フランクルの人間観と思想をもっと知る(知の教科書フランクル・諸富祥彦)
ヴィクトール・フランクルの本は「夜と霧」「それでも人生にイエスと言う」を読んだがそれらには書かれていなかったことが多く書かれていた。
フランクルが取りあげられる際にはアウシュビッツの強制収容所での出来事にスポットがあたるが、提唱したロゴセラピーや実存分析は収容所に送られる以前から考えられていた。それよりももっと驚くのはフランクルが4歳のときに「生きる意味への問い」に目覚めたということ。
この本は、大きく分けて2部構成になっている。
◆第一部 フランクルの生涯と思想形成
ウイーンのユダヤ人家庭での誕生からフロイト、アドラーとの出会いと別れ、結婚、強制収容所、そして再婚。様々な出来事がおきる中でフランクルの思想の変遷がわかりやすく書かれている。
◆第二部 フランクル思想のキーワード
第二部がこの本のメインであると言える。
1.「苦悩する存在」
人間存在の本質は「悩み苦しむこと」にあると考え、その「ただただ悩み苦しむこと自体」にすでに意味がある。
「人間が人間たるがゆえん」を「苦悩する」という点に見出して「人間は苦悩する存在(ホモ・パティエンス)である」と言った。
また、フランクルは「苦悩」を一つの「能力」と捉えた。
2.バイ・ザイン(もとにあること)(Bai-sein)
正しい苦悩とは何か。
それは「何かのため」に思いを馳せるような苦悩である。自己目的的な苦悩ではなく、「何かのため、あるいは、誰かのため」の苦悩である。
自己目的的になった途端、苦悩はすぐにマゾヒズムに転化してしまう。
フランクルは人間精神の「志向性」について、バイ・ザイン(~のもとにある)という独自の概念を提示している。
たとえば、愛する人のために真に苦悩するとき、その人は「愛する人のもとに」いる。亡くなった人のことで悲しみにくれ、その人のことに思いを馳せて苦悩するとき、その人は「亡き人のもとに」いる。
3.実存的空虚
多くの人の内側にぽっかりと空いている「心の穴」、実存的空虚にフランクルは着目している。
実存的絶望感には二つある。
一つは「絶望型」の実存的空虚。
突然のアクシデントや挫折によってもたらされる急性の実存的空虚。
二つ目は「慢性」の実存的空虚。
特に大きな悩みがあるわけではないけれど、どこかむなしい、何か足りない、という空虚感。
4.幸福のパラドックス
実存的な空虚に陥った人に必要とされるのは、「孤独になって自分と向き合う時間」である。
自らの内面の「空虚」を生み出しているものは、自分自身がとってきた「生き方の姿勢なのだ。それは自らの幸福そのものを直接に追求するような姿勢である。
5.「人生の問い」の転換
フランクルの本には必ず登場するキーワード「人間は人生から問われている」
人生をまったく異なる角度から見るということ。
「私の問い」よりも「人生からの問い」が先という、「人生の立脚点」の転換。
6.意味への意思
人間は何よりも「意味」を求める存在だというフランクルの考えは、「意味への意思」という概念として結晶化されている。
7.次元的存在論
この項では、どのような観点に立ってみるかで異なって見えるということが書かれている。
8.魂のケア
フランクルの主著に「医師による魂のケア」というものがあるが、フランクルは自らこの「魂のケア」が特定の思想・信条によるものではないことを伝えるのに腐心したらしい。
9.心理(精神拮抗作用)
10.脱内省
の2項は少々病理的で特殊な印象があったのでここでは省略いたします。
11.あなたがこの世に生まれてきた「意味」
あなたの人生に与えられた「使命」
フロイトの精神分析をはじめとした因果論的心理療法では過去のトラウマからの解放を試みて、「思考パターン」や「行動」の修正を試みるが、苦しみに満ちた「過去の物語」から解放され「苦しみの原因」から解放されたとしても、からっぽな心は依然、からっぽなままで、人は「空虚」に耐えられないから、自分の苦しみの原因をどこかほかに探そうとする著者はいう。
生きていく上でさまざまな問題が起き、出会った問題に真摯に取り組む。
「解決すべき問題」にしか見えていなかった問題が、次第に「自分にとって不可欠な固有の意味を帯びた問題」になり、「自分にとって特別な問題」になった問題に懸命にかかわっていくことで、その人の人生が、またその人自身が変わっていく。出会った「問題」が人を作っていくという。
そして「人生からの問い」に立ち返る
では、人生からの問いに懸命に答えていくとどうなるのか。
最後に著者が幸福についてまとめてある。
◆感想
過去にフランクルの専門書を読んだら難解で挫折してしまったが、この本はフランクル自身のことや思想をわかりやすく且つ詳しく書かれていてフランクルのことがよくわかった。
「人生からの問いに答える」、「使命」「天職」をまっとうし充足した生き方をする。
こうまとめれば簡潔でわかりやすく着地した感じはするが、実際に生きていくうえでどう難しいかと考えると、現れる「問題」「課題」を人生からの問いと考えることができても、それを乗り越えることが難しかったり、「使命」と思えることに出会えるとは言ってもなかなか出会えない、あるいは出会えていると思えないということもあるかもしれない。
このあたりの実生活で起こることをどう捉えて思考するか。
それこそがフランクルが我々に問うていうことなのではないかと思う。
心理学でありながら、人生哲学のようでもあり、宗教といえども自己をみつめる仏教の思想と似ているところもあったり、魂という言葉からスピリチュアル的でもあり、自己の考えや人生観の幅が広がる思想であると思った。
あとは生きるうえで実践できるかどうかそこにかかっている。
・以下は過去に書いたフランクルの読書記事
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