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「脳トレジム」の立ち上げ、そして挫折…

 こんにちは。

 インクルード公式note編集部です。

 前回のnoteでは、私たちインクルード株式会社が運営する就労移行支援事業所の「ニューロワークス」誕生秘話についてお伝えしました。


 前回でも触れたように、私たちインクルード株式会社は脳科学者や精神科医の監修のもとでつくられた、脳と身体の健康を維持する「ブレインフィットネスプログラム」を就労移行支援や自立訓練、復職支援に取り入れています。世に多くの就労移行支援事業所や自立訓練、復職支援(リワーク施設)がある中で、「脳」に焦点を当てた支援はめずらしいかもしれません。この「ブレインフィットネスプログラム」こそが、私たちインクルードの原点のひとつなのです。

 今回は、そんな「ブレインフィットネスプログラム」とインクルードについて、創業者である代表に伺いました!


1.会社を創業した経緯

編集部(以下、「編」):本日は、インクルード株式会社(旧株式会社イノベイジ) 代表取締役の高山(たかやま)社長にお話を伺います。よろしくお願いします。

高山(以下、「高」):よろしくお願いします。

編:前回はインクルードの尾崎(おざき)取締役に、ブレインフィットネスプログラムを就労移行支援に活かすことでニューロワークスというサービスを立ち上げることになった経緯を伺いました。今回は、そもそもなぜブレインフィットネス事業を始めたのかについてお聞かせいただければと思います。この事業を始めるにあたって、脳科学に関する専門知識や経験などはあったのでしょうか

高:いえ、もともとはインターネット広告関連の会社を経営しており、脳科学に関して深い知識があったわけではありませんでした。

編:そうなんですね。どのようなきっかけでブレインフィットネスという分野に乗り出そうと考えたのでしょうか。

高:前職では、インターネット広告の黎明期に「リスティング広告」という21世紀の最初の10年に最も成長した領域にいち早く参入でき、優秀な仲間と出会えたこともあって、上場を果たすことができました。その後も会社は成長を続け、運用型広告の業界では最大手になることができました。

編:ということは、起業に関しては今回がはじめてではなく、以前にも創業の経験があったということですね。

高:はい。創業を経て上場後、経営に関しては二代目に引継ぎ、さらなる成長軌道に乗ったことを見届けたタイミングで一から次の挑戦をしようと考えました。

2.なぜ「脳科学」だったのか

編:以前のインターネット広告分野の事業から、大きく変わって脳科学の分野にした理由は何だったのでしょうか。

高:次の挑戦は、社会課題の解決を目指し、成長も目指す、社会性と事業性を高度に両立する会社を創ろうと。日本はこれから超高齢社会に突入していくので、そこで生じる課題を解決する会社を創りたいと考えました。社名は、“AGING SOCIETY” を“INNOVATE”するという意味を込めて、「イノベイジ」にしました。

編:つまり、「脳科学」ありきではなく社会課題を解決する企業をつくることを考え、その方法のひとつとして脳科学の分野が関わってきたということですね。創業時の事業はどのようなものだったのでしょうか。

高:まず「超高齢社会日本のどの課題を解くか」という模索から始め、行き着いたのが認知症です。認知症はなってしまうと根本治療薬がないため、予防することの重要性が注目されています。医師でない私にできることは認知症予防に貢献することと考え、“認知症予防マニア”といわれるくらい認知症予防の本や論文を読み漁りました。そんな中、欧米で「ブレインフィットネス」という概念が普及していることを知りました

編:それが、現在のインクルードが提供しているブレインフィットネスの始まりになるということですね。そもそもですが、ブレインフィットネスとは具体的にはどういった考えに基づく、どのような取り組みなのでしょうか。

高:ブレインフィットネスは、脳の健康に関する総合的な取り組みやアプローチを指します。実は、ブレインフィットネスに関するプロダクトやサービスを提供するプレイヤーは、年々増えています。また、欧米ではグローバルのブレインフィットネスの市場成長レポートも出されるなど、成長市場としても認識されつつあります。ブレインフィットネスのプロダクトやサービスとしては、非医療の脳トレゲームや認知機能の簡易な検査、ブレインフィットネスのジム、医療としてのADHDや精神疾患を治療するブレインテックなどがあります。

編:ひと口にブレインフィットネスといってもさまざまな領域があるのですね。

高:そうです。私としては、非医療のブレインフィットネスに特化したジムを作り、身体の健康だけでなく脳の健康を意識する人をひとりでも増やし、認知症の予防に貢献したいと考えました。ただ、医師でない私がブレインフィットネスのジムを開く以上は科学的根拠、つまりはエビデンスに可能な限り忠実である必要があります。そこで、まずは二年にわたって東北大学加齢医学研究所との共同研究で認知症・アルツハイマー病への予防に関する介入の論文を徹底的に収集・分析しました。

