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9-6.研修を活用してキャリア・アップしよう!

(特集 今でしょ! 心理職スキルアップ!)

下山晴彦(東京大学/臨床心理iNEXT代表)

1.『心理職スキルアップ2020夏』の目標
本項では,皆様のキャリア・アップに向けて,オンライン研修「心理職スキルアップ2020夏」を活用していただくためのご案内をします。
https://tomishoboevent.blogspot.com/2020/07/inext.html?spref=tw

最初に,「心理職スキルアップ2020夏」の目標をご説明します。

現在の日本の心理職の課題は,公認心理師の限界を越えて,主体的で,自立した専門職として実力をつけていくことです。そのためには,現代の臨床心理学に基づき,実践心理職としての専門技能を体系的に習得してくことが必要となります。
※現代の臨床心理学⇒http://www.utp.or.jp/book/b432320.html

では,実践心理職の技能体系は,どのような構造になっているのでしょうか。

実践心理職の活動は,「実践活動」,「研究活動」,「専門活動」に大別できます。そして,それぞれの活動を実行するための技能があります。
「心理職スキルアップ2020夏」は,その中で「実践技能」に絞っての研修としました。

《実践活動》は,「アセスメント」→「ケースフォーミュレーション」→「介入」の3段階を基軸として,心理的問題の解決を支援するための活動です。ここでは,3段階の各活動を実行するためのコミュニケーション技能が求められます。
《研究活動》は,実践活動の効果を検討し,さまざまなレベルのエビデンスに基づいて心理職の専門性と有効性を世の中に伝えていく活動です。ここでは,量的研究だけでなく,質的な研究の技能が求められます。
《専門活動》は,倫理や教育システムの確立などを通して心理職の社会的責任を明確にするとともに,さまざま社会的資源との連携や協働を通して心理職の専門性を社会システムに位置づけていく活動です。ここでは,コミュニティ,組織,制度に関わる社会的技能が求められます。

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2.『心理職スキルアップ2020夏』のプログラム構成

「心理職スキルアップ2020夏」のプログラムは,本マガジン号外として実施したアンケート結果に基づいて構成しました。

アンケートで皆様に要望を伺った技能は,学習ニーズの高い「実践活動」の技能に焦点を絞りました。実践技能は,「コミュニケーション」技能を基盤として,「アセスメント」,「ケースフォーミュレーション」,「介入」の3段階を実行するための技能です。

各段階を構成するさまざまな技能を,臨床心理iNEXT会員を中心に多くの心理職に提示し,学習を希望する技能を回答していただきました。アンケート結果については,本号9-2「クイズ:今心理職が学びたいスキルとは」に詳しく記載したのでご参照ください。

そこで,皆様の要望の多かった技能をテーマとした研修に基づいてプログラムを構成しました。幸い,(筆者を除いて)そのテーマに関するエキスパートの心理職に講師をお願いできました。

どの講座が,どのような種類の技能研修に相当するのかを整理して示します。ご自身の技能学習の段階を考慮して,適切な講座を選択するためのガイドとしてご利用いただければ幸いです。

◆「実践の基本コミュニケーション」技能
[8/23] 9:00-11:00 動機づけ面接の基礎 林潤一郎
[8/23] 11:30-13:30 動機づけ面接の臨床活用 林潤一郎
[8/30] 9:00-11:00 認知行動療法の基礎から活用へ 下山晴彦
[8/30] 16:30-19:30 オープンダイアローグ 白木孝二
◆「アセスメント+ケースフォーミュレーション」技能
[9/6] 11:30-13:30 ケースフォーミュレーションの基礎 下山晴彦
[9/6] 16:30-18:30 知能検査の臨床活用 高岡佑壮+下山晴彦
[9/13] 11:30-13:30 応用行動分析の基礎から応用へ 小堀彩子
[9/13] 16:30-18:30 ケースフォーミュレーションの臨床応用 下山晴彦
◆「介入」の技能
[8/30]1 4:00-16:00 ストレスマネジメント 竹田伸也
[9/6] 9:00-11:00 マインドフルネスの基礎 大谷彰
[9/6] 14:00-16:00 アンガーマネジメント 竹田伸也
[9/13] 9:00-11:00 マインドフルネスの臨床活用 大谷彰
[9/13]14:00-16:00 応用行動分析の臨床活用 大月友
◆「介入の応用としての子どもの支援」の技能
[8/23] 14:00-16:00 子ども認知行動療法の臨床活用 松丸未来
[8/23] 16:30-18:30 発達障害支援ペアレントプログラム 黒田美保
[8/30] 11:30-13:30 「虐待」を受けた子どもへの統合的支援 内海新祐

