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なぜ自治体主催の駅伝やロードレースが再開できないのか? ~陸連ガイダンスの要件を突破できず、ファンの行動にも頭を悩ませた出雲駅伝の例


 日本陸連がロードレース開催の前提条件として示した「ロードレースに関わる全ての人(参加ランナー・チーム関係者・大会/競技役員・観客・メディア、大会運営関係者など)の連絡先を把握し、健康状態の管理体制が整えられていること。」により、出雲駅伝は中止に追い込まれました。
 令和2年度出雲市議会定例会において出雲市長がその理由を語っていますが、都道府県対抗駅伝の中止に向けた記者会見を見ると、出雲市が中止を決断した真意が陸連幹部に伝わっていないように感じてしまいました。

 これまで日本陸連さんにはファンイベントにお招きいただくなどとても感謝していますが、本業で自治体の仕事を受託し、議員をしている同級生たちと地域活性化について話し合っている自分の経験則から考えると、「駅伝開催自治体にとってガイダンスの矛盾が足かせ」になってしまったことが見えてきました。

そこで出雲駅伝の中止に至った経過をたどることで、陸連と自治体の距離感を縮める一助になればと、おせっかいをしてみることにしました。
(2020.9.13第1版、9.14名古屋ウィメンズ開催による修正、9.21関東学連通達追加)

★出雲駅伝が中止になった理由


 出雲市議会一般質問(2020.9.4)において、出雲市長が次のように明言しています。

大会の安全な運営や選手スタッフ地元ボランティア等の関係者の安全確保が困難と判断し、苦渋の決断で、今回の大会の中止を決定した。

今回中止決定した主な理由については2点。
1点目は沿道で観客の皆さんが密集することによる感染リスク、これを避けることができない。
2点目が多くの皆さんにご協力いただいてこの大会を運営しておりますが、そのボランティアの皆さんの確保が難しい。

1点目の沿道の観客については、特にスタート地点、ゴール地点、各中継地点、例年多くの観客に応援いただいて、その密集という状態を避けることができないという判断をした。
無観客での開催も検討したが、他の事例において、原則無観客ということで自粛要請をしたにも関わらず、結果的には観客の皆さんが沿道に集まってきたということもあった。このリスク回避は困難であるとの結論になった。
日本陸上競技連盟の「ロードレース再開についてのガイダンス」では、ボランティアをはじめ大会関係者、観客などロードレースに関わる全ての人。「観客」も含めて、全ての人に対する感染予防対策が必要とされ、特に高齢者、あるいは基礎疾患を有する方のウイルス感染による重症化へのリスクに触れている。
この出雲駅伝は32回を重ね、ボランティアの高齢化が必然的に、第1回大会からずっとご協力している人もさすがに30年経つと、それぞれ高齢者ということで、高齢者の比率が非常に高い。
必要人数の確保が、高齢者を除いた場合に、それを確保ができるかどうか検討した時に、なかなかそれが困難であるという結論に立った。




ちなみに自治体においては、市長による記者会見と議会答弁では、議会答弁の内容を重視します。マスコミ向けの記者会見は、市長の意思で修正、撤回が出来ますが、議会答弁での修正撤回は市議会議員全員の承認が必要になります。その分発言の裏側には膨大な根拠法令とデータが控えています。
議会答弁の全文は、こちらから読めます。

★東京マラソンが出雲中止の引き金に

中でも、「他の事例において、原則無観客ということで自粛要請をしたにも関わらず、結果的には観客の皆さんが沿道に集まってきたということもあった。」陸上長距離現地観戦ファンにとって、とても重い発言ではなかったでしょうか?

これは、時期的にみて東京マラソンの例を根拠としての発言でしょう。

2020東京マラソンを観戦した人は次の①~③に分類できます。
 ①「私一人くらい、見に行っても大丈夫だろう!」
 ②「自粛要請があったなんて知らなかった」
 ③「たまたま通りかかったらマラソンをしていて、立ち止まって見た」


①②については、主催者、出場選手やチームの周知活動で減らすことはできますが、③については日常生活の一端であり、レース主催者が制限することは不可能です。

出雲市が出雲駅伝の開催にあたって「ロードレース再開のためのガイダンス(チェックリスト)」に沿って検証したら、前記①②③の観客の感染対策が困難で、レース開催の必須条件である「観客」も含めて、全ての人に対する感染予防対策が出来ないことが分かったわけです。

<偶々通りかかったら東京マラソンやってて観戦しちゃったのイメージ>

1年前(2019.3.3) 東京マラソン 21㎞付近(門前仲町)の折り返し地点
この写真の地点は、地下鉄乗換駅であるため、応援の人に加えて通りすがりの人も立ち止まります。雨のレースでも人垣は何重にも。好天だったらもっと多かったことでしょう。


★「ロードレース再開のためのガイダンス」を出雲市はどう検証し、中止の決断をしたのか?




