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社会的インパクトを生み出すには【SDGs表現論DIALOG#10】

 こんにちは。インパクトラボの中西です。

 「SDGs表現論 -プロジェクト・プラグマティズム・ジブンゴト」書籍化にあたり、SDGsに取り組む大学生・高校生と、書籍の内容をもとに「SDGsに取り組む」ことについて対話する企画が「SDGs表現論DIALOG」です。
 著者である山中 司(立命館大学生命科学部教授)と上田 隼也(一般社団法人インパクトラボ 代表理事)とゲストの方々との対話をお届けします。

SDGs表現論は、一人一人が「自分ごと」としてSDGsをどう捉えるべきかについて、考える機会を提示するものです。キーワードは哲学としてのプラグマティズムと、方法としてのプロジェクトです。個々の興味、関心、問題意識は、必ずSDGsにつながるという信念のもと、一人一人がマイプロジェクトを立ち上げ、そこにSDGsを乗せ、まず活動してみることを提案します。戦略的にSDGsの視点を入れ、一人一人が社会を変える主役になるべきことを強く訴えます。2019年度立命館大学教養ゼミナールとして開講され、2020年には大規模オンライン講座JMOOCにて開講し、約5000人に受講されました。

 今回は、RIMIX学生スタッフの杉山滉平さん(立命館大学大学院 博士課程3年生)をお招きし、大学での研究生活や起業の視点から「社会的インパクトを生み出す」ことについてお話しました。

RIMIXとは、Ritsumeikan Impact-Makers Inter X (Cross) Platformの略称。立命館学園で実施する社会課題解決に貢献する人材・マインド養成から起業支援までの取り組みをひとつのプラットフォームとして見える化し、学園内外の連携等によって拡充を図ることを目的とする「立命館・社会起業家支援プラットフォーム」です。

研究者はお金がない?

上田 今回は4月からRIMIXの学生スタッフになった杉山さんに来ていただきました。杉山さんはRIMIXが主催する社会課題解決に向けたビジネスコンテスト「総長PITCH CHALLENGE」の2019年度のファイナリストであり、総長賞を受賞されています。

 この前、杉山さんがスポーツジムでスタッフのアルバイトをされていると聞いて、私が想像していた博士課程の学生の生活とは違うのかなと少し疑問に思いました。研究をしたらお金がもらえるのかなと思っていたのですが…

杉山 そんなことはないですよ!笑 学費を稼ぐためにスポーツジムで働いています。たしかに、研究室からお金を貰ったり、学振(日本学術振興会)からお金をもらえる制度もあったりします。学振をもらうには書類提出が必要で、つまり実績が必要なのですが、私の場合は修士課程2年の時に所属していた研究室が解散してしまい、同じテーマの研究が続けられず実績を作ることができませんでした。
 そんな経緯で、スポーツジムでトレーナーとして筋トレをしながら、大学では博士として研究をするという生活を送っています。

山中 私の場合は学振をとっていましたが、実績があったとしても採択されるのは至難の業です。私も申請する際には書類作成にとても苦労しました。
 大学の研究では、どこからお金を持ってくるのか重要になってきますし、外部からお金を得ることができることが、大学からの評価につながったりします。そうなると「研究者として優れている」とか「研究で著名な成果を上げている」みたいな研究の本質的なところを評価をされなくなっているかもしれません。
 だいぶ改善されたところも見られますが、研究者の世界は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)としていて、まだまだ仕組みとして安定していないというのが現状です。

杉山 研究という新たな学術的価値を見出すのという目的に対して、ずれているなと感じることはあります。例えば、大学がどのように高い評価を得るかというと、論文数が1つにあります。極端に言えば、研究者の数を増やして論文の数が増えれば良いという考え方もできるわけです。そうすると、研究成果を出すことが目的ではなく、研究者の数を増やすのが目的になってしまいますよね。

上田 研究者、博士の世界ってそんな感じなんですね。人が集まるところにお金が集まって、お金があると研究もたくさんできて成果も出る、資本主義的なものを感じました。人を集めてお金を生み出すというところが、スタートアップの世界と共通していますね。

研究するために必要な力とは?

