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Clubhouse社会学

フィジカル世界のクラブハウスとは裏腹に、デジタル世界のClubhouseが大流行中です。近頃出会う機会がなかった友人と話せたり、他者と気軽に知り合うことができたり、著名人同士の雑談を聴けたり、人それぞれ様々な楽しみ方でクラブを謳歌しています。

さて自分はというと、もっぱら真夜中にログインし、哲学対話ルームをこっそり催すことに愉しさを感じております。

哲学対話というのは書いて字のまま、哲学的なテーマを複数人で対話する催しです。これまでは「自死と絶滅」「生命に目的があるとしたら、それは何か」「Clubhouse社会学」などのテーマでルームを立ち上げてきました。

そして先日開催したばかりの「Clubhouse社会学」があまりに凄まじい集会となったので、その模様をこちらに記します。

Clubhouseは社会の縮図?

まず、今回のテーマを立ち上げた背景についてです。流れから言うと、前回の哲学対話で生命について考えていると、どうしても社会について触れたくなり、社会をテーマに何か話そうということになったのです。

そして自分のTwitterアカウントから4つのテーマ案を出して投票しました。

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と言うことでclubhouse社会を学問的に見てみようと、立ち上げてみたのでした。

深夜1時過ぎにルームを開くと、1人2人とぽつぽつ数が増えていき、話題は「参加している人数によって話題はどのように変わるのか」「Clubhouseでケンカが起きないのはなぜか」などなどざっくばらんに展開していき、数は大体12人ほどに増えていきました。

ClubhouseはiPhoneユーザーのみ、かつ招待制ということもあり社会の縮図というにはまだまだ偏りがありますが、指数関数的な広がり方と様々なルームを観察するに、レイトマジョリティの登録もかなり増えてきているように感じています。

実際にその日のルームに集まってくださった方々も、テーマが曖昧な表現だったこともあり、年齢、性別、職業、趣味趣向などかなりバラつきがあり、そこそこの不特定多様性があったように思います。

ということで、社会実験を催してみたのです。

全員ミュートを解除して、誰の話も傾聴せずに、一斉に話し始めたらこの社会はどうなるのか

実験は完全に思いつきで、何かしらの結果を期待していたり、研究や調査に使う目的はありません。どんな実験をしてみたかというと「ある1つのテーマを下記のルールに則って話してみる」ということです。

ルール①全員ミュートを外す
ルール②傾聴しない(聞こえてきたことに返事するなどはOK)
ルール③終わりを決めない

テーマはなんでもよかったのですが、まずは「clubhouseで見てきた面白かった部屋について」にしました。

その頃、時はおよそ2時30分。
スピーカー数は16名ほど。
この頃はまだ、この実験が思いもよらぬ結末となることを
まだ誰も、知る由はありませんでした・・・

1章・最初の混沌

ここからはタイムラインを思い出しながら、ざっくりと時系列で何が起きたのか記していきます。

2:45 : [雨宮] 最初の実験は2:50になったら一斉に始めてみようと提案する。

2:45~50:どのようにやるのか、どうなるのだろうなど質問や意見が飛び交い。リスナーにいた方々が更に3名ほどスピーカーに上がってくる。

2:50:実験スタート。各々話し出す。10~30秒程でミュートにしだす人が現れる。

2:51:静寂になり実験終了。終わり方は、中学校の全校集会で最初にガヤガヤしている状態が壇上の先生の目線に気づいて少しずつ収まっていくような感じ。もちろん今回の場合、先生に当てはまる存在は誰もいない。

2:52:感想がばらばらと話される。お互いの話を聞きつつもやや被り気味に会話されるシーンも見受けられ、実験以前より活気があるような状態になる。

2章・イレギュラー

最初の実験時は新しい遊びをしているような、悪さを共有しているような、楽しさがある雰囲気でした。そして第二回の実験で、事件が起こります。

2:53:[雨宮]2回目は「最近あった楽しかったこと」について話してみませんかと提案する。

2:54:次は全員ミュートにした状態から始めてみようという提案があり、合意する。

2:55:実験スタート。今回も1分ほどで概ね収まるが、2、3人がまだ話を続ける。その流れから自然発生的に再びミュートを解除して話始める人たちが少数現れる。

2:56:1人以外全ての人が静寂になる。話し続ける1人(以下・X)に対して、ルームがざわつき始める。スピーカーをオフにしているんじゃないかなど憶測が飛び交う。

2:57:Xの名前を呼ぶ人、モデレーターは強制退出の権限を使わないのかと提案する人、様々な意見が起こる。

2:58:全員ミュートにしてXの話を傾聴してみようという提案が起こる。

2:59:合意が取れ、全員ミュートにしてXの話を聞く。それでもXは止まらないので、更に意見が飛び交う。

3章・救世主の誕生と、逆転する価値観

たった1人のイレギュラーをきっかけに憶測、発見、善悪、逆転、予期せず社会学としての面白さが一気に深まっていきます。

3:00:Xの1人語り中、突如Xの知人(以下、M)とXが共に部屋を退出する。

3:01:MはXを2人のみのクローズルームに呼び込み(clubhouseにはそういう機能がある)場を鎮静化したのではないかという憶測が興り、M=救世主論が一般化する。

