森見登美彦著『有頂天家族』

中二男子のTKは、最初から選書の渋さが光っていました。

体験授業ではまず『オシムの言葉』と『日本会議の研究』『スペース金融道』を紹介するという読書の幅の広さを披露し、最初の授業では椎名誠の名作『アド・バード』で書評をささっと書き上げました。

『アド・バード』のあとは、立て続けに、『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)、『タルト・タタンの夢』(近藤史恵)と、魅力的な作品たちを取り上げ、「Fate/stay night」を取り上げた熱い書評(ゲーム評)も読み応えがありました。

今回ご紹介するのは、このクラスが始まって、4回目の授業のときに書いた森見登美彦の『有頂天家族』の書評。TKがあんまりさらさらと書評を書き上げていくので、ちょっとハードルを上げて、週刊誌の大書評ぐらいの分量になるように、文字数を指定して書いてもらったのですが、TKは、それも難なくクリアして、結局、いつものように、さらさらと書き上げて、クールに去っていったのでした……。


  淡々と集中して書き続ける孤高のTK↓

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『有頂天家族』(森見登美彦著)  評者 TK

 この物語の主人公は、洛中の狸たちの惣領であった下鴨総一郎の四兄弟が三男。下鴨矢三郎である。この四兄弟を主軸とした騒動が、本作の主な部分を占めている。この四兄弟、頑張って亡き父の宿敵にである夷川家に仕返しをしようとするも、長男のカチカチに堅いわりに土壇場に弱い性格と、次男の引き籠りと、三男、矢三郎の高杉晋作ばりのオモシロ主義と、弟のあまりにも不甲斐ない化けぶりによって洛中の狸たちからは、あの下鴨総一郎の血を引きそこねた、ちょっと無念な狸たちと評されている。
 しかも夷川の息子たちは底意地が悪く、矢三郎が尊敬する天狗は、数年前から飛ぶこともできず、人間の美女にうつつを抜かしている。その内でも、四兄弟は「面白きことは良きことなり」を合言葉に、一族の誇りをかけて駆け回る。本作はそういった物語となっている。
 しかし、話の内容自体は、とてもほんわかした物語であり、いわゆる家族小説のおもむきさえ漂わせている。万が一にも仇討ちが主目的の小説などではないことは明記しておきたい。
 と、ここまで頑張って書いたが、この物語、真に面白いのはここではない。本作品で一番面白いのは、一つ一つの他愛もないエピソードであり、その集合である。そのエピソードたちは、一つ一つの目的にそって動いているのではなく、てんでばらばらな方向に、好き勝手にのびている。言うなれば、「物語の枝」とも言うべきものが、いたる所に伸びているような、そんなイメージである。なにしろ物語の大半は、あまりストーリーに与しない「無駄なエピソード」であり、中にはどう考えても筆がすべったとしか思えないような、意味のわからない話もある。しかし、物語の核を見つけようとして、その枝をバッサリ切っていくと、物語はみるみる貧弱になっていき、本作を読み終えた後の多幸感とも言うべき何かは、まったくつたわらない。例えば矢三郎にしてみれば、天狗から1ヵ月以上逃げ惑ったと思えば、父を狸鍋した宿敵と食事を共にし、底知れない悲しみにくれた後で、最後は初詣で大団円だったりする。まったく意味がわからないと思う。自分も何を書いているかよくわからない。
 何はともあれ、矢三郎という面白いことが大好きな狸の目線で、京都にこんな面白いことがたくさん起きている、という事だけ理解して頂ければ十分である。森見さんの作品は、何も考えず、ただ面白がるのが一番である。この書評で、こんなにも面白い狸たちが織りなす雰囲気を、少しでも感じて頂けることを切に願う。

ちなみに彼が最近書き上げたのは、こちらの本↓の書評。

この本も無茶苦茶面白いですよ。

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