杉山 研究者はずっと研究力が求められていたのに、今では会社に勤めていたことがあるなど営業力もあり研究開発もできるような人が求められているのではと感じます。

山中 「教育・研究・サービス」の3つができないといけないといけないと言われることもありますよね。
 特に私立の大学だと、国立に比べて実験施設や研究に使えるお金が少ないため、いかに安く実験できるか、違うところからお金を持ってくるか、知恵を絞らないといけません。そうなると、無用な競争にさらされてしまうことになりますよね。

上田 先生(大学の研究者)の中でも役割を細分化することってできないんでしょうか?
 例えば、教えるのが上手な先生は教育に特化したり、お金をとってくるのが先生がいたり、研究に専念する先生がいてもいいかなと思いました。

山中 その通りだと思います。実際に授業で低回生に分かりやすく教えるのが上手な先生もいますし、研究誌に論文をたくさんあげているような先生もいますし、大学運営・行政が上手な先生もいます。
 外国ではシニアレクチャラーという教育専門の講師がいます。そのような制度を取り入れるなど、研究者が得意なことに特化できるような仕組みになればいいのになと思います。

杉山 ドイツには、大学の運営を専門としたスタッフがいて授業の時間割の調整も行っていて、日本でいう教授にあたる人たちは自分のやりたいコマの授業を選べるようになっています。なので、先生が本当に得意な授業を担当することができるので、学生に正しい知識を供給することができますし、教授は好きな授業の先生と自分の研究に打ち込むことができるようになります。
 日本では、教員が授業や試験、大学の設備について話し合いをするなど、研究以外の業務が増えてしまっていると小耳に挟むことがあります。

研究とビジネスは両立するのか?

山中 アメリカではビジネスと研究を両立している先生はたくさんいらっしゃいますが、ビジネスと研究の親和性ってどうなんでしょうか?研究者と起業って求められるスキルが大きく異なるのではないかと思うのですが。

上田 研究をビジネスとして立ち上げるのは「翻訳する力」がとても重要です。いきなり、技術シーズだけで起業は難しいのではないかと思います。インパクトラボで運営を担当しているRIMIXでは、社会起業家の育成を目的として、「社会課題解決に向けて起業したい」という学生のプラットフォームを目指しています。
 そのような学生が増えてきたところで、ビジネスにできそうな技術シーズとマッチングさせることが多様な学部が集まる立命館ならばできると考えています。

山中 「翻訳する」って難しいですよね。一部はジャーナリズムがその一端を担うべきなのだと思うのですが、サイエンス系のジャーナルを読んでも理解するのはなかなか難しいですし、まず興味を持ってもらうことにハードルがありますよね。
 ちょっと、その分野に知見のある人が俯瞰的に捉えてビジネスを投資してほしい方に説明できる、まさに「翻訳する」ことが必要だと思います。

杉山 大学の研究は難しくて、研究者の立場でも自分の研究以外は理解できないものが多いです。研究者以外の人にそのようなものを知ってもらい、ビジネスとして立ち上げる可能性があるかを判断してもらうのは厳しいですよね。研究者自身が「翻訳する」とか、研究にハッシュタグやラベルのようなものがつけて可視化できることが大事になってくるかなと思います。
 私の研究も商業化することは可能ではありますが、社会課題を解決したいと考えてる人とマッチするかは難しいのではないかなと感じました。研究者自身も「自分の研究で社会課題を解決したい」という想いがないとただの研究で終わってしまうと思います。

世の中に役に立つことだけが研究なのか?

山中 社会課題を解決する。とか、世の中の役に立つ。とか、そういうものだけが研究として価値があるのかと言われればそうでもありません。大学の研究は社会に役立てるものだという一方で、商用化されることはないけど研究としてはまだ終わっていないような研究もあり、たくさんの矛盾があるのが大学の研究の世界です。

杉山 大学のレベルによって研究するテーマがおおよそ決まっているという話を聞いたことがあります。レベルが高いと言われているような大学の研究室では、インパクトのありそうな研究をして、目立った成果を上げ続けることを求められていると聞きます。一方で、成果をどんどん上げる過程で飛ばした課題を他の研究室が研究していく事があるそうです。そんな課題が案外重要な課題だったりとか。

 大学では基礎研究を中心に進めて、企業や行政からの依頼があれば基礎研究で進めてきた技術をもとに商業化をするような大学と社会の間のような機関があればいいのかなと思います。

上田 商業化されるような研究ばかりしているという話は、私も学生から聞いたことがあります。
 SDGsでいうと、「社会課題に取り組みたい」という学生をはじめ、大学、行政や企業などと新しいことに挑戦し、一緒に成長していくというスタンスで、まさに大学と社会の間の「社会に開かれた研究室」という意味を込めて社名を「インパクトラボ」としました。
 SDGs表現論も、山中先生がやっていたプロジェクト型の英語の授業がとても良いと思い、SDGsに取り組む授業としてリメイクして大学だけではなく高校の授業や行政が実施する教育プログラムとして社会に普及できるカタチにしました。

山中 「1番でないといけない」「すごくないといけない」というプレッシャーってイノベーションのジレンマかもしれませんね。そういうプレッシャーがないほうが、自由でもあり、楽しくもあり、良いポジションでじゃないかと思います。
 最先端を追うのも素晴らしいですが、自分たちのオリジナリティのある研究をしたり、アイデアを育てる力が身につかないんじゃないかなと感じます。

