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6-6.オンライン心理相談(有料)のシステム構築の実際

(特集 できる!やらねば!オンライン相談)

高岡佑壮(東京認知行動療法センター/東京発達・家族相談センター/公認心理師・臨床心理士)
岡田和子(東京認知行動療法センター/東京発達・家族相談センター 受付・事務主任)

1)思いがけない心理相談業務の中断

2020年4月1日,東京認知行動療法センター/東京発達・家族相談センターは,新型コロナウィルスの感染拡大を受けて暫定的に臨時休室する方針を決めた。その後4月7日に緊急事態宣言が発令されたことで,5月6日(当初の緊急事態宣言の期限)まで休室することを確定させ,その旨をセンターのホームページにて告知した。
緊急事態宣言が発令された以上,利用者様および職員への感染リスクに対処するため,休室せざるを得なかった。休室期間中は職員全員(心理職および受付・事務スタッフ)が基本的にセンターに行かないことにし,利用者様のご来談もお控えいただくことを決定した。やむを得ずセンターの運営自体を完全にストップさせた,ということである。

休室が確定した際,当センターの受付スタッフは,すでに相談のご予約をいただいていた利用者様お一人お一人に電話をした。「事前にご予約いただいていた心理相談を中止する」こと,そして「今後の方針については未定のため,後ほど改めてご連絡する」ことなどを,皆様にお伝えした。利用者様の中には,突然の休室に対する戸惑いやご不満をお伝え下さる方々もおられた。センターの職員としても休室することに心苦しさを強く感じていた。
当面は休室期間を「5月6日まで」と決定したものの,5月6日になってもコロナの感染状況が改善せず,引き続きセンターへのご来談をお控えいただくことになる,という可能性は充分あった(実際,緊急事態宣言後しばらく経っても,状況が良くなっていく兆しは見えなかった)。
しかし,感染リスクへの対処が必要とはいえ,心理相談が中断した状態で利用者様をいつまでもお待たせするわけにはいかなかった。さらに言えば,世間の外出自粛ムード,コロナによるさまざまな経済的ダメージ,それらの精神面への影響などによって,この状況下だからこそ心理相談を必要としているという方々も多くいるという認識もあった。

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2)オンライン心理相談の開設に向けて

私たちセンターの職員は,4月半ばに複数回のオンライン会議を開催し,「5月7日以降も当面は対面での面接を実施しない一方,その代わりにテレビ会議用ツールを使ったオンライン心理相談を導入する」ことを決めた。この情勢の中で心理職としての責任を果たすためには,コロナ禍が収まるのを単に待っているのではなく,積極的に「利用者様が在宅でも受けられる心理相談」を行わなければならない。それが,当センターの職員の総意であった。

これまで当センターでは,基本的には来談いただいた利用者様と直接対面した上での相談のみを行なってきた。しかし,センターの職員たちは,テレビ会議用ツールのような通信技術を使うことに対しても抵抗感を持っていたわけではなかった。もともと当センターは,職員同士での会議に際してZoomを使用するなど,新しい技術の導入に対しては積極的であった。今回のコロナ禍においても,旧来の相談の形態にこだわらず,できるだけ早くオンライン心理相談(以下,オンライン相談)を開設するべく動き出した。

開設に向けての会議などを積み重ねていく中で,オンライン相談を開設するにあたっては,「オンライン相談のためのシステムを創りあげていくこと」が重要なテーマになることがわかってきた。システム――つまり,オンライン相談を実施するためには,相談機関の体制そのものを変えていく必要性が見えてきた。オンライン相談に関わってくるさまざまな仕組みの全体像をどのようにするかがテーマとなったのである。
オンライン相談を導入するということは,相談の方法を対面形式からネット経由に切り替えるという「手段の変更」だけを意味するわけではなかった。単に通信ツールさえ導入すればすぐにオンライン相談を始められるわけではなく,「オンライン相談を運営するためのシステム全体を整備すること」ができて初めてオンライン相談が成立するのである。今回のコロナ禍への対応を通して,当センターの職員一同,そのことを強く実感することとなった。

