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インバウンド観光復活のシナリオ − 台湾・成田空港の事例を交えて考える

コロナウイルスによりインバウンド観光が大きな影響を受けている今、課題を共有するメンバーが集まり、これからの観光対策について考えるFacebookグループ「今だからこそできるインバウンド観光対策」が立ち上がった。現在約800名のメンバーが参加し、集合知による課題解決を目指している。

※グループへの参加は承認制。

このグループでは、インバウンドのキーマンを招いた定期的なトークセッションを開催している。5/15には「コロナ騒動の中、空港では今何が起きているか? 〜日本と台湾の今〜」と題して、東京航空局局長の柏木氏らによるトークセッションが開催された。このnoteでは、その模様をご紹介したい。

柏木 隆久 氏(国土交通省 東京航空局 局長、元JNTO 理事)

「新しい生活様式」は観光回復の前哨戦

柏木氏からは、コロナ下での日本や各国の動きを踏まえて、今後のインバウンド観光回復に向けた流れについての話があった。

今、世界各国はコロナウイルスという共通の問題を前に、足並みを揃えて対策をしている状況だと言う。一例として、ニューヨーク市長が北海道のコロナ対策に言及したことに触れ、各国が他の国が何をしているのかを注視しているとした。

その中で、各国は「新しい生活様式(New Normal)をつくっていこう」という方向で動いており、ご存知の通り日本はもちろん、アメリカやEUでも同様の動きが進んでいる。これはまさに観光回復に向けた前哨戦だと言える。

柏木氏が関わる航空分野においてもガイドラインが出され、機内での座席間隔を詰めるか否かやターミナルの使い方などのルールが決まり始めている。そのような中で各国の事例はベースになる。

例えば韓国では、先日の休暇の際に多くの人々が満席の航空機を利用して国内を旅行したが、航空機利用が原因となる集団感染は起こらなかった。これは、「間隔を空けなくても良い」というルールを支える一つの事例になる。

国内旅行→海外旅行の順に回復する

では、ガイドラインが決まったとして、観光の回復はどのようなフェーズで進んでいくのだろうか。柏木氏の見立てによると、国内旅行から国際旅行へ、また、ビジネス目的の旅行やVFR(友人や親族の訪問を目的とした旅行)が先行し、観光目的の旅行が回復してくるのはその後となる。

海外旅行の復活には、相手国の受け入れ再開も必要だ。そこでポイントとなるのが、「ビザ」「検疫」「航空便の再開」の3点である。現在各国が停止しているビザの発給を再開し、検疫後の14日間の待機がなくなること。そして、当然ながら各地を結ぶ航空便の再開が必要だ。

韓国は、ビジネスマンが海外と行き来できるよう、各国との調整を始めているそうだ。大韓航空やアシアナ航空は、中国やベトナム、シンガポールなどの地域への航空便を再開しており、6月からの予約受付の広報を積極的に行っている。世界的に見てもかなり積極的に動いている国だと言えるだろう。

観光回復は東京オリンピックよりも前に訪れる?

日本はどうだろうか。柏木氏は、日本国内の旅行が復活していることが大前提としつつ、後は国と国との関係だと話す。韓国や台湾、香港などの、コロナが落ち着いてきている国・地域では、国外への旅行需要が高まってくる一方で、まだその受け皿となる相手国側の入国規制が解除されていない。

1ヶ国でも規制が解除されれば、そこに向けて人が流れていくことは想像できるだろう。自国の規制解除が遅ければ観光客は他国に流れてしまうわけで、「早く開けたもの勝ち」のような状況の中、日本を含めた各国はタイミングを見計らっていると言えよう。

「来年のオリンピックまでには回復しているのか?」という参加者からの問いに対して、柏木氏は「2021年の7月はまだずいぶん先で、台湾や香港などの事例を見ると、回復はもう少し短いスパンで考えてもいいのではないか」と答えた。

今、観光地にできることは何か?

観光が回復するまでの間、観光地にできることは何だろうか。柏木氏は、各地域は「観光地としての磨き上げ」を行い、「来てもらう価値のある観光地」になるべきだと話した。それは例えば、コンテンツの作成であったり、受け入れ体制の整備であったり、新しい市場開拓のための準備である。

このような状況になった際でも、一番最初に地域に戻ってきてくれるリピーターをいかに作り、大事にできるかも重要になるだろう。顧客との関係性を築きつつ、適切な形で観光客を受け入れる形を構築できるかが肝心である。

柏木氏からは、最後に、各観光地で気分の明るくなるようなご当地マスクを作ってはどうか、という提案もあった。このコロナの状況をいかに好機と捉え、前向きな取り組みを行っていけるかが、いま観光地に必要な姿勢だと言えるのではないだろうか。

