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非線形とサッカー

「サッカーというスポーツの現象」を知る

 「サッカーはカオスであり、フラクタルである」この言葉を聞いたことはあるだろうか。最近、巷でよく聞く「戦術的ピリオダイゼーション」の考案者として知られるVítor Fradeの言葉である。

 「カオス」や「フラクタル」という言葉は物理・数学で用いられる言葉であり、一見サッカーとは関係がなさそうだが「サッカーというスポーツの現象」を考えていく上で極めて重要な概念である。

 なお、著者は博士号まで取得している変わり者だが、物理・数学を研究をしてきた者ではない。そのため、間違った見解をしていることも考えられる。もし、気になる点があったらご指摘、ご指導していただければ幸いである。


線形と非線形


 混沌、無秩序といった意味の「カオス」のような複雑な現象は非線形現象に現れる。「非線形」という言葉はあまり聞き慣れないと思うが、非線形とは文字通り、「非」線形のことを指し、線形でないということである。

 線形の現象では、いくつかの作用があるとシステム全体の結果は各々の作用に比例した結果や足し合わせた結果となる特徴がある。「1+1=2」とかをイメージしていただければと思う。

 近代科学の中心的な方法は、このような線形な考え方をすることに基礎があり、階層的に要素へと分解して理解していく。このような考え方を「還元主義論」ともいう。

例えば、ある生物を理解しようとする際に以下のような考え方ができる。
「分子・タンパク質→細胞」
「細胞の集団→臓器・器官」
「臓器・器官→生命を形成する」
 このように、あるものを理解しようとする時に分解をしていく考え方である。そして、分解したものを足し合わせて理解をしていくといったものである。

 この考え方の長所は、問題を徹底して突き詰める所にあり、ある対象を極限まで粉々に分析することで、問題の真の所在を明らかにしようとすることである。これにより、以前は見えなかった対象が明らかにされることである。

還元主義


 一方、非線形では比例や足し合わせは成り立たず、予期しないような複雑な変化が見られる。経済・社会、気象現象、神経系、細胞など、比例な関係が成り立たない現象のことをいう。

 非線形における「複雑」 は以下のような特徴を有する。

・相互作用する多数の部分系の集団が全体系をなす

・要素に分解できないもの、分解することで本質から離れる

 ここで、一つ非線形について書かれている本の一部を紹介したいと思う。

「ある人の顔を構成する目、口、鼻などの各部分についてどれほど詳しい情報をもっていても、その人固有の「顔つき」はわかりません。顔つきはこれらの要素の布置から生まれる新しい性質であり、要素自体についての知識には含まれないサムシングだからです。」(蔵本, 非線形科学より)

 「顔つき」を見たいのに、分解して見てしまうと鼻、口、目などは詳しくわかるが、本来の「顔つき」が見えなくなってしまう。
 
 つまり、相互作用する多数の部分系の集団が全体系をしているため、分解することで本質から離れてしまうのである。

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 古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「全体とは、部分の総和以上のなにかである と述べている。さすがはアリストテレス、本質をついている言葉である。


サッカーは非線形現象

 相互作用する多数の部分系の集団が全体系を成し、分解することで本質から離れてしまう現象・システムである「非線形」の考えは理解できたであろうか。以上のことを忘れずにサッカーについて考えてみる。

 サッカーに限らずスポーツのパフォーマンスには身体的要素、技術的要素、精神的要素の「心・技・体」が関わっていることは周知の事実である。これらの様々な要素を向上させることでサッカーのパフォーマンスも向上するのは間違いない。

 では、これらの要素の一つ一つを「分解して、足し合わせた」ところでサッカーのパフォーマンスは向上するのであろうか?

「足を速くする」
「ドリブルを上手くする」
「パスを正確にする」
「体力を上げる」
・・・etc
これらを足し合わせたらサッカーのパフォーマンスが向上するのであろうか。これらの要素はサッカーのパフォーマンスにおいて重要なことであるが、切り離してしまうと「サッカーの本質から離れてしまう」ことが考えられる。

 つまり、サッカーとは「非線形な現象であり」全体と部分を切り離して考えることができないものといえる。

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INEFCでの「サッカーメソッド」の授業

 「サッカーというスポーツの現象」あるいはサッカーの本質を理解する前に、サッカーの各部分(技術・戦術・パス・ドリブル・シュートなど)ばかりへ目がいってしまい、サッカーを細分化して理解することが習慣化されていないだろうか。

 サッカーは「非線形な現象であり」全体と部分を切り離して考えることができないものである。そのため、サッカーの本質である状況判断や外的な要素がない反復トレーニングやボールを使わないフィジカルトレーニングについてもう一度考え直す必要があるのではないだろうか。

 では、「ずっと試合をやっていればいいじゃないか」と思うかもしれない。もちろん、そういうわけにもいかない。外的な要素がない反復トレーニングやボールを使わないフィジカルトレーニングも極めて重要である。

 しかし、それぞれの練習が「サッカーにおける現象」にどのような効果を与えるのかを見直す必要がある。

 バルセロナ大学INEFCでは、サッカーというスポーツを「非線形な現象」と捉え、どのように練習方法を構築していくのかという「サッカーメソッド(方法論)」の授業がある。 

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 INEFCの講義で使われていた資料である。また、カタルーニャサッカー協会の資料にも用いられているものである。

 今後は、「非線形な現象」であるサッカーをどのようにトレーニングしていくのかという「サッカーメソッド(方法論)」の授業内容について触れていこうと思う。

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