自分の存在価値を問い続ける力

山中 博士になると論文の数を生み出すことはできるようになります。博士論文というのはそれなりのスコープ(視野)が必要で、ただ論文を10個書くのとは全然違います。博士課程や研究でしか経験できないということはないと思いますが、自分で問いを立てて答えを出すというような、「生みの苦しみ」を味わう経験ができるのが博士論文だと思います。

上田 やり始めたら抜け出せなくなるところが起業と似てるなと感じました。研究においても起業においても自分のやっていることに社会的意義があるかとか、自分にしかできないことなのかとか、自分にも社会にも自分の価値を問う機会になるかと思います。
 日本って「自分が何のために存在しているのか」考えられる企業が少ないなという風に思います。

山中 日本は、売れるものを売るという企業がほとんどですよね。会社の理念や強みってなかなか見えてこないですよね。

上田 日本で存在意義がなくなったらなくなる会社ってあまりないですよね。アメリカだと役に立たないと評価された会社が買収されたりすることが当たり前のように起こるので、会社にとっても働く人にとっても存在価値をしっかり考えて行動する必要がでてきます。
 企業に入ることを、就職ではなく「就社」だと表現されることもあるように、自分が大学で得た知識や経験とは関係なく、会社で必要なことを無理やりやらされるというミスマッチが起こってしまうのも日本の社会の問題なのかなと感じることはあります。

杉山 「会社は社員を守らなければいけない」という日本の文化が、会社や自分自身の存在価値を曖昧にしてしまっている原因ではないかなと思います。
 日本では、会社が自分の社会生活を守ってくれているから会社から言われたことをやらなければいけないと考える人がほとんどだと思います。一方アメリカでは、「あなたは、この会社でこの仕事をするために入ってきたんだ」という目的がはっきりしており、成果が上がらなければクビになったりすることが当たり前にあります。
 日本のように、会社(上司)から言われたことを守っておけばいいという働き方だと、会社の理念について考えることも自分の存在価値も曖昧になってしまったのではないかと思います。

山中 日本の行政や企業にある部署間の「異動」というものがあります。やりたくもなかった仕事をさせられるというのはマイナスなことに聞こえますが、仕事としてやってみることで意外な自分の才能に気づいたり、好きなことが見つかったり、そういうこともあります。
 日本は多様な知識や経験を身に着けたジェネラリストを求めていて、アメリカは1つの分野に特化したスペシャリストを求めていると考えたら、どちらもメリット・デメリットがあるなと思います。

偶然の出会いがイノベーションにつながる

上田 どのような仕事であっても、何かにとってのサービスや価値を提供していくというのは一緒ではないかと思います。サービスを作っていく上でどのような理念を持ち、メンバー同士で共通認識にできるかが重要だと考えています。
 RIMIXも社会起業家を育成するプラットフォームとして、学生にどんな価値を提供できるのか、社会にどんなインパクトを生み出すのか、色々なことを大学の職員さんや杉山君などの学生スタッフと一緒に考えていますが、最後には「社会にインパクトを与えられる若者を育てられるか」ということを一番大事に考えています。
 社会人になって、学生ほど偶然の出会いが減っているなという風に感じます。山中先生と私が出会って本を一緒に出版することになったのも偶然の出会いからの始まりですし、大学はそんな風に、偶然の出会いが生まれる場がたくさんあり、新しいことを生み出せる可能性を秘めていると思います。

杉山 「偶然の出会い」というので思い出したんですが、この前参加したRIMIXが主催しているオープンゼミで、その場で出会った数名の参加者と一緒にプログラミングの勉強をすることになりました。ゼミが終わってからも6回ほどオンラインで集まってPythonの勉強会を行いました。
 経営学部、国際関係学部、理工学部など学部を超えて集まったメンバーで、これからプログラミングの勉強だけではなくこのメンバーで新たなことにチャレンジしていけるのではないかとワクワクさせられるような出会いでした。

山中 学部を超えたつながることって、本当にないですよね。ましてや、同じ学科でも研究室が違うと話せないということもあったり、そういう点ではせっかく多様な人が集まるキャンパスなのに損をしているところですね。

杉山 私が大学生で学んだことで一番大きいのは「多様性の大切さ」です。高校生まで静岡で暮らしていて大学で関西に来たのですが、出身からバックグラウンドが様々な人とコミュニケーションをとったことで視点が増えたと思います。視点が増えたことで、興味・関心の対象が増えていろんなことに挑戦できるようになりました。
 出会いや多様性のような「見えないチャンスをいかに活かしていくか」ということを、みんなで取り組んでいきたいなと思っています。

さいごに

 ここまで、対話の内容を抜粋してご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?
 現在の社会の仕組みや制度のメリットやデメリットから、研究も起業の世界の共通点や、新しいことに取り組む上で大切なマインドが感じられる対話でした。

 最後までお読みいただきありがとうございました。インパクトラボでは、SDGs表現論などSDGsと教育に関する講演やセミナーを実施しております。

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