昔、付き合っていた人の話(終)

昨日の続きです。

別れを決めて、スッキリするかと思いきや、わたしの心に残ったのはどうしようもない虚無感だった。
胸にぽっかり穴が開いた感じと、これからに対する不安が重なって、夜眠れなくなってしまったのだ。
眠れないせいか食欲も落ちていた。
その上、異動前と言うことで仕事もどんどん忙しくなって、わたしの疲れはピークに達していた。

そんな、異動2週間前。
とうとう職場で倒れてしまった。
なんとなくふらつくな、水でも飲んでこようと給湯室に向かったまでは記憶があるのだが、そのあとの記憶がない。
気付いたときは給湯室の床に横になっていて、先輩と同期が真っ青な顔でわたしの顔を覗きこんでいた。
あとで聞いたところによると、わたしが離席したまま帰ってこないのを心配した同期が、給湯室で壁にもたれかかって倒れているわたしを見つけたのだそうだ。

当然、職場は大混乱。
その日は早退し、2日仕事を休んだ。
そのまま週末を迎えた。
休んでいる間に、いろいろなことを考えた。
恋人と別れたくらいでこんなことになるなんて、なんてメンタルが弱いんだろう。
体調管理もできないなんて社会人失格だ。
何より、無事に赴任できるだろうか?
赴任先では、今までと全く違う仕事もしなければならない。
赴任先で体調を崩して、迷惑をかけたりしないだろうか?

でも、このまま赴任を辞退したら、今までと変わらない。
変われないのは嫌だ。
自分の意志でこれからを変えたい。切り開いていきたい。
そう思った。
わたしが覚悟を決めた頃から、体調も少しずつ上向きになってきた。
食欲がなくても食べられそうなものを探し、時間があれば眠れなくても横になり、体力の回復につとめた。

そうして、復帰した休み明け、上司に呼ばれ、意思確認をされた。
このまま新天地へ赴任するか、辞退して今の職場に残るか。
体調不良であれば、辞退することも可能だと。
わたしの気持ちは決まっていたので、赴任させてほしい、2週間で体調を整えますと迷わず答えた。
上司をはじめ、周囲は心配そうだったが、わたしの意志を尊重してくれた。

結果、周囲の支えもあって、なんとか赴任できるまでに体調を整え、わたしは新天地へ旅立った。
不安もあったが、新しい職場でもあたたかく迎えてもらった。
仕事に生きる、と覚悟を決めたからか、全く畑違いの仕事もできるようになった。
やればできる、という自信もついた。

そして、今のわたしがいる。
思えばあの人は、わたしの人生のターニングポイントになっていたのかもしれない。

あの当時はどん底から這い上がれる日は永遠に来ないような気がしていた。
でも、今は、あのときの経験があるから、人の痛みが少しはわかるようになったのではないかと思う。
しなくても良かった経験かもしれないが、役に立たない経験ではなかった。

今、どん底にいる人は、ものすごく苦しいはず。
周囲に苦しみを打ち明けられず、ひとりでじっと耐えている人もいると思う。
でも、もし打ち明けられそうな人がいるなら、思い切って話してみるほうが絶対にいい。
その人が自分の味方になってくれたなら、それだけで光が見えてくるはずだから。

あなたの明日に、光が射しますように。
そう願って、この話を終わりにしたいと思う。

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