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3)「相談の枠組み」としてルールを設定する

オンライン相談を始めるに際し,まず「どの通信ツールを使うか」という問題に直面した。具体的には,Skypeを使うかZoomを使うかという問題である。これについては,複数の意見を集約し,最終的にはメインはZoomを用い,利用者様が希望した場合にはSkypeも使えるようにした。また,相談の方法として「電話相談」も選べる形とした。
通信ツールが決まったが,それだけでオンライン心理相談が始められるようになったわけではない。単に「ツールをどうするか」だけではなく,そのツールを使って,心理相談の活動をどのように運営していくのかが次のテーマとなった。オンライン相談の「枠組み」が整っていなければ,ツールがあっても相談を適切に実施できないことが見えていた。

ここで,「相談の枠組み」とは何かについて,改めて確認しておく。心理相談は,心理職と利用者様が守るべきルールなどがある程度決まった状態で行われる。本センターでは,「心理職と利用者様が,相談する場所をその都度適当に選んで,適当に予定を合わせて,相談時間も状況に応じて適当に変えていく」といったルーズな心理相談は,専門的相談とはいえないと考えている。相談に関するさまざまな決まりごとがあって,心理職も利用者様もそれらを守ることで安心して相談に臨む。そのようなさまざまな決まりごとが「相談の枠組み」となる。
例えば,以下のような決まりごとなどが,相談の枠組みに含まれる。

表1 「相談の枠組み」例
・どこで相談をするか(センター内の面接室)
・相談時間の長さをどうするか(1回1時間,相談内容によっては1時間半)
・相談の予約が取れる時間帯はいつか(月曜~日曜の10~17時,ただし心理職によって担当する曜日や時間帯は異なる)

※( )内は,「東京認知行動療法センター/東京発達・家族相談センターではこのように決めている」という具体例です

これらの決まりごとは,利用者様と心理職の両者がより安全かつ快適に相談に臨むために必要なものである。「相談をする場所はセンターの面接室内に限る」「1回の相談は基本的に1時間で終了」……などの枠組みがあるからこそ,利用者様と心理職双方のプライバシーが守られ,利用者様も心理職も相談に集中できる。これらのルールがなく,例えば心理職が利用者様の家にふらりと出向いて話せたりしてしまう(極端な例だが)と,利用者様のプライベートな部分に踏み込みすぎてしまう。他にも,例えば利用者様がいつでも心理職に直接電話などができてしまうと,心理職のプライバシーが守られにくくなる。電話での会話がいつまでも延々と続いてしまう相談が始まってしまう危険性もある。
もちろん,利用者様の生活支援をする相談業務の場合には,心理職が利用者様の自宅を訪問したり,不安なときにはいつでも心理職に電話をしてもよいという取り決めがあったりする。そのような場合は,それがその生活支援業務の枠組みとなる。本センターは,そのような枠組みを採用していないということである。

したがって,新たにオンライン相談業務を開始するということは,そのための「枠組み」を創らなければならないということになる。表1に例示した取り決めは,「対面での心理相談」の枠組みである。つまり,利用者様にセンターが来談することを前提とした決まりごとなのである。オンライン相談では,この「相談機関までお越しいただく」という前提がなくなる。となると,「いつ・どこで相談をするか」などの枠組みを「オンライン心理相談の場合はどうするか」という観点で考え直さなければならないことになる。
「ルールがはっきりしないままでなんとなくオンライン相談が始まる」となると,利用者様も心理職も,安心して相談に臨めない。そこで当センターのスタッフは,続いてこの「オンライン相談の枠組み」を作るために議論を重ねた。

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4)オンライン上での「相談の場」を作る

「相談の枠組み」に関連する事項にはさまざまなものがある。最も基本的なものは「いつ・どこで相談をするのか?」である。コロナ禍により「面接室にお越しいただくこと」が難しくなると,「では,どこでオンライン相談を実施するのか」という問題が発生する。「どこで」と言うと,それはもちろん「Zoomのミーティングルームというバーチャル空間で」となる。では,「バーチャル空間が確保できれば,あとは何でもいいのか?」という課題が出てくる。