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3.キャリア・アップのために研修を活用する
臨床心理マガジンiNEXT8号では,心理職が現場で活躍するために必要な技能について現場の最前線で仕事をされている若手,中堅,ベテランの心理職の皆様にインタビューをして,その成果をまとめました。
⇒ https://note.com/inext/m/m94b37aba07aa

「心理職スキルアップ2020夏」は,公認心理師の限界を越えたキャリアップを目指す実践心理職の実践技能の研修となっています。ただし,実践心理職としてキャリア・アップをしていくためには,実践活動の技能の熟達化だけでは十分ではありません。冒頭に述べたように研究活動や専門活動の技能も習得していくことが求められます。

そこで,臨床心理マガジンiNEXT8号掲載のインタビューにおいて明らかとなった心理職のキャリア・アップの各段階で必要となる技能についてまとめました。

《大学院時代》
・まず大学院時代に学んでおかなければならないのは,クライエント様だけでなく,同僚や他職と信頼関係を築くコミュニケーション能力です。
・コミュニケーション技能は,カウンセリングの共感技能や内省技能が基本となります。
・内省技能を前提とするスーパービジョンを受ける技能も習得すべき技能です。
・アセスメント技能は,大学院で学んでおく技能です。単に診断ができるというだけでなく,病理や障害を含む問題の成り立ちを探っていくためのアセスメントができることが,現場に出るためには必要となります。
・知能検査などの心理検査だけでなく,受理面接や初回面接の技能も基礎技能として学んでおく必要があります。
・倫理についての基本的判断ができる専門活動の基礎技能も必要となります。
《若手時代》
・それぞれの職場(分野)に特有の知識を増やし,アセスメント技能に習熟していくことが課題になります。
・医療分野では,神経心理的検査が求められます。教育分野では,クラスなどの集団ダイナミックのアセスメントが必要となります。福祉分野では,発達検査や家族状況のアセスメント技能が必要となります。
・アセスメントで得た情報を再構成して問題の成り立ちを推測するケースフォーミュレーションの技能を磨くことが必要となります。
・さらにそのケースフォーミュレーションをクライエントや他職にわかりやすく説明するコミュニケーション技能が必要となります。
・職場(分野)で求められる介入技能の習得と習熟が課題となります。
・医療分野では認知行動療法や行動変容の技能が重要となります。教育分野ではグループワークや心理教育の技能が重要となります。福祉分野では,家族療法やコニュニティ心理学の技能が重要となります。
・いずれの分野でも,他職と連携してケースをマネジメントする技能を発展させることが課題となります。
《中堅時代》
・アセスメントや介入の技能の熟達化を進めることが主な課題です。
・個人の技能の熟達化に加えて,心理職の活動を社会的に位置づけ,発展させるためのリーダーシップ技能が求められます。これは専門活動の技能です。
・同僚や他職をサポートする技能や,他職と協働してのコンサルテーション・リエゾンの活動を実施できる社会的技能の上達が課題となります。
・関連する諸団体と協力して現場で起きている問題を社会に伝えるアドボカシー技能を発揮できることも課題となります。
・関連する諸団体と協力し,現場での活動の実態を報告したり,有効性を示すエビデンスを提示したりする,広い意味での研究活動の技能も求められます。
・職能集団と協力して当該分野の心理職の専門技能の体系を明確にし,習得技能のボトムアップのための研修会を開催し,若手を育成するスーパービジョンを行うなどのリーダーシップ技能が求められます。


4.皆様のキャリア・アップを応援します
「心理職スキルアップ2020夏」の参加者には,大学院生,若手,中堅の心理職の方が多いと思われます。それぞれの段階において,必要な技能を確認し,ぜひ次の段階に向けてスキルアップをして下さい。

臨床心理iNEXTの目的は,心理職の皆様が公認心理師の限界を越えて,実践心理職として専門性をさらに発展するための,幅広い支援を提供することです。

ぜひ,広い視野をもち,一緒に研鑽を積んでいきたいと思っています。臨床心理iNEXTは,そのような研修の場も提供していきたいと考えています。

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臨床心理マガジン iNEXT
第9号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.9


◇編集長・発行人:下山晴彦
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