第18回

第18回 「絶妙なクズ」

 先日、「アイドルと消費」というテーマのトークイベントに登壇した。私はアイドルについては疎いので、あまり発言できることもなかったのだが、「容姿だけで人を気に入ることはあるか」という質問を受けて、喋りながら気づいたことがあった。
 私は撮る側の人間として、綺麗な女性に会うことは多いが、整った顔立ちをしているからといって、写真を撮りたくなるかといえばそうでもない。それは自分が女で同性だからというのもあるかもしれないが、内面に興味を惹かれなければ、外見もつまらなく見えてしまうのだ。
 とはいえ、内面は外見に滲み出るもの。若いときはそうでもないかもしれないが、ある程度年を重ねれば、それまでの生き方がもろに顔に出る。その人の雰囲気、表情、仕草など、トータルバランスで見た場合に、外見だけで「この人いいなぁ」と思うことはよくある。そういう意味では、見た目だけで人に惹かれるというのは確かにあるのだ。
 
 前に、展示を見に来てくれたお客さんで、見た目の雰囲気がとても良い感じの女性がいた。綺麗な人なのに、冷めた目をしていて、世間に対して斜に構えたような表情をしている。服装はいかにも育ちが良さそうで、品よくスカーフとか巻いているのに、性格はねじ曲がっていそうなギャップが良かった。彼女とは展示会場で少し喋ったが、出てくる発言も見た目通りひねくれていて最高だった。

 何度か撮影している女性で、前歯の下部がちょっとだけ欠けている子がいる。よく見ないと気づかないぐらいの小さな欠けだが、デザイン的にもなんだか雰囲気がある。その欠け以外は、とても綺麗な歯並びだから、よけいにそう思うのかもしれない。
 彼女はすごく美人で、多くの男性を引き寄せる反面、傷つく経験もたくさんしている。会うといつも男女に関する格言が出てくるので、私はその話を聞くのが大好きだ。そのキャラクターとともに欠けた歯を見ると、まるで男に喰らいついて欠けた刃物のようにも見えるし、逆ハート型が刺さっているようにも見えて、とにかくグッとくる。私はその歯が好きで、写真を撮るときも、わざと歯の欠けが写るようにアップで撮ったくらいだが、残念なことに、彼女は歯医者さんで治してしまったらしい。

 歯の話で言うと、私は高校時代に歯列矯正をして以来、人の歯をよく見るようになった。歯を綺麗にするだけなら矯正でできるが、私が好きな歯並びは、良い感じにガチャガチャした歯並びだ。生まれ持ったものが100%なだけに、そういう歯を見ると羨ましくなる。
 一番好きなのは、前歯が並行に揃っていて、その両サイドが内側に引っ込み、犬歯が前に出ている歯並びだ。八重歯が強調されて可愛い。そういう歯並びの人が矯正で綺麗に整えてしまうと、「なんてもったいない!」と思う。やはり整ったものを好む人のほうが多いということなのか。

 前に撮影した女性で、猫が大好きで、今も一人暮らしの部屋で猫を4匹飼っている子がいる。彼女は昔からずーっと猫が好きで、幼い頃に無理やり抱っこして引っ掻かれた傷跡が今も顔に残っている。頬に薄い横線が一本、ツツーっと。まるでイラストで描いた猫のヒゲのようで可愛い。真の猫好きの証のようにも見える。彼女はその傷をチャームポイントだと言っていて、なんていい話なんだろうと思った。
 
 こうして書いていて思ったが、やはり整いすぎたものには、私はあまり惹かれない。左右対称で比率も完璧だと、凡庸な顔に見えてしまうのだと思う。
 
 そういえば昔、なぜ人には利き手というものがあるのだろうと考えたことがあった。カイロプラクティックに行ったとき「人には利き手があるから、生きていると必ず歪みが出る」と言われたからだ。カバンを肩で持つときだって、私は右肩にしか掛けられない。だからメンテナンスしましょうという話だったと思うが、私はそのとき、ふと疑問に思ったのだ。なぜ歪みが出るのに、わざわざ人は利き手を持って生まれてくるのだろうと。
 その頃、ジムに通っていて、やはり体のバランスをよくするために「利き手じゃないほうも積極的に使いましょう」と言われていた。「じゃあ、なんのために利き手があるんですかね?」と聞いても、誰も答えられなかった。 
 そのとき私なりに出した答えは、人はそもそもバランスが悪くなるように作られているということだ。わざと合理的じゃなくして、物語が生まれるようにできているのだろうと。
 なぜ男と女と、それ以外もだが、わざわざ分かれているのか。男脳と女脳があるばっかりに、すれ違いが必ず起こる。そういうこと一つ取ってみても、人間の身体はうまくいかないようにできていると。そして問題が起き、いろんなエピソードが生まれる。人生はきっと物語を作るためにあるのだろう。綺麗に整いすぎると、みんなが同じキャラクターになってしまうから、「どう歪むか」で他者との違いが出るのだろう、と。

 見た目だけでなく、性格においても私は欠陥のある人間が好きだ。空虚さとか、不安定さとか、狂気とか、隙間にそういうものが見える人に惹かれる。闇がない人など退屈だと思ってしまう。 
 先日、友達と話していて、なぜそういう人ばかり取材しているのと聞かれたとき、私は咄嗟に「人間はみんなクズだから、クズさが見えなければリアリティは生まれない」と答えた。自分で言っておいて、なるほどと思った。

 とはいえ、人間は自分と似たものを好む傾向があるから、単純に私自身が歪んでいて、そういう人に近づいているというのもあるのだろう。
 

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1980年、東京都生まれ。写真家、ノンフィクションライター。写真集に『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間①②③』、著書に『ノーモア立川明日香』(共著)、『のらねこ風俗嬢-なぜ彼女は旅して全国の風俗店で働くのか?』など。@kaworikawori
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