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4-1.特集にあたって:新型コロナウイルス対策の最前線からの報告

(特集 COVID-19治療の最前線から“心理職の役割”を考える)

下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)

1)日本赤十字社医療センター秋山恵子先生(メンタルヘルス科心理職)に聞く

本号では,日本赤十字社医療センター(以下,日赤医療センター)のメンタルヘルス(精神)科の公認心理師・臨床心理士である秋山恵子先生のインタビュー記事を掲載する。秋山先生は,同センターの新型コロナウイルス関連の医療救護活動を終え,帰還した職員への面談を行うなど,後方支援に心理職の立場であたっていた。
秋山先生にお願いをした理由は,治療の最前線で実際何が起きていたのかをお聞きしたいということがあった。それとともに日本赤十字社が作成した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応する職員のためのサポートガイド」(以下,サポートガイド)の作成者のお一人であり,その作成の経緯をお聞きしたいということもあった。

http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/pdf/新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応する職員のためのサポートガイド.pdf
https://www.youtube.com/watch?v=4mEocQzH3wg

「サポートガイド」は,新型コロナウイルス感染症の影響を生物的側面だけでなく,心理社会的側面を含めてとらえ,メンタルヘルス対策の重要性を明確に示している。そして,新型コロナウイルス感染症対策においては,単に医学的治療だけでなく,不安・恐怖・ストレスに対する心理的対応や嫌悪・差別・偏見に対する社会的対応の必要性が具体的に解説されている。また,家族や治療組織の心理社会的観点から支援することの重要性も具体的に解説されている。その点で,新型コロナウイルスに関わる,すべての人にとっての優れたガイドとなっている。
このような「サポートガイド」の内容は,新型コロナウイルス対策において心理職の無力を痛感し,「心理職にできることがあるのだろうか」と途方に暮れていた自分にとっては,まさに目からウロコであった。そこで,今回のインタビューでは,「新型コロナウイルス対策において心理職は何かできるのか」をテーマとして,秋山先生にお話を伺った。

2)インタビュー前の問い①「心理職は,本当に為す術がないのか?」

今日の新型コロナウイルスによって引き起こされている状況は,心理職にとって大きな試練になっている。
私たちは,感染の危険性が高いゆえに,《密閉》空間・《密集》場所・《密接》場面の3“密”状況を避けることが求められる。閉ざされた面接室で複数の人間が近くで会話をする心理面接は,この3密状況になりやすい。したがって,心理職は,通常の活動のあり方をそのまま継続することが難しくなる
さらにいえば,最重要課題となっている新型コロナウイルス感染者の治療や感染予防において必要とされるのは,医学的治療であり,行政的な措置である。そこでは,心理職の出る幕がない。地震などの災害支援では,ストレスコーピングやPTSDからの回復支援といった点で,心理職に求められる役割があった。しかし,新型コロナウイルスのような感染症対応では,心理職は為す術がないようにみえる
では,本当に心理職は,このような国家的危機状況において何もできないのであろうか。ただ単に一般の人と同様に“外出自粛”をして,自宅に待機していることが最大の貢献となるのだろうか?

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3)インタビュー前の問い②「対策の最前線で何が起きているのか?」

緊急事態宣言が出ている状況で,多くの国民は外出自粛を要請されている。しかし,その一方で心理職コロナウイルスに対応する医療従事者は,医療崩壊の危険性が叫ばれる過酷な環境において必死に治療に取り組んでいる。中国や欧米諸国では,実際に医療崩壊が起きて,多くの医療従事者が自らも感染した。亡くなった医療従事者も少なくない。
日本でも,多くの病院や施設で院内感染が起きている。医師や看護師などのスタッフとともに入院患者のクラスター感染が起きて,大きな問題になっている。まさに,医療従事者は,新型コロナウイルス対策の最前線で,自らも感染の危険性に直面しながら,重大な責任を担って医療業務にあたっている。
もちろん医療領域で働く心理職も,広い意味で医療従事者となる。当然のことながら,医療領域で働く心理職は,外出自粛をというわけにはいかない。医師や看護師などの医療従事者と,連携・協働して新型コロナウイルス感染者の治療や感染防止,さらには感染に関連するメンタルヘルス問題の解決に向けて活動をしている。
では,そのような医療場面において心理職は何ができるのだろうか?

4)秋山先生のインタビューに向けて

以上の疑問を抱えて秋山先生にインタビューを依頼するために,日赤医療センターに取材を申し込み,許可が降りたので,4月29日(水曜)の午後にZoomによるオンラインインタビューを実施した。要した時間は1時間30分ほどであった。インタビューは,主に下山が質問し,遠藤麻美(東京大学大学院理学系研究科・理学部学生支援室 助教)が質問補助を務めた。
北原佑理(下山研究室特任助教)がインタビューの環境設定と記録作成,井上薫(下山研究室特任研究員)が記録作成,原田優(下山研究室特任研究員)が記事デザイン制作を担当した。記して感謝する。

インタビュー記事においては,「新型コロナウイルス」という語を用いずに,主に「COVID-19」(あるいは「COVID」)を用いる。これは,Coronavirus Disease 2019の略である。「2019年に確認された,新型コロナウイルスによって引き起こされた病気」を意味する語であり,WHOによる正式名称である。

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