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Withコロナの観光戦略 - 回復する中国国内観光、ことでんの描くビジョン

コロナウイルスによりインバウンド観光が大きな影響を受けている今、課題を共有するメンバーが集まるFacebookグループ「今だからこそできるインバウンド観光対策」では、定期的にトークセッションを開催している。

6/3には「Withコロナ時代のローカル鉄道の展望、中国の国内観光の今」と題して、ことでんグループ代表の真鍋氏、ENtrance代表取締役の王氏によるトークセッションが開催された。このnoteでは、その模様をご紹介したい。

真鍋 康正 氏:ことでんグループ代表
王 璇(WangXuan)氏:ENtrance代表取締役

中国の国内観光は地域によっては回復しつつある

トークセッションは、ENtrance代表取締役の王氏によるプレゼンテーションから始まった。ENtranceでは、訪日客の約半分を占めるというFITリピーターに向けて、カスタマイズツアーを提供するテーマ型予約サイト「Tabeee Market」を展開している。

まず、中国では本当にコロナは収束したのか?という、多くの方が気になっているであろう疑問から。

公開されている中国の地域別の感染者情報によると、中国全体で見ると回復しつつあるが、地域によって状況は全く異なっている。例えば、先週は東北地方の吉林省でクラスター感染の発生により1億人ほどの人々がロックダウンされたり、今週は四川省や内モンゴルで第二波が起きている状況である(トークセッションは2020/6/3開催)。

中国でも5月上旬にゴールデンウィークがあり、国内の観光市場は爆速で回復したというニュースも出ている。中国の旅行研究院のデータによると、旅行者数・売上高ともに2020年は前年の5割程度だったようだ。

では、国としてどのような政策を取っているのか。中国文化旅行部(観光庁に相当)では、旅行業界に対して以下の指導意見を提示している。

・早期復興:日本のGo To Travelキャンペーンのようなものを実施。
・安全第一:美術館や博物館などの観光施設はすべて事前予約制に。
・省内旅行推奨:地域内での旅行のみ可能に。

とくに3点目の省内旅行推奨に関しては、例えば北京でさえ、5月はじめにようやくPCR検査なしで出入りできるようになったレベルである。まだ完全な回復とまでは言えないだろう。

キーワードは自然・地方・リゾート

王氏が旅行会社にヒアリングしたところ、ほとんどの会社においては10%程度しか回復していないという状況のようだ。一方、ホテルや民泊は、場所によってはコロナ前の状況に戻っていたりするところもある。

現在、観光業界では、自然、地方での観光、リゾートホテルといった言葉がキーワードになってきている。具体的には、キャンピングカーや野生動物園、広くてゆったりできるホテルなどが挙げられる。

コロナを機に、旅行の売り方も大きく変わってきており、オンライントラベルが2月3月頃から進んできている。とくに旅行予約サイトのCtripはかなり先行しており、創業者の梁氏がインフルエンサーとしてライブ配信での販促を行ったりしている(ホテルを中心に3億元の売上があったようだ)。

アフターコロナの旅行行動は変化するか

そんな中国人の旅行行動にはどのような変化が起きているのか。王氏が務める日中ツーリズムビジネス協会のトレンドレポート(3〜4月に1.5万人を対象に調査)によると、約7割の中国人が今年中に国内旅行をしたいと回答している。そのピークは国慶節(10月)になる見込みだ。中国では4月頃に経済活動を再開したため、その6ヶ月後が回復のピークになるという計算だ。これは日本の観光復活の時期を考えるうえでも参考になるだろう。

旅行者の関心としては、先ほども出た「自然」が重視される傾向であり、3密を避けた自然豊かな観光地を求める人が増えている。また、観光地が混んでいるか、衛生面は大丈夫かなどを気にする人も増えようだ。

また、中国最大の旅行メディア「マーフォンウォー」でも、近場、公園、ピクニック、キャンプなどの自然に関する投稿が人気であり、先ほどのデータと同じ傾向が見られる。調査会社のリサーチからも、自然、文化、ヘルスケアスポーツ、リゾートなどのテーマが上昇する一方、ランドマーク観光や景勝地観光などの混雑を連想するものは避ける傾向が強まっていることが判明している。

中国から日本へのインバウンド観光に関しては、ビザが緩和されたら、まず戻ってくる人々はリピーターである。その点では、今年のウィンターシーズンはスキーに期待を寄せている。スキーヤーは複数回訪日している人が多く、屋外で3密ではないからだ。

また、岩手県が感染者ゼロという情報は中国でも知られているので、もしかするとチャンスかもしれない。あるいは、沖縄や宮崎などの海がきれいなリゾートにも可能性があるだろう。いずれにせよ、団体旅行は減っていくので、FIT化がますます進んでいくと考えている。

中国の旅行業界に関しては、王氏の以下のnoteも詳しい。

香川のローカル鉄道ことでんの現状

続いては、ことでんグループ代表の真鍋氏によるプレゼンテーション。ことでんは、香川県で鉄道・バス・タクシーなど交通に関わる事業を行う企業だ。コロナウイルスにより、人が動かず運賃収入がない中で何をしているかを語った。

まず、もともと交通ビジネスで儲けるということは、すなわちどれだけ密度を高めるかということである。電車の乗客が1人でも200人でもかかるコストはほぼ同じである。そのため、いかにたくさんの人を車両に詰め込むかという戦略でビジネスを行ってきた。しかし、そうやって密度にフォーカスをして戦略を立てることは、今後難しくなってくるのではないだろうか。

