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総括 so what?

 いよいよもって大晦日であり、あと2時間もせずに紅白歌合戦が始まる。平成最後の年と令和の元年がもうすぐ終わるのだ。今年を、己を振り返ってみると、

本当に


 今までにないような1年間だった。



 1月は単なる求職者だった。だが2月から7カ月ほど、もらった額から逆算すると日当1500円程度で生まれて初めての現場作業員をした。

要するに馬鹿すぎて騙された。

 もちろん俺にはあの忌まわしい元勤務先に未払いの分の賃金や諸々の費用を請求する権利がある。しなければならない。現状の生活だって貯金はゼロどころかマイナスでかなり厳しい。だが正直に言うと、今後の人生においてもう一切関わりたくないというのもとても大きい。

 

 最初は現場作業員の給料は通常翌々月だと聞かされており、共同の住居と日々の食費は保証されていたために、「そういうもんなのか」と楽観的に捉え、未体験の仕事に興味関心を持ちながらOJTのような気分で働いていた。だが現場から帰ると電気が止まっていたあたり(それは3月の頃だ)から食費も滞り始め、雲行きが怪しくなる。ねぐらと就業場所は文字通りの意味で家に逃げ帰るのが不可能な場所にあり、衣食住を確保するにはとにかく現場に出るしかなかった。元号が令和に変わる頃には感覚が麻痺していたのだろう、自分でも「21世紀にもなってこんなことがあるのか」とある意味では他人事のような感覚になっていた。だがそれは紛れもなく俺の日々の労働であり生活だ。

 長くなるし色々と問題がありそうなので間を省略するが、最終的に俺はある人からの電話をきっかけに、どうにか自分の置かれている状況が異常だということを再認識し、就業中に現場から大脱走して今は実家で紅白歌合戦が始まるのを待ちながらこれを書いている。こうして振り返ると、何だか終戦直後に体ひとつでどうにか大陸から日本に引き揚げてきた人みたいだ。今でもある意味では半年ほどキツネにつままれていたか神隠しにでも遭っていたんじゃないかという気がしている。だが実際に季節は移ろい、元号は変わり、俺はひとつ歳を取り、何が起こったかということを記憶している。摩訶不思議アドベンチャーだ。

 今年の苦いどころではない経験について、個人的にどこにも出さずにちまちまと書いているが、書くために記憶や記録を辿るほどに、自分がこの1年間を生き延びてこられたことが宝くじに当選するよりもよほど奇跡的なことのように思えてくる。時々死にたくなるほどに全てが嫌になることもあるが、いちいち死んでもいられない。

俺は生きて帰ってきた。そしてこたつと年越しそばと第70回紅白歌合戦と2020年が俺を待っている。

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