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海 そして森の夜 <徳之島③>

港で開けたビールの瓶は 瞬く間に空いた
ライムはないが あたたかな夜の空気が広がっている
ドアや窓の隙間から流れ来る音 灯りから酒場を目指し
海上にも光 揺らめくは俺か
遠くに見ゆる 巨きな船の洋燈か
繋がれた舟たちは 気持ちよさそうに眠りの中
時の流れは 何処までも穏やかそのもので
**
女の胸に顔を埋め ふわりと頭を抱かれてゐる
静かな呼吸が 過ごした酒を忘れさせ
夢の淵に留まる 俺たちはおんなの中に海を見る
おんなは何を視ているのだろうか 情愛
燃え上がった炎 はたまた己

男たちは と女が口を開きかけ綺麗な歯がこぼれる
精を放つた瞬間 遅くても明日には
すっかり忘れちゃういきものでしょう ひっそりとした笑いは
しんとした部屋の隅に 吸い込まれゆく
*
海で育ち 山や湖も身近だった
太陽に温める暇を与えず さらさらと流れる川に身を浸したときの緊張に
おっとりと雄大で 温かなものに包まれていたと気付く
昔とはちがう場所から眺める海もまた 心に沁みる碧さなんだ

柔らかく笑んだあいつを 泣かせちゃいけなかった
取り返しのつかぬ愚かさを 正当化する気はないけれど
救いやうのないいきものと化さないよう ブレーキは掛けた筈
見方次第 いとおしさや慈しみは
思いがけない地平から覗くもの なあ神様
其処にいるなら聞いてくれ もう女に哀しい思いさせやしない
あの森にまた這入つて 真実を探し出してみせるから
頼むよ 聖なる場所への門を閉ざさないでくれ
**
場所の匂い 濃密な気配漂うよるの森は
種々のいきものの呼吸に充ちる アオイねとはにかんだ男を
彼女は忘れてないかもしれない でもそんなことはどうだっていい
今隣にいるのは俺 アカショウビンが啼く
心を見透かすようなタイミングに姿を探せば 鮮やかな体色が眩しい
地をネズミが跳んだ あのつぶらな瞳の主がこんなにも小さいなんて
敏捷な動きに 棘々しい体毛の
一瞬のそよぎさえも映せなくて 太古のウサギ息づくこの地で
森の精になっちまうには 早過ぎるだろ
今夜だけでいい 寝所につながる梯子を
そっと降ろしちゃくれないか 今夜は満天の星
一面の星たちは 地表近くまで瞬いて
おれたちの存在は ほんとうにちっぽけだ
そっと祈り 眠りに就かう
(2017.05)

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             アカショウビン

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           アマミノクロウサギ

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Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