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森絵都著『流れ星におねがい』

 中学1年生URさんが、いつも持ち歩いているという本が『流れ星におねがい』です。そう言えば、僕も昔は同じ本をいつもかばんに入れ、その本に勇気づけられていたなぁ、と懐かしく思い出しました。

いもいも小論文教室が始まったのは去年の10月。この「マガジン」では、教室に通う本好きの子たちが、好きな本、大切な本、読んで面白かった本を紹介していきます。

この教室の生徒たちは、本当に本を大切にしていると思います。URさん同様、一つの本をいつも持ち歩いている子は他にもいますし、クリスマスプレンゼントはもちろん本。「図書館で同じ本を借りて何度も読み、どうしても欲しくなったら買ってもらう」という子も多いです。かばんの中にいつも何冊かの本が入っている(しかもハードカバー)のを見たりすると、みんな本当に本が好きなんだ、とうれしくなります。

10月に授業が始まって以来、URさんにとって二つ目の書評。今は三つ目に取り組んでいます。彼女の気持ちが伝わってくる、すばらしい書評です。本に勇気づけられて生きてきたすべての人が共感するのではないでしょうか。どうぞ、読んでみてください!(土屋)


『流れ星におねがい』   

 五月の初め、問題は起こった。桃子は、体育係だから、という理由で、運動会のリレーの選手になってしまったのだ。小学四年生にして、五〇m一一秒台という遅さなのに。
 しかも、今年のリレーは、責任重大なのだ。桃子の学校では、運動会の学年リレーで一位だったクラスには、そのクラスが望むものを、校長先生がプレゼントする「校長先生にお願い」というプログラムがある。学校には、クラスに一つづつしかサッカーボールがないのだ。桃子のいる四年三組は、女子だってサッカーが大好きだから、昼休みの度に大ゲンカになってしまう。クラスを平和にするためにも、一位をとって、サッカーボールを手に入れることは絶対なのだ。それなのに、メンバーは、非協力的なのである。同じ体育係で幼馴染である圭太郎はまだしも、サッカー第一のウルフ、何でも完璧で、人をあまり寄せつけない西川さん、こんなメンバーではバトンを落としてビリになってしまうのではないか、という不安が桃子の頭をよぎる。その不安を解こうと、用務員であり、花壇にあるたくさんの花を愛情を込めて育てている、仙さんの元へ行く。仙さんは、毎日のように来る生徒をしっかりと聞いて、「たいしたことじゃあないよ」と言ってはげましてくれるのだ。桃子は仙さんが大好きだった。優しく話を聞いてもらって、やっぱりおなじみのセリフを言ってもらうのだが、その時ばかりは桃子も、たいしたことなのだ、と思ってしまうのであった。そんな桃子に仙さんは、「この学校にはね、小さな星がすんでいるんだ」ということを教えてくれた。最初は意味が分からなかった桃子も、だんだんと力がわいてきて、自分が一番足をひっぱるのだから自分だけでもがんばろうと決意する。そして個人練習を始めるのだ。
 はたして仙さんの言葉の意味と「星」の正体は何なのだろうか。チームに団結力は生まれるのか、四年三組の「平和のサッカーボール」の行方は? 最後までドキドキするのである。
 この本は私が始めて一気読みした小説であり、今でも毎日のように持ち歩いている。
 小学四年生の夏〜秋にかけての頃だった。私はその日、テストの結果が悪く、ベッドで泣いていた。そんな時、自分の本棚の中にあったこの本が目にとまり、なにげなく読み始めたのである。すると、物語の中でひたむきにがんばっている桃子の姿に感銘を受け、はげまされ、私ももう少しがんばってみようと思えたのであろう。そこで初めて一気読みしたのであった。その頃から、私は、悲しい時、気分が沈んだ時にこの本を読むようになり、読むたびにいくらか元気が出てくるのだ。
 また、私も小学生の時、リレーの選手に選ばれたことがある。やはり本番だけでなく、練習から緊張してしまうものだ。桃子の気持ちはとてもよく分かる。今ふり返ると、小四の私にとって、この本は他の本に比べても共感する要素があったのだと思う。
 私は、著者である、森絵都さんの作品が割と好きだ。特に、「にんきもののひけつ」シリーズは、小学二年生の頃、図書室に通いながら読んでいた覚えがある。この本と『流れ星におねがい』の共通点は、”秘密”と”出会い”だと思う。桃子は、メンバーや仙さんと出会い、流れ星の秘密を知る。『にんきもののひけつ』のけんたくんは、人気者になるひけつを知りたくて、バレンタインデーにたくさんのチョコをもらっていたこまつくんの秘密をさぐろうとし、こまつくんの新たな一面に出会うのである。またスポーツに対して一生懸命になる点では『DIVE!!』にも通じるものがあると思う。なんといっても、著者の魅力は、子どもの目線にそった文章にあると思う。にんきものシリーズの主人公のおさない考え方、『流れ星にお願い』では、桃子の小四らしい悩みや考えや言葉、『DIVE!!』でも、思春期の子どもらしい考え方を、年相応の目線で描写しているのだ。よって子どもにとって共感できる作品がとても多い。ぜひ読んでほしいと思う。


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