しかし、鉄道は、密集はすれど車内での会話も少なく、頻繁に換気しているので「3密」ではなく、クラスター発生リスクは高いとは言えない。実際に日本で鉄道がクラスター源であるとする専門家の報告はない。ことでんのマスコット「ことちゃん」の以下のツイートは、メディアでも取り上げられ、注目を浴びた。

香川県では1ヶ月以上新規のコロナウイルスの感染者は出ておらず、実質的にはほとんど被害はなかったのだが、多くの方が心配し、電車やバスの利用をあえて控える人もいる。直近で、利用者は半分以下になっている。

今後のトレンドと、ことでんが描くビジョン

鉄道の場合、通勤・通学の定期収入で安定的な収入を確保すべきである。それに加えて、定期外収入として買い物や外食、イベントや観光などの利用がある。通学や通勤需要は戻ってきている一方で、それ以外の利用、具体的には出張や観光、夏祭りなど多くの人手が見込めるイベント利用での収入は当面戻らないと見込んでいる。

中長期でみると、公共交通自体が元の水準まで回復することが困難だと考えていて、数年で7割〜8割程度まで戻ってくればよいという感覚である。そうであれば、ビジネスそのものをダウンサイズしなければ維持できない可能性がある。ことでんを含む日本中のローカル交通事業者は、規模の縮小を余儀なくされながらも、どのように存続をさせるかを考えているだろう。

今後のビジョンとして、どのようなものを描いているのか。真鍋氏は3つのポイントを挙げた。

1.人が移動する絶対量は減る
コロナとともに人が移動する理由が減り、特に地方では人口が減少しているため、定期路線交通は減っていくだろう。一方で予約で個別に動くデマンド型交通の需要は増える。また、民間事業者だけでは限界があるため、自治体と連携してMaaSやライドシェアの議論をタブー視せずにしっかりしていく必要がある。

2.日常は可能な限りオンラインへ
世界中、とくに欧米では、都市計画が自転車や徒歩で暮らせる地域のあり方を志向している。中・長距離の移動がリモートに変わり、近距離の価値がクローズアップされた。コロナによる自粛期間中に近所の公園やスーパーのありがたさに気づくなどは、まさにその例だ。生活から近い場所に新しい公共空間をどう作るかは大きなテーマになるだろう。

3.非日常の旅行は密集から分散へ
旅行については、自然を楽しむものに変わっていく。この瀬戸内海エリアは、その点、少人数向けに付加価値の高い旅行を提供していくことができる。交通事業者としては、多くの人々が混雑を気にするようになれば、天気予報のような形で混雑情報を提供していく可能性がある。

そのような未来に向けて、ことでんはどんなアクションをしているのか。真鍋氏は、とにかく採用に力を入れていると言う。これから需要がゆるやかに回復してビジネスパラダイムが変わっていくので、これまでの交通業界とは異なる考え方を持った多様な人材が必要になる。どうやって新しい時代に必要な交通を提供するかを議論しなくてはならない。

コロナの今は採用のチャンスだと考えており、実際に人材募集の告知をすると、畑違いであっても、全国から、香川やことでんの目指す交通に興味ある人が問い合せしてくれる。今後、地方への移住が大きく進むとは考えていないが、地方でも働くという選択肢は増えていくのではないかと考えている。

コロナ時代の観光に必要な安心安全情報

プレゼンテーションを受けた参加者からは、「安全安心情報の発信の仕方が悩みどころである」という質問が出た。

これに対して、王氏は、中国においては、事業者側からの安心安全情報の発信はそこまで活発なイメージはないと言う。営業再開前は消毒や入店前の検温対策などの情報発信は盛んだったが、再開後はセールスの情報がほとんどだそうだ。

真鍋氏は、正確に情報を伝えることが重要であると言う。事業者としては、安全・安心であると断言することはできないが、現在の衛生管理の方法は正確に伝えている。更に、例えばニューヨークでは地下鉄の職員が感染しているが、日本の鉄道と比較して衛生管理がどれだけ違うかといった情報や、ことでんの車両における密度・乗車率がどの程度であるかという情報などは個人的に発信している。

ただ、一方でたくさん情報を発信すれば良いという状況でもない。「乗車率100%」というと、大混雑のように捉える人もいるが、実際は都心のラッシュ時間の混雑度ではない。発信側と受け手側に、前提となる情報のコンセンサスがない状態では、安易にあらゆる情報を発信することは避けるべきかもしれない。

これらの話を踏まえ、参加者からは、コロナウイルスが流行する中で、一つの地域内でもインバウンド観光客に対する考え方が分かれてきている、という話が出た。観光業に関わっている人は生業のために観光の再開を望む一方で、関わっていない人は来ないでほしいと思っている、という状況だ。

これを受けて、MATCHAのカオ氏は、どのようにお互いが信頼し合える観光体制を作っていくか、地域外はもちろんだが、まずは地域内に対して動いていくべきかもしれない、と話す。

王氏は、結局のところ、安全安心であるかどうかは個人的な判断であるとして、中国において国がはっきりとしたガイドラインを出していることを事例として挙げた。商業施設や飲食店がどういう対応をすべきかを示すのはもちろんのこと、各個人に対して「健康コード」がグリーンか否かなどの指標により健康状態をデジタル的に見える化することで、明確な安心感を作っている。このような状況は、今後日本でも生じてくるのではないだろうか?

■ Facebookグループ「今だからこそできるインバウンド観光対策」

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