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大丈夫です

 先日、私の生徒さんの一人(中国出身)からこの意味に関する質問を受けました。例えば、~いかがですか、~しましょうか、~をどうぞなどの返答で、私たちも時折迷いますよね。

 スーパーやコンビニの店員さんに「レジ袋要りますか?」と聞かれ、不要という意味で「大丈夫です」という人は多いと思います。「結構です」は、特に若い世代にはキツい、素っ気ない、表現が古いという印象を与えるとも言われています。逆に「大丈夫」は、相手を傷つけずに優しく伝えるための婉曲(エンキョク)用法、悪く言えば意思を曖昧(アイマイ)にして断る表現だと言う人もいます。

 でも、元々の意味をたどれば、どちらの言葉も歴史的に大きな変遷をたどってきたらしいのです。もちろん「いいです」もそうですが、肯定的な「良い・素晴らしい」という意味が、結局はどちらも「不要」という意味を含むことになったのは興味深いですよね。

 面白い記事を読みました。飲食店の予約を受ける電話中に、最後にタバコは吸えるかと聞かれた店主が「全席禁煙ですが、どうしますか」と確認し、「大丈夫です」との客の返答を信じ、当日待っていたら結局客は現れなかったという話。そしてもう一つ、ある会社で「タクシーを呼んだら30分かかるけど大丈夫ですか?」と聞かれ、「大丈夫です」と答えて待っていたら、不要だと思われて断られていたというもの。

 また別の記事では、2010年代の前半を境に、大丈夫を「不要」の意味で使う言い方に違和感を覚える人の割合が半数を切ったともありました。そのアンケートを受けた人の年齢層が、本当にバラバラだったかのを確認したくなりますけどね。

 こうなると、「大丈夫」の定義を徹底的に調べたくなるものです。正直な話、こ~んなに多くの意味があったのかと驚かされます。
1)頑丈・頑強 例:2重に縛れば大丈夫、火事になっても大丈夫
2)確実・頼りになる 例:あの先生なら大丈夫、約束は守るから大丈夫
3)時間的・金額的な余裕 例:10分なら大丈夫、1万円まで大丈夫
4)問題ない・上手く進む 例:雨でも大丈夫、カードでも大丈夫
5)どういたしまして 例:遅れてゴメン!いや、大丈夫!
6)安全・心配ない 例:微熱だから大丈夫、焼けば大丈夫
7)許可 例:このペン使っても大丈夫、靴のままでも大丈夫
8)遠回しな断り 例: レジ袋は大丈夫、大盛りは大丈夫

 そう言えば確かに、「その荷物お持ちしましょうか」と学生に声を掛けてもらった場合、私が「結構です」と言ってしまったら、相当キツい人だと思われるでしょう。そう、「大丈夫」とは、お誘いや提案をや~んわりとお断りする表現だったのですよね。英語の「ノーサンキュー」だと言えます。

 ところが、今や「大丈夫」ですら、会社の指示やアドバイスに「大丈夫」とは失礼だ、という意見も出てきているそうです。助言ならまだしも、「明日大阪に出張してくれ」と言われ、「いいえ、大丈夫です」なんて断ったら、さすがに上司の心象は悪くなりますよね。

 また、誤解という意味でもう一つ。「日曜日空いてたら映画に行かない?」とデートに誘って、相手が「大丈夫!」と言ってきたら、あるいはメールなどで短く返してきたら、その相手は映画に行くんでしょうか、行かないんでしょうか。時間は「大丈夫」でも「ノーサンキュー」なんでしょうか。

 ところで、結局この質問をしてくれた生徒さんには、ここまで豊富な情報は伝えられませんでした。いつかはこの長~い説明を聞いてもらおうかと、そのチャンスを狙っています。

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