Zoomのミーティングルームの便利なところ,そしてそれゆえに危険なところは,「何らかの端末さえあればいつでもどこからでも簡単にアクセスできてしまう」ということである。だからこそ,「心理職がどの端末を使って,どのアカウントから,そのミーティングルームに入っていくか」をルールとして決めておく必要がある。それが厳密にルール化されていないと,心理職が自身の個人情報の入った端末(個人のPCなど)や私用のアカウントを使っても良いことになる。その場合,心理職のプライベートな部分と「相談の場」(=相談に集中するため,余計な外的要素から守られた場)の境界が曖昧になる。
「いつでもどこからでも簡単にアクセスできてしまうミーティングルーム」というのは,言いかえると「気をつけなければ公私の境目が曖昧になりがちな空間」である。だからこそ,その空間が「私」の部分によって侵食されないようにするための決まりごとが必要となる。例えば,心理職が私物の端末を使い,その端末に入っている個人的な情報が画面に映し出されたりすると,相談の場に心理職の「私」の部分が入り込む。その結果,利用者様もオンラインでの相談中に,「今は余計な情報が入ってこない,相談に集中できる場に来ているのだ」という安心感が得られなくなる。
そこでセンターは,「守られた場」としてのオンライン相談の「場」を設定するための枠組みとして,表2のルールを作成した。

表2 相談の場を設定するためのルール
・オンライン相談に使う端末としては,「相談専用のタブレット」を使う
・「相談専用のタブレット」には,相談に必要なデータやアプリケーション以外は入れない(各心理職の個人的な所有物としてのデータなどは入れない)
・ミーティングルームに参加のためのURLを送付するための心理職のメールアドレスとして,「その用途のため“だけ”に使うアドレス」を新たに発行する
・相談用のZoomやSkypeのアカウントは,そのアドレスを使って作成する

要するに,「オンライン相談専用の」メールアドレスとZoom(Skype)アカウントを作り,「オンライン相談専用の」端末からZoomのミーティングルームにアクセスするようにしたわけである。
新しいアドレスは,普段より当センターのIT関連の保守サービスの契約をしている株式会社クエストコンピュータに協力をいただいて作成した。心理職にそれぞれの専用アドレスが割り当てられ,オンライン相談に際してはそのアドレスから,利用者様のアドレスにテレビ会議のURLを送ることとなった。

なお,相談を「いつ」行うかについては,従来のルールに変更を加えなかった。これまで当センターでは,「原則として月曜~日曜の10時~17時のどこか(心理職によって担当する曜日や時間帯は異なる)」で「1回1時間(相談内容によっては1時間半)」の心理相談を行なっていた。オンライン心理相談に切り替えてからもこの枠組みを変えることはしなかった。オンラインの相談だからといって――つまり,「手元に端末があればいつでもミーティングルームに入れる」からといって,相談を実施する時間とそうでない時間をきっちりと区別しておかなければ,公私の境目が曖昧になってしまうからである。


5)相談を支える「運営システム」を作る

ここまでで,「相談に使うツール(Zoom)」と「相談の場(専用の端末で入るミーティングルーム)」が決まった。しかし,それだけでは十分ではない。「いつ・どこで相談をするか」という枠組みが決まっても,その枠組みを機能・維持させるための運営システムが整っていなければ,心理相談は始められない。ここで言う運営システムというのは,「心理相談はこの時間にこういう場で実施しますよ」という枠組み通りに,実際に相談が行えるようにするための,諸々の決まりごとのことである。具体的には,表3の事項に関する決まりルールである。

表3 相談業務の運営に関する事項
・利用者様さんとどのように連絡を取って,相談の予約をしていただくのか?
・その予約状況を,どのように確認するのか?
・相談料はどのようにお支払いいただくのか?

心理相談の枠組み自体が出来上がっていても,予約のための連絡の方法や相談料支払いの方法が決まっていないと,実際に相談を実施・維持してセンターを運営していくことができない。この運営システムも,コロナ禍以前は「利用者様にセンターまで来談いただくこと」を前提に作られていた。このため,オンライン相談の開設に当たり,これらの運営システムについても見直さなければならなかった。以下,これらの運営システムをどのように改定していったかを記載する。

