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No.8|臨床心理|あなたの心配は役に立っていますか?

心配してしまうことを心配することはありますか?

心配するという言葉は日常的に使う言葉ですし、どんな人でも心配はしたことがあると思います。また、日本では「心配」に送り仮名をつけると「心配り」となり、気を遣う心理状態として望ましささえ感じてしまいます。しかし、心配をしている時は強い不安を感じますし、何も手につかず、実際にはとても苦しい状態です。

カウンセリングをしていると、ほとんどのクライアントさんが心配事を抱えていることを実感します。認知行動療法のカウンセリングでは、その心配事の内容を吟味しながら、現実的な問題解決を一緒に探していくことになります。しかし、心配の中でも「心配してしまうことを心配する」というちょっと変わった心配もあります。そのような心配は「メタ心配」とか「タイプ II の心配」と呼ばれています。メタ心配が過剰な精神状態にあるときは、全般性不安障害(GAD)という不安症の精神疾患に該当することがあります。

このようなメタ心配性のカウンセリングには、メタ認知療法(Metacognitive Therapy:MCT)のアプローチが有効です。メタ認知療法は、英国人のエイドリアン・ウェルズ(Adrian Wells)先生が開発された治療法です。メタ認知療法の特徴は、心配に対する信念について焦点をあてることです。心配に対する信念は、ポジティブな信念ネガティブな信念があり、いずれも心配を悪化させたり持続させたりする特徴を持っていることがわかっています。

心配は役に立つ×心配は怖い=心配の持続・悪化

メタ心配性の方に「あなたは何故、心配をするんでしょうか?」と聞くと、ほとんどの方が「危険に備えることができるから」や「事前に準備することができるから」といいます。つまり、心配は役に立つという信念があると言えます(これをポジティブな信念と呼びます)。別の質問として「心配してしまうことで普段感じていることは何ですか?」と聞くと、「心配すると止まらない」や「心配は自分をダメにする」という心配は嫌なものだという信念があります(これをネガティブな信念と呼びます)。心配に対するポジティブな信念は心配を持続させる要因であり、心配に対するネガティブな信念は心配を悪化させる要因であることがわかっています。

メタ認知療法では、心配事の内容をここに取り上げるカウンセリングは行わず、「心配する事そのもの」についてカウンセリングを行います

え!悩みの内容を聞いてくれないの?と、驚かれるかもしれないですが、メタ心配の場合は、先ほど説明した心配への信念について焦点を当てたカウンセリングを進めます(誤解がないように説明させていただきますと、心配することを心配していると言う内容をお聞きすることになります)。

心配に対する信念へのカウンセリング

メタ心配性のカウンセリングでは、心配に対する信念に焦点をあててカウンセリングを行います。メタ心配性の方は、1日にいくつもの心配で苦しみ、その都度じっくりと考え込んでしまい、不安になり仕事や勉強に手がつかなくなってしまいます。このような経験から「心配が始めると心配を止めることはできない」という心配に対するネガティブな信念が作られていきます。

メタ認知療法に関する治療目的や心理教育などを十分に行ったうえで、これらの信念に疑問をもってもらう行動実験を行います。それは「心配の遅延」という方法です。

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〇〇さん(クライアントさん)には、1日のうちで存分に心配してもいい時間を設定しましょう。それは夕方6時から30分間でどうでしょう?それまでは、心配事が浮かんできても、「夕方6時に心配するから、今は心配しないで6時までとっておこう」という感じにして下さい。夕方6時になったら、それまでに心配したかったことで印象に強く残っていることについて、心配してみてください。
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メタ認知療法では、メタ心配性の方の特徴に合わせて、このような行動実験を行っていただきます。すると、多くのクライアントさんは以下のような報告をしてくれます。

クライアントさん:
「今井先生が言う通りに6時に心配をしようとしたんですが、ほとんど覚えていなかったり、別にいいかと思えるものが多くなっていて、真剣に心配ができなくなってしまっています・・・」
カウンセラー今井:
「でも、心配は止められないとおっしゃっていましたが、6時まで心配することを引き延ばすことができたんですね!素晴らしいことです!でも、お話を聞いていると、心配できなかったことを少し残念がっているようにも見えますが・・」
クライアントさん:
「残念というわけではないですが(笑)・・、本当に心配しなくて良かったのかなって・・思います。矛盾していることもわかってるんですが・・」
カウンセラー今井:
「長年、心配は役に立つと思っていらっしゃったので、いざ6時にちゃんと心配できていない心配事があると不安になったかもしれないですね。でも、心配できなかったこの二週間に、なにか、重大な問題は生じましたか?」
クライアントさん:
「今のところは何も起きていないです。だからこそ、少し大丈夫かなって思っている自分もいますが・・(笑)」
カウンセラー今井:
「心配が役に立っていない証拠が集まってきているように思いませんか?」

心配に気を奪われないようにするディタッチト・マインドフルネスの技法(注意訓練)

メタ認知療法のカウンセリングによって、「心配は役に立たない」や「心配はコントロールできる」という新しい心配に対する信念が作られても、長年親しんできた心配癖は、意識をしないとついつい巻き込まれてしまいます。

メタ認知療法では、心配している自分に素早く気づき、それらの状態を観察する態度で距離をおける状態「ディタッチト・マインドフルネス(detached mindfulness)」になれるようにトレーニングを行います。その代表的なトレーニングは注意訓練(Attention Training)と呼ばれ、日常生活音への聴覚的注意を鍛える方法です。注意訓練を行うことで、心配している自分に素早く気づき、今集中すべきものに注意を意図的に向けられる「マインドフルネス」の状態になることができます。「マインドフルネス」と「ディタッチト・マインドフルネス」の違いについては、後ほど記事にしたいと思います。注意訓練は以下の記事で読んでいただけます。

【今日のポイント】

メタ心配性を改善するためには、心配に対する信念(メタ認知的信念)と心配に巻き込まれないようにする集中力(注意機能)が鍵となる!

誰もが不安な時には心配をします。心配そのものは問題解決の営みという側面も確かにありますが、「心配することが心配だ」と思ったら、それはメタ心配です。そんな時は、心配は役に立たないということと、心配はコントロールできるということを思い出してください。

このメタ認知療法に出会って心配性が改善された一人として、メタ認知療法を自信をもってお勧めします!


心理学の知識を楽しくご紹介できるように、コツコツと記事を積み上げられるように継続的にしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。