第15

第15回 フェミニズムについて

 最近、フェミニズム方面からのオファーが増えてきた。フェミニズム入門ブックで写真の連載をはじめたり、書籍でカバー写真を撮ったり、近著の写真集がフェミニズムの視点で紹介されることもある。こうした流れが来るのは、少々意外のことではある。私も本を読むなどして影響は受けているけれど、これまで影を潜めてきた(と私は思っている)フェミニズムが、ここ数年で急に盛り上がりを見せるとは想像もしていなかったからだ。

 私は写真家として、一般の女性を被写体に写真を撮っているけれど、彼女たちの話を聞いていると、女性が受ける抑圧の問題について避けて通ることはできない。例えば、私が聞いただけでも、幼少期に性被害に遭っている女性はかなりの数がいるし、そのほとんどは表に出ることなく、心の中にしまわれている。
 日常生活では、期待される女性像を意識して、好きな服を偽り、趣味・思考を偽り、話し方やふるまいなど、人格そのものを偽った経験がある人は山のようにいる。
 美容整形を何度もしている女性の中には、男性への強い復讐心を感じることもあり、それは幼少時に男性から受けた酷いトラウマが影響している。
 女性を取材すれば、女性特有の生き辛さが見えてくるのは当然で、フェミニズムの視点は必ず含まれてくる。とはいえ、私が扱っているテーマは「女」である前に「人間」で、主軸にあるのは「私」は何を考え「私」になるのか、ということだ。そして、仮にどんな背景があっとしても、彼女たちが受けた被害を扱うのではなく、存在そのものに光を当てることにこだわっている。

 ところで自分の受けた抑圧に関して考えてみると、私の経験は結構極端だと思う。「女」だったから、というのももちろんあるが、それだけでは収まらない気がする。とにかく私は、自尊心が低かったし、何もやってはいけないと思っていた。そのことについて書いてみようと思う。

 短大を卒業後、編集プロダクションで雑誌を作る仕事をしていたというのは以前書いたが、この経験は私の中では大きかった。世界が180度変わったからだ。
 そこは小さな会社で、私以外は全員男性だった。入社早々、会議の席で、私が一歩身を引いて何も言わずに黙って話を聞いていると、「インベさんも入ってきてもらわなきゃ困るんだよ!」と怒られた。このとき私は20歳。生まれてはじめて言われる言葉だった。「え? いいの?」というのがその時の感想だ。それまで私は、男が喋っているときは黙って引っ込んでいなきゃいけないと本気で思っていたからだ。自分が参加してもいいなんて考えたこともなかった。学校の授業では男女問わず意見を求められるはずなのに、しかも私は女子高にも通っていたのに、一体誰からそんなことを学んだのか!? これが自分でもわからない。「うるさい、黙れ」と毎日誰かに言われていたような気もするし、誰にも言われていなかった気もする。
 その上、私は全てにおいて自分が男性より劣った存在だと思っていた。これは私が子どもの頃、兄からよく蹴ったり殴られたりして常に怯えていたことも関係していると思う。力では絶対に勝てないということを、物心ついたときには学習していた。さらに、勉強も運動もまったくできなかったから、力を持つ経験を一度もせずに大人になったというのも大きいだろう。自分は常に人より低い位置にいて、一歩出遅れるものだと思っていた。自尊心が低すぎて、「なにもできない女」として黙っているぐらいしか、この世での立ち位置がわからなかったのだ。

 だから会社に入ったとき、自分より圧倒的に勉強のできる男性が、意外と仕事ができないと知ったときは衝撃だった。「なんだ、男ってだけで自分より凄いわけではなかったのか」と、はじめて気づいたからだ。それを別の男性に話したら、「当たり前だよ」と大笑いされた。
 職場では男女関係なく仕事を振られるし、怒られるし、怒鳴られるし、理不尽な要求も多かったけれど、私はこのとき生まれて初めて対等に扱われる経験をしたし、自分には何でもできると思えるようになった。
 逆を言えば、20歳以前の私は、それぐらい自分には何もできないと思いこんでいた。いかにも女が言いそうな台詞しか言ってはいけないと思っていたし、それ以外の考えは、誰にも理解されないだろうと本気で思っていた。趣味においても、自主的に何かを始めるなど考えたことたこともなかったし、その概念すらなかった。
 
 今の私を知る人からは、私が昔から、周りに流されない自立心の強い人間だったと勘違いされることがあるけれど、そう見られるたびに「うわっ」と思う。そんな教育は受けていない。
 私が今こうした作品を撮っているのも、女性がそれぞれ自分の主張を持って生きていることの魅力を、発信し続けたいからだろう。

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1980年、東京都生まれ。写真家、ノンフィクションライター。写真集に『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間①②③』、著書に『ノーモア立川明日香』(共著)、『のらねこ風俗嬢-なぜ彼女は旅して全国の風俗店で働くのか?』など。@kaworikawori
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