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①利用者様との連絡の取り方をどうするか
当センターでは,利用者様からのご連絡(予約/キャンセルや振替/各種お問い合わせなど)は基本的にすべて電話を介して対応していた。センターから利用者様に連絡をする際も電話をしていた。そのため,利用者様のメールアドレスを取得してなかった。
しかし,Zoomでオンライン相談を実施するとなると,「テレビ会議を開始するためのURLを,利用者様のメールアドレスにお送りする」という手続きが必要となる。そこで,電話を連絡手段とする旧来の運営システムを改め,利用者様のメールアドレスを取得して連絡する枠組みを作る必要が生じた。
そこで,当センターのホームページに「メールアドレスの登録フォーム」を設けて,利用者様にご自身のメールアドレスを登録していただくこととした。来談が中断となっている利用者様全員に受付スタッフから電話をして,「5月以降はオンライン相談を実施することにした。ついては,メールアドレスの登録をお願いしたい」と伝えることとした。受付スタッフは,登録されたアドレスを心理職に伝えて,オンライン相談を実施する準備を進めるという方針に決定となった。
また,新たに「当センターへのお問い合わせ用のメールアドレス」を発行し,そちらもセンターのホームページに掲載することに決めた。利用者様からの何らかのご質問等はそちらにお送りいただき,受付スタッフが確認して適宜返信するという枠組みを新たに作成した。受付スタッフも外出自粛をする非常事態に対応して,センターの「窓口」を電話からメールへ切り替えるシステム変更を行った。ただし,メールは,利用者様が夜中でもいつでも送り付けることが可能であるので,受付スタッフがメール対応をする時間帯を決め,それをメールのやり取りのツール(枠組み)としてホームページに掲載した。

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②予約の取り方/予約状況の管理の仕方
「心理相談の予約をどのようにお取りいただき,予約状況をどのように管理するか」も,重要な運営システムの一つである。これまで,当センターでの対面の相談においては,以下のような方法で予約日の決定をしていた。

・心理相談の時間が終了する前に,心理職が利用者様の次回の希望日時を確認する。その上で,PC上の予約管理システムに次回の日時を入力する。
・または,相談後にセンターまでお電話いただき,受付スタッフが次回の希望日時を確認する。その上で予約管理システムに次回の日時を入力する(入力された内容は担当の心理士に通知される)。

しかし,緊急事態宣言下では,受付スタッフがセンターに常駐しておらず,利用者様からのお電話をお受け取りできない状況になっていた。このため,上記の枠組みでの予約は不可能となっていた。そこで,メールアドレスを予約のための窓口としても活用することした。予約管理システムは在宅でも確認や操作ができるため,それを用いることで,受付スタッフがセンターに行けない状況でも予約入力ができるシステムを構築した。
「受付スタッフが心理職と利用者様の間に入って予約管理をする」という運営システムや,「予約入力ができる時間帯(10時~17時)と不可能な時間帯を明確にしておく」という運営システムは,「相談の枠組み」を維持するためにとても重要なものである。もしこれらの決まりがなく,「心理職と利用者様が直接メールなどで連絡を取り合い,都合の合う時間であれば早朝でも夜中でも,場合によってはかなりの長時間にわたって心理相談をする」といったやり方がまかり通ってしまったら,お互いがお互いのプライバシーに踏み込みすぎる危険性が出てくる。オンライン相談の場が「いつでもどこからでもアクセス可能になりうる場」であり,うっかり相手のプライベートな部分に入り込めてしまう危険性(あるいは,心理職のプライベートな部分を晒してしまう危険性)を伴うからこそ,この枠組みが重要となる。ここが曖昧であると「公私の境目」を崩すことになり,多重関係といった倫理的問題が生じやすくなる。
各心理職の相談の予定が予約管理システムに入力されることは,心理職だけではなく受付スタッフも「各心理職の予約状況」が確認できるということである。心理職と利用者の予定を受付スタッフもチェックできる――この仕組みも,安心できる相談の場を作っていくための大切な運営システムである。

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③相談料のお支払いの方法
「相談料の支払い手続きをどうするか」も,整備しておくべき運営システムの一つである。これまで当センターでは,ご来談時に直接現金でお支払いいただくという形態で相談料を受け取っていた。しかし当然,オンライン相談では,お金を「直接手渡しで」というわけにはいかない。そこで当センターは「相談料用の口座」を新たに開設し,相談料をそちらにお振込みいただくことにした。
オンライン相談においては,相談料を原則として「前払い制」にする必要がある(詳しくは⇒本マガジン6-4「オンライン心理相談スタートガイド」参照)。しかし当センターでは,どのタイミングで相談料をお支払いいただくかという問題に関して議論した結果,「面接後1週間以内に銀行振込をしていただく」という後払い制を採用することにした。その理由は,オンライン相談実施の初期段階では心理職の不慣れや機器の接続不備などで相談時間が実施できない,あるいは短くなるなどのトラブルが起きる可能性があり,その場合には料金を調整する必要があると判断したためである。ただし,後払い制は,開設初期段階のものであり,今後は前払いに変更する可能性はある。