日本陸連作成の「ロードレース再開についてのガイダンス」は2部構成になっています。
(基本方針)・・・大まかな方向性を示す
(チェックリスト) ・・・具体的なチェック項目を列記

出雲駅伝は、これまでの開催手順とチェックリストを照合し、基準を満たしていない部分を補完する作業をしたと、これまでの市長会見や議会答弁で明らかになっています。




チェックリストから抜粋
【ロードレース開催の前提条件】
1.~3.略
4.ロードレースに関わる全ての人(参加ランナー・チーム関係者・大会/競技役員・観客・メディア、大会運営関係者など)の連絡先※2を把握し、健康状態の管理体制が整えられていること。
※2 連絡先の把握の必要性
大会主催者が全ての人の連絡先を把握することで不特定多数ではない状態を作ることが重要である。また感染者が発生した場合に、保健所から大会主催者に対して、感染者本人及び濃厚接触者等への連絡をする為に、連絡先の提供を求められる場合があるので、必ず把握するようにすること。
※3 健康状態の管理
・大会開催 1 週間前、大会終了後 2 週間を健康観察期間とし、日本陸連 HP:【大会前:提出用】体調管理表・症状チェック表の内容に基づいた体調管理を求めること。
・健康状態の管理方法は、2.参加ランナー・チーム関係者の健康管理(1)ロードレース開催 1 週間前を参照すること

(以下略)

上記チェックリストの太字の部分がクリアできないのが、出雲駅伝です。
理由はこんな感じ。スタート、中継所の管理が難しい。

コロナ禍で、さまざまなイベントが中止され、日常生活が制限される中、出雲駅伝を開催するには、市民の不安を払拭する必要がありました。払拭させるために必要な根拠を探したけれど、陸連のチェックリストしか見当たらなかった。

チェックリストをクリアしようと検証したが、「全ての観客の感染対策」が義務付けられている。前述の「東京マラソン」の例をクリアできないから、「全ての観客の感染対策」は不可能で、チェックリストのクリアは無理。

チェックリストがクリアできないのに、市民に開催するって言いきれない!
中止の苦渋の決断はこうして行われた・・・と出雲市長は議会で明言したわけです。

もうひとつの要因であった、「ボランティアの確保困難」については、別の場所で論じたいと思います。


都道府県対抗駅伝中止記者発表で露呈した陸連と自治体の認識差




前述の流れで出雲駅伝は中止になったのですが、9/9の陸連記者発表で、気になる発言がありました。陸連は、各地の駅伝大会を制限しているという意識をお持ちでないのです。
出雲市長の発言との温度差を感じました。




理事会オンライン会見報告/尾縣専務理事 都道府県対抗駅伝の中止方針は「大会の特徴が今回はリスク」、他の駅伝については「それぞれの事情がある」

日本陸上競技連盟は9月9日に、本連盟が主催し2021年1月に開催を予定していた「天皇盃 第26回全国都道府県対抗男子駅伝競走大会」および「皇后盃 第39回全国都道府県対抗女子駅伝競走大会」を中止する方針を発表しました。
今後、それぞれの大会の組織委員会(開催日、方法は未定)で協議した上で正式決定します。

両大会の中止方針は、9日の本連盟理事会で報告した後、各都道府県陸上競技協会にも通知しました。また、理事会に関する報道対応でも尾縣貢専務理事が説明しました。

尾縣専務理事は報道対応で、中止の方針を決めた理由に都道府県対抗駅伝の特殊性があることを強調しました。また、全国各地で計画されている駅伝大会の開催を本連盟が制限する意図は全くなく、それぞれの事情や判断を尊重するとの意向も明確に示しました。

(以下略)
日本陸上連盟 HP 理事会オンライン会見報告 より引用

陸連尾縣専務理事談話「駅伝大会の開催を連盟が制限する意図は全くない」の根拠はガイダンスの基本方針にあります。

主旨:感染拡大を最大限防ぎながら大会の再開を目指す
この困難な状況下において万全の策を講じながら、新しい形を模索しようとする主催者の姿勢に対して、私たち日本陸上競技連盟は、「ロードレース再開のガイダンス」の作成等を通じて貢献したいと考えております。
もちろん、コロナ禍においてリスク無しにロードレースを開催することが難しい状況であることは、上述の通りであり、地域社会の安全を考慮し開催を断念する大会主催者の判断も同様に尊重すべきと考えます。

4.ガイダンスの位置づけ

 本ガイダンスは強制力や拘束力を有するものではありません。また、ロードレースは大会によって環境や運営方法も大きく異なる為、全てを包含した内容にするに至らない点は予めご留意ください。従って、最終的な判断の主体は大会主催者であり、本ガイダンスの内容と地元行政や保健当局等の指導内容に齟齬がある場合は、後者の内容を優先いただきますようご理解のほどよろしくお願いいたします。



ざっくりいうと
「チェックリストは作ったので役に立ててね。でも完璧じゃないんで、もしチェックリストと異なる内容でレースを開催したかったら、自分たちで作った基準を開催地の自治体や保健所に認めてもらってね」ということです。


