折に触れて

 「日出でて作し日入りて息う、井をうがちて飲み田を耕して食らう、帝力何ぞ我にあらんや」鼓腹撃壌:(史記・十八史略等)

有史以前の中国の聖帝堯が政治をしていた有様を表現した鼓腹撃壌という話である。生活が安楽で、世の中の太平を楽しむこと。尭の時代に、一老人が腹つづみを打ち、大地をたたいて歌い、太平の世と尭の徳をたたえたという意味(解釈はWeb漢文大系による)である。

 「中国の夢」が習近平国家主席のスローガンであるならば、習近平氏の夢は中国伝統の幸福感とは恐ろしくかけ離れているようだ。氏の言う夢はあくまでも習近平氏の夢であり、老百姓(一般人民)の夢ではない。せいぜい中国共産党内の習近平シンパの人たちの覇道の夢でしかない。

 鼓腹撃壌の話は人民が統治をされている実感がない⇒いい政治だという実感を示している。近代的に言えば、「夜警国家」が近い感覚かも知れない。

日々の生活が安全に過ごせればいいじゃないか、という意味であり、それは一般庶民の本音を表しているのではないだろうか。ITを駆使する監視システム、外国との領土紛争、外国への経済支配、、、。そんなことを老百姓は望んでいるのであろうか。

身近な例でも警官がスナックに入ってきてはみかじめ料をせびるような国家権力を振りかざした行為が毎日のように数多出来する。そんな過度の国家権力が私的空間に土足で侵入するシステムを老百姓は喜んでいるとでも言うのであろうか。習近平氏にお聞きしたい。

 香港はフリーポートと呼ばれた自由な街であった。それ故に世界の金融ハブとして立派に機能したし、その地位を維持してきた。自由な社会システム設計とそれによりもたらされ、蓄積された香港人のノウハウこそが香港の存在意義であり、価値であった。

習近平氏はその街に服従と統制を強制し、自由を奪おうとしている。深圳や上海があるから香港が潰れても大丈夫と思っているかも知れないが、既に鄧小平氏が返還にあたって行なった港人治港や50年資本主義制度の不変という約束をふみにじり、他国領土への不法侵入を繰り返す習近平氏の姿勢には各国の信用があるのであろうか。

人・モノ・金の往き来の基本には信用がある。当たり前の原則を習近平氏は理解されているのであろうか。

 こんなところは御免だと香港から高度なノウハウを有する人材がどんどんアメリカ・オーストラリア・台湾などに流出してゆく。数年もすれば世界が認めた「香港の価値」は雲散霧消していることだろう。

アヘン戦争前のただの海辺の街に戻ってしまうことだろう。数十年後の百科事典は昔、香港という英国統治から100年あまり栄えた国際都市が広東の海辺にあったと記すだろう。

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