酒場手帖#1 秋の夜長におじさんとビール
2024年10月@のんべえハウス
のんべえハウスとの出会い
さいきん、近所にいい感じの居酒屋をみつけて、気が向いたら行くようにしている。
30代くらいのお姉さんが何年か前に始めた、モダンであったかい感じの居酒屋だ。
店主のお姉さんはふだんは別の仕事をしているそうで、お店が開いているのは週に3日か4日くらい。折坂裕太とか奇妙礼太郎とかの音楽が流れていて、木目のコの字のカウンターを、いろんな世代の人が囲んでいる。居酒屋の割にやたらと明るいのが特徴。
ここでは名前をのんべえハウス、としよう。
舞台俳優をしているお姉さんたちとか、某有名バンドのサポートをしていたとかいうハーモニカ吹きのおじさんとか、なんだかすごく興味をそそられるような大人たちがいっぱいいる。
40歳を迎えるおじさんが教えてくれたこと
その日出会ったお兄さんは、やたらと髭の長い、体の大きい男の人だった。
なんでそんなに髭を伸ばしているんですか?と聞きたかったけど、仲良くなってすぐにはそれを言わせてくれなそうな感じの雰囲気の人だった。
でも話しているうちにだんだんと仲良くなって、おじさんは大の温泉好きであること、もうすぐ誕生日を迎えて40歳になることを教えてくれた。
店の前で秋の風を浴びながら、二人でハートランドで乾杯した。
40歳になるのはどんな気分なのか、と私が聞くと、「いや、実は、甘くみてたんだけど」という出だしで「スキンケアってめっちゃ大事なんだよ」という回答をくれた。
そんなおじさんだったけど、話の至るところから「ただの髭が長いだけのちょっとふざけた人」ではないことが分かってきて、気づいたら私はコロナ禍の時の学生時代のことをその人に吐露していた(なんでその話をしたのかは良く覚えていない)。
あの日々がなんだったのかいまだによくわからない、と私がこぼすと、おじさんは、電子タバコをあたためながら「その時のことってさ、記録してたりするの?」と聞いてきた。
「記録してることって、今は大したことないかもしれないけれど、後になって価値が生まれることがあるから。大事に取っておいたほうがいいよ」と続けた。
それは、社会のためにもなり得るし、未来の自分のための助けにもなるのだという。
この時、大人という存在のことをあらためて考えた。自分のみえている物事や、感じているものの価値というものは、この先、変わっていく可能性のあるものなのだということを知った。
書くことはこれからも続けていきたい。続けないといけない。そんなことまで思った。けれど、他人に言い切れるほどの根性はなく。ビールでふわふわとした身体を秋の夜風に任せたりした。
おかげで、この季節のことがちょっと好きになった。