あくまでガイダンスは「目安」「指針」であり、強制力はないとの発言ですが、陸連のガイダンスが一番の指針にならざるを得ません。

だってガイダンス自身が国や上部団体の方針・ガイドラインを参考にして作成されているのですから。


  <日本陸連 陸上競技活動再開のガイダンス 概要から抜粋>



陸連は、自治体は独自の判断で開催してもよいと言っているが、自治体の新型コロナ感染防止対策は、国・都道府県の方針に基づいています。

つまり、陸連も自治体も同じ「国の方針」で動いているわけで、自治体が独自の判断をする根拠を見つけるのは、とても困難なわけです。

国や上部団体の方針を参考に作った陸連の指針が「全ての観客を主催者が管理できる」前提で作成されているわけだから、観客のコントロールができない自治体は再開に向けての必須条件を満たすことができない。

出雲駅伝に当てはめると結果的に「陸連(のガイダンス)が、開催を制限」してしまったことになります。

このことに陸連は気づいているのでしょうか?

★じゃあ、自治体がロードレースを再開するには、どうしたらいいの?


出雲駅伝の中止決定がなされてから約2か月が経過し、感染防止対策も日々変わってきています。開催の必須条件の

4.ロードレースに関わる全ての人(参加ランナー・チーム関係者・大会/競技役員・観客・メディア、大会運営関係者など)の連絡先を把握し、健康状態の管理体制が整えられていること。

のブラッシュアップが必要な時期に来ているのではないでしょうか?
例えば

4.ロードレースに関わる全ての人(参加ランナー・チーム関係者・大会/競技役員・メディア、大会運営関係者など)の連絡先を把握し、健康状態の管理体制が整えられていること。
観客の健康状態管理については、開催自治体や保健当局との協議により地域の実情に合わせた体制を整備すること。



観客の健康管理については別に定めるのが良いのではないでしょうか?
これだけでも、ロードレースを主催する自治体の負担は軽減されるはずです。


★どうなる学生三大駅伝?


これから駅伝シーズンに入りますが、出雲より規模が大きく、地上波全国生中継があり、選手、関係者、ファンが全国から集結する全日本、箱根の開催可否について、気になるところかと思います。
そこで、最新の開催要項をまとめてみました。

ここから言えることは、全日本と箱根の主催者に自治体が含まれておらず、道路を自治体から借りて大会を開催することが解ります。

観客の動向に限って言えば、主催者が感染防止対策を作成し、通過する自治体全ての同意が得られれば、開催は可能です。
その開催可否の時期は、駅伝開催当日の感染状況が大まかに推察される頃ではないでしょうか?
個人的には、2週間前が目安と想定しています。

全日本については、すでに開催要項において、チーム関係者の観戦自粛協力が明記されています
(申込方法 (6)応援自粛協力への同意)


全日本大学駅伝 開催要項(公式HPをスクショ)

参加チームは、チームエントリーの際に、「応援自粛協力への同意書」を提出しなければならず、提出がない場合は競技会への参加を認められません。


★(9.14追記)名古屋ウィメンズマラソン、シティマラソン開催決定!





主催 日本陸上競技連盟、中日新聞社
共催 愛知県、名古屋市、名古屋市教育スポーツ協会

主催 名古屋市、名古屋市教育スポーツ協会、中日新聞社
共催 愛知県
後援 日本陸上競技連盟

気になる開催の前提条件を見てきました。(両マラソンとも同じ内容)

      (公式HPのスクショ 2020.9.14)


開催の前提条件は3項目。
出雲駅伝がクリアできなかった「4.ロードレースに関わる全ての人(参加ランナー・チーム関係者・大会/競技役員・観客・メディア、大会運営関係者など)の連絡先を把握し、健康状態の管理体制が整えられていること。」がありません。

陸連の主催大会で、このように前提条件が緩和されているので、間もなくチェックリストの改訂があるものと推察しています!!

チェックリストの改訂が無かったら、、、、断腸の思いで中止決定された各大会の主催者は、強気の自己主張されてよいと思います。応援します。

ダブルスタンダードは無しでお願いしたいです、陸連さん。大人げないですね。

★(9/21追記)関東学連 大会応援自粛要請通達を発出

競技会での応援等の自粛について(2020年9月19日付関東陸学発2020の第75号)  (関東学連HPにリンク)

2020.9.19に学連会長名で、各加盟校へ発出された通達です。箱根駅伝については、一言も触れられていませんが、駅伝が再開されていない段階で発出されたことは、とても意義あることだと思います。

「一人ぐらい見に行ってもいいだろう!」が、応援しているチームに迷惑をかけることになるかもしれない。
このことを、肝に銘じて応援していきましょう!

サポートを検討してくださってありがとうございます。そのお気持ちだけ受け取らせていただいて、出雲駅伝主催者の出雲市が作った「出雲駅伝タオル」をご紹介させていただきます。 https://www.izumo-ekiden.jp/towel/index.html