編:二年にわたる研究で認知症予防法は確立できたのでしょうか。

高:いえ、「これだけをやれば認知症を予防できる!」という解は、残念ながらまだありません。しかし、複数の論文で一定の有効性が認められる介入がいくつかありました。そこで、「どれかひとつではなく、一定の有効性が認められる各種の生活習慣の改善を総合的におこなうことで認知症を遠ざける可能性が高くなるのでは?」と考えました。根拠として、総合的な生活習慣の改善により一定の認知症予防効果が認められるとする研究(フィンランドのFINGER研究※)が世界的に注目されていたことがありました。また、こうした生活習慣の改善は心臓などの身体の健康に良いとされることとほぼ一致しており、少なくとも健康を害することはなく健康を増進するという確信を持ちました

編:ひとつの「これだ!」という答えはなくとも、複数の取り組みによって脳や身体の健康を保つことができる可能性が高いことが、研究によって分かってきたということですね。

高:はい。この共同の論文研究を基に、大学教授や医師・医学博士、運動トレーナー、マインドフルネスの専門家、管理栄養士、スリープテックベンチャーなどの協力のもと、脳の健康に良い生活習慣をパーソナルトレーニングで会得する脳トレーニングジム「ブレインフィットネス®」を2017年4月にオープンさせました。また、時を同じくして当社に脳科学者の杉浦理砂が入社し、ニューロサイエンスラボ(現ブレインフィットネス研究所)ディレクターに就任、各プログラムの監修やさらなるエビデンス研究を行う形になりました。
2018年には私と杉浦の共著で「ブレインフィットネスバイブル 脳が冴え続ける最強メソッド」(幻冬舎)を出版しています。


3.「脳トレジム」とユーザーニーズ

編:ようやく事業として方向性が定まり、サービスを提供できるようになったということですね。ユーザーの評判や反応はどのようなものだったのでしょうか。

高:メディアにはかなり取り上げていただきました。「ワールドビジネスサテライト」「なないろ日和」「日経MJ」「日経ヘルス」「日経トレンディ」等々。

編:非常に広範囲に取り上げていただいたのですね。

高:しかし、集客は苦戦続きでした。

編:これだけのメディアに取り上げたいただいたのに、何故でしょうか。

高:まず、我々のサービスは認知症にならないことを保証することができません。あくまで、脳の健康維持に効果があるというエビデンスに基づくトレーニングをおこなう場であり、ジムに通うことで「認知症にならない」と確約できるわけではありません
また、脳は未解明なことも多く、トレーニングの根拠とするエビデンスが将来覆される可能性もあります。

編:成果を保証できない、ということですね。

高:そうです。そのため、こうした点の全てを、ご入会を希望するお客様に事前に説明し、それを了承いただいた方のみとご契約させていただくという事業方針をとっていました。景品表示法の優良誤認に当たらないよう広告の文言はもちろん、お客様と向かい合うトレーナーにも過剰な表現を使わないよう徹底しました。今の脳科学では、認知症予防を目指す事業をおこなうには「脳の健康に良い生活習慣を会得するジム」といったやや曖昧なコンセプトにせざるをえず、ボディメイクを目指すジムのように「○ヶ月で△kg痩せる!」という分かりやすい成果をうたえるわけではありません

編:ボディメイクのジムのようなわかりやすさがなかったということですね。

高:それだけでなく、認知症予防は本来40代前半から始めるべきと多くの研究者が指摘していることもありターゲット層は40代~60代くらいに設定したのですが、認知症を自分ごととして捉えていただくことは困難でした。

編:集客の面で苦労されたということですが、ユーザーが集まらない中、どのような手を打ったのでしょうか。

高:よりターゲット層を広げるために、ビジネスパーソン向けにストレスの軽減を目的とする「ブレインレストプラン」や「ニューロウエルネスプラン」、MCI(認知症の前段階である軽度認知障害)の方を対象とする「MCIサポートプラン」などもリリースしました。しかし、集客状況は改善するに至らず 2020年1月をもって脳トレーニングジム「ブレインフィットネス®」は閉店となりました。

編:新規事業の難しさですね。でもこうして立ち上がった「ブレインフィットネス」が、今もインクルードのサービスの主軸として残り続けているということですね!

高:ここに関しては、前回の尾崎取締役の話につながっていくわけです。

編:ブレインフィットネス事業の立ち上げのお話を伺うと、その後に誕生した「ニューロワークス」は、インクルードにとって大きなターニングポイントとなったことがよく分かりました。

前回は「ニューロワークス」の立ち上げを担当した現在の取締役である尾崎さんの視点からのお話でしたが、次回はインクルード創業者の視点から、事業の転換とニューロワークスの立ち上げや展開について伺えればと思います!

引き続きよろしくお願いします!

※ FINGER研究
スウェーデンのカロリンスカ研究所およびフィンランドのヘルシンキにある国立健康福祉センターのミーア・キビペルト医学博士らが発表した研究。2009年から2011年までに、60-77才のフィンランド人1,260名をランダムに介入群と対照群の2群に分け、対照群には一般的な健康アドバイスを、介入群には、健康的な食事、筋トレ・有酸素運動、脳エクササイズ、血圧管理などの総合的な介入を実施。結果、総合的な介入が、一般人の高リスク高齢者の認知機能を改善または維持できることが示唆された。

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