* * *

トークセッションには、インバウンドに関わる様々な方が有志の勉強会として参加されており、それぞれ事例を交えて観光回復についての話をしていただいた。その中から、台湾と成田空港の話を紹介したい。

台湾の「防疫旅行」と、訪日回復に向けた道のり

現在、世界から防疫に成功している市場として注目を集めているのが台湾だ。域内の感染者ゼロが続く台湾の現状について、現地にいるJNTOの方からは、以下のような話があった。

台湾においても、鎖国状態であるのは他国と同じであり、国外からの帰国に際しては14日間の隔離が義務として(要請ベースではなく違反すれば罰金)行われている。ただ、域内旅行については禁止されていないと言う。

では、今後の旅行について、台湾はどのように考えているのか。台湾交通部が出した「域内旅行推進方針」によると、「防疫旅行」→「安心旅行」→「インバウンド誘致」の3段階に分けて捉えられているそうだ。

第1段階として示されている「防疫旅行」では、旅行者や交通機関、宿泊施設などへの感染予防ガイドラインを策定しつつ、旅行業界関係者などが研修として域内旅行に参加し、安全な遂行の浸透を促進していると言う。ガイドラインの具体的な内容としては、観光バスの乗車人数を20人に制限して交互に席を空ける方式で座ること、食事では1テーブルを5人に制限して取り箸を使うこと、宿泊は1人1室あるいは2人1室で行うこと、などが示されている。「旅行しない」ではなく、「対策をして旅行する」という点が興味深い。

第1段階の1〜3ヶ月後として想定されている第2段階の「安心旅行」では、最大40億台湾元(約140億円)の補助金を出して団体旅行・個人旅行の双方を推進していく。さらにその後の動きとして、第3段階の「インバウンド誘致」が予定されている。

インバウンド誘致に関しては、まずは感染が抑えられている国・地域で旅行連盟を結成し、安全な地域から目的を限定した形で徐々に相互の往来を進めていこうという方針である。感染者数が落ち着いていて台湾とも距離が近い香港やマカオにおける、ビジネス目的の往来から始まるのではないかとのことだ。台湾の交通部長(大臣に相当)は、域内旅行は半年程度で回復するだろうと話しており、インバウンドはさらにその半年後くらいと見られている。

台湾からの訪日旅行については、①台湾の社会活動正常化 → ②台湾域内旅行の回復 → ③海外との人的往来の回復 →④日本との人的往来の回復というフェーズで進んでいくのではないか、という話であった。現在は①が進行中で②の計画が進んでいる状況だ。

最後に、台湾のトレンドとして、星野リゾートが運営する台中市の「星のやグーグァン」がコロナ下でも連日満室が続いている例を挙げ、海外旅行に行けない今、旅行好きが多い台湾人は域内旅行に集中していることを紹介した。星のやグーグァンは郊外にあるリゾートだが、同様に山や自然のある地域が人気を集めており、台北101近くの象山にも多くの人々が訪れているそうだ。

コロナ下でも将来に向けた整備を進める成田空港

日本の玄関口として、コロナウイルスの問題と対峙している成田空港の現状はどうなっているのか。空港関係者の方からは以下のような話があった。

成田空港からのゴールデンウィーク中の日本人出国者はわずか850名となっており、99.8%の減少だったという。現状は、航空会社やターミナルのテナントに対して、賃料などの減免や着陸料の支払い猶予などの対応を取っているほか、緊急事態宣言の発令も踏まえ、感染防止や安全かつ効率的な空港機能の確保・維持の観点から、4/12からB滑走路を閉鎖、4/20から第一・第二ターミナルの一部施設の閉鎖を行っているそうだ。

収束の見通しについては、IATA(国際航空運送協会)が発表した『国際線の航空需要が2019年の水準に回復するのは2024年までかかる』という見通しや、ANAの見立てでは旅客需要の回復は今年度末までに5〜7割くらいの回復に留まるということが示されている話を紹介し、国際便の回復にはかなり時間がかかるのではないかと業界では考えられているとした。

とは言え、中長期的には世界の航空需要は再び増大していく見通しであり、日本の国際競争力の維持や観光先進国の実現のためには、首都圏の空港の機能強化は必要不可欠となっている。羽田のさらなる拡張余地が限られていることからも、今後の需要増を受け止めるのは成田空港と考え、将来に向けた整備を進めているのだそうだ。

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「今だからこそできるインバウンド観光対策」グループでは、今後もキーマンを招いたトークセッションの開催を予定している。ご興味がある方は、ぜひFacebookグループに参加して最新情報をご確認ください。

■ Facebookグループ「今だからこそできるインバウンド観光対策」

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