3:02:同時にXは何者だったのかと詮索が始まる。

3:03:[雨宮]個人の詮索は止めようと口を挟む。

3:04:Xはルールを守り続けていただけで、ルールを守らなかった自分たちがマジョリティになっているのが不思議という気づきがシェアされる。

3:05:そういえば救世主論でも自分たちが勝手に考えた憶測でしかないという気づきがシェアされる。

3:06:実験中、人に話を聞いてもらえずに話すのが不快だったという話になり共感が集まる。

3:07:そもそもこのルールが悪かったのではないかという話になる。

3:08:実験中、Xの声は途中からBGMになり気にならなくなっていた。むしろいなくなった今寂しさを感じるという気づきがシェアされる。

3:09:Xは実験を楽しませようとしてくれたのではないかという気づきがシェアされる。

4章・物語と、芸術

このルームが1つの社会だとするならば、法はそれを不快に感じる多数派に負けました。そして多数派は人を憎まず、法を糾弾しました。そしてこの章で、社会実験は新たな展開を見せます。

3:10:[雨宮]これまでのタイムラインを一通りさらう。波のように上下に変化する観測の模様を社会に擬える。

3:11:戦争も同じような展開を見せているという気づきがシェアされる。

3:12:ある1人(以下、Y)が社会のような大きなものにすぐ擬えることに反感を示す。私はそのうちの1人に組み込まれないと語り始める。

3:15:少しの沈黙の後、Yの意見にある1人から共感が生まれ2人の会話が続く。

3:18:Yは元々この実験に参加するのが嫌だったと語りを続ける。

3:20:Yの話に別のある1人がリスペクトを示す。いつの間にか自分はマジョリティ側にいたと気づきをシェアする。

3:21:Yは社会でいう芸術の役割を果たしたのではないかと意見が交わされる。

3:22:[雨宮]総まとめ的な話はせずにライトな話題で徐々に収束に向かわせていく。

3:23:終了

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Clubhouseは離脱ボタン(Leave quietly)の軽やかさが示す通り、1つの部屋への滞在時間はかなり低い特徴があるなか、約3時間ほど哲学対話(というか社会実験)を15名以上の人数で全うしました。(それも朝の4時近くまで)

自分たち自身が社会という観測対象の一員となりながら、主観的に意見を交わし、それをメタ認知的に振り返って規則性や、関連性、新たな問いや違和感を発見すると共に、それ自体がまた1つの観測対象となっていく、clubhouseという媒体だからこそできた、非常に面白い実験でした。

ちなみに、後から聞いた話によると実験中に不快を感じてすぐにミュート、あるいは沈黙に移った人達が約20%、周りを気にせずそのまま法を全うして話し続けた人たちが役20%、残りは不快を感じつつも全体の様子を伺っていたという形で、働きアリの社会と類似しました。

そして、混沌の最中に不快が取り除かれると、その対象を人は善だと思いたがる現象も、神が生まれるプロセスによく似ています。

モデレーター(会の中では権力者)が取りまとめ全体を主観的な解釈に収めようとすると、それにアナーキーな立場を持つ個人が現れ革命の火種ができることも、この社会が集権と分権を繰り返してきたことと同じ動力を感じましたし、人類史をぎゅっと短時間で体験できたような感覚がありました。

そしてそれは恐らくこの会が特別だったということではなく、日常の様々なシーンで見受けられることで、学問というのはミクロ(生活)とマクロ(歴史)の関連性を、物理と文化の連動性を、観察させ気付かせてくれる眼鏡なのだなということも改めての気づきでした。

現在のclubhouse社会はまだ1つの流派が席巻している状態にあらず、多種多様な流派が互いにパイを潰し合うわけでもなく、共存しているように見受けられます。マルチバース(多元宇宙論)的に重なり合う流派を、居酒屋で隣の席に移動するくらい軽やかに移動し、その世界の不文律やテンションにしたがって過ごしたり、過ごさなかったりします。

あれ、なんだかそれはそれで社会の理想系に近いような気がしてきたぞと思いつつ、まだ運用されて間もない赤子のような社会ですから、これから社会の荒波とやらに揉まれ、何かしらの方向性を持ってしまう気がしなくもないです。

感染症の禍遍き、分断蔓延る時代にバズったclubhouseの社会学はまだまだ研究しがいがあるし、これからの行方にも大注目ですが、ひとまず真夜中の哲学対話は次回に進み、様々なテーマをこの記事を読んでくださっているあなたともお話しできればと思っています。

ではでは

Leave quietly✌️(どろん)

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