFPS値(Frames Per Second:1秒間に何枚のフレーム[=画面に映る画像]を処理しているかを示す値)を小さくする。
(→設定のしかたは,下図をご参照ください。アプリ版の右上歯車マーク〉設定画面の中から「画面を共有」〉右下に現れる「詳細」をクリックし,「フレーム毎秒」の数値を変更します。デフォルトは10ですが,スライドのみの共有であれば1でもよいでしょう。)
・Zoom(その他授業で使うもの)以外の起動中のアプリケーションを終了する。

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Q. 画面共有やチャットを使った迷惑行為(雑談など)が起きたときは?
A. Zoom画面下部のツールバーの【セキュリティ】から,参加者の「画面を共有」や「チャット」のチェックを外します。または,迷惑行為にかかわる特定の参加者を選択し,「詳細」>「削除」をクリックすることで強制退出させることができます。

Q. 通信障害や妨害行為などで授業を中断するときは?
A. 【ミーティングを退出】【全員に対してミーティングを終了】を選択して,一度授業を終了します。一度ミーティングを終了したら,新たなURLを発行して参加者を別の部屋に呼び戻して再開します(その旨を事前に周知しておくとスムーズです)。

おわりに:“新しい”学びの空間を創る教授者として

5-2.から5-4.は,Zoomによる授業を段階的にブラッシュアップするイメージで進んできました。しかしながら,ここで紹介したTIPSはほんの一例であり,まだまだ過渡期の,従来の形態にとらわれているものでもあるかもしれません。そのため,何よりも大切なのは,学習者との率直なコミュニケーションをとりながら,互いに学びを深めるオープンな姿勢を見せていくことだと感じます。来るオンライン授業の時代では,工夫次第で,活発な,かつ確かな知識を得られる学びの空間を創れることが期待できます。しかし,五感を通して得られる学びを実現するには,限界があることにも自ずと気づかれるでしょう。こうした中での試行錯誤は,オンラインと対面の性質の違いを教授者と学習者がともに体験し,ひいては,両者の臨床的な意味を考える過程ともなりえると考えています。

参考資料・ウェブサイト
• Indiana University “Keep Teaching”
https://keepteaching.iu.edu/get-started/index.html
• 江川奈那(日商エレクトロニクス株式会社)「ギャラリービューで参加者を表示する」
https://zoom-support.nissho-ele.co.jp/hc/ja/articles/360027361992
• 田野井慶太朗(東京大学)「Zoomの通信量をできるだけ軽くしたい」
https://docs.google.com/presentation/d/1Mwzw7dCcL3Njrsp-7MsTXHcGT3wdcO00E6uRfEhTv4M/edit#slide=id.g7309e7e8bc_1_12
• 東京大学大学院情報学環・反転学習社会連携講座「第3回公開研究会 学習効果を高める反転授業のデザイン」(登壇者:山内祐平・向後千春・森朋子・大浦弘樹)
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/archives/flit/seminar/003.html

(電子マガジン「臨床心理iNEXT」5号目次に戻る)

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