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6)個人情報をどう守るか

新しい運営システムを作る中での大きな変化として,「利用者様とのメールによるやりとりがかなり増える」ということがあった。それと関連してアドレスを含めた個人情報の管理が重要なテーマとなった。そこで,デジタル情報の管理に詳しい株式会社クエストコンピュータからアドバイスを受け,①個人情報はオンライン上には絶対に保管しない,②センター内の,一台のPCのみに保管する,というルールを決めた。個人情報をオンラインストレージなどに保管してしまうと,その情報がハッキングされる可能性もあるので,メールアドレス録を一台のPC「のみ」に保管し(=無闇に情報の複製をせず),「そのPC自体が盗まれない限りは個人情報が流出しない」という状態を作ることとした。オンラインでの情報の漏洩が起こりやすい時代だからこそ,重要な情報は「物理的な盗難さえされなければ絶対に外へ出ない状態」にしておくことというルールを厳守することとした。

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7)いよいよ利用者様への連絡開始

当センターでは,スタッフ会議を重ね,上述してきたようなオンライン心理相談のシステム全体――相談に使うツール/相談の枠組み/利用者様との連絡の方法/予約の方法/相談料支払い方法/個人情報を守る方法など――を,新たな枠組みとして作った。その枠組みと関連する事項のうち,利用者様に了承いただく必要があるもの(オンライン相談の概要や支払い方法など)が複数あった。そこで,それらの事項を記載した「オンライン心理相談用の同意書」を新たに作成し,当センターのホームページにアップした。利用者様がオンライン相談を始める際は,事前にその同意書をダウンロードし,内容にご了承いただけたらご署名し,送付していただくという方法をとった。

新たな相談の「場」と「枠組み」(運営システム)が設定され,オンライン相談の準備が整ったので,次は利用者様に「相談再開」の旨を連絡することになる。当センターが休室を決定した後,ホームページにはしばらくの間「5月6日まで休室」としか記載できていなかった。しかしいよいよ,「5月7日以降具体的にどうするか」を,利用者様にお伝えするときが来た。

まずホームページ上に,「5月7日以降も対面での相談活動は自粛し,その代わりオンライン心理相談(または電話相談)を実施する」という方針を掲載した。加えて当センターの受付スタッフが,利用者の皆様に電話連絡を行い,お一人お一人に今後の方針をご説明した。その上で,オンライン相談のご希望を伺った。
冒頭で述べたように,4月初旬にセンターの休室が決まった際,受付スタッフは「予約をして下さっていた利用者様全員」にキャンセルのお願いの電話をした。そのように突然「しばらく休みます」と伝えられることで,唐突にセンターとの関係が途切れてしまうかのような不安を感じた方もおられたと思う。この「関係が急に途切れた状態」を解消するためにも,受付スタッフは短期間のうちにかなり大勢の方々に電話をかけ,今後の方針等をお伝えした。

それは,かなり労力が必要な作業であった。幸いなことに,当初スタッフが想像していた以上に,多くの利用者様がオンライン相談への切り替えを受け入れてくださった。Zoomの使い方についてもすでに知っていると仰る利用者様が多く,オンライン相談の手順等については細かい説明をしなくともおおむねスムーズに話が進んだ。
当センターのホームページに「オンライン面接実施の手順」を載せていたこと(そこでZoomの使い方を説明していたこと)も,スムーズに話が進んだ要因の一つだったかもしれない。また,Zoomというツールが広く世間に知られていたことが大きかったと思う。

電話連絡に加えて,利用者の皆様のメールアドレス録の作成や,それらのアドレスを各担当心理職に連絡する作業なども必要であった。複数人の受付スタッフでこれらを分担し,力を合わせて作業を進めた。大変な作業ではあったが,センターの心理相談の再開を待って下さっていた利用者様が多くいらっしゃったことは,スタッフにとって大きな励みとなった。多くの方々にオンライン相談をご希望いただき,職員一同,「新体制への切り替えに踏み切って良かった」と強く感じた。

以上のような紆余曲折を経てオンライン相談システムを整えた当センターは,今後のウィズ・コロナの時代においても利用者様が少しでもスムーズに相談を受けられるような体制を整えていくことを重視したいと思っている。オンライン相談の可能性や限界点,そして限界点を乗り越えるための対処法など,新体制の中で新たに見えてくることも多いのではないかと思っている。それらの発見をよりよい心理相談活動活かしていくため,これからも工夫を積み重ねて行きたいと考えている。

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第6号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.6


◇編集長・発行人:下山晴彦
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