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【サンプル】うそつきのきつねのはなし

11月22日に開催される「文学フリマ東京」にて頒布する本のサンプルです。
スペース:シ-08 水色バンビ
イベント詳細はこちらをご確認ください
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通販ページ⇒ https://pictspace.net/imashika

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『うそつきのきつねのはなし』

てっぺんから流れた蜂蜜がついに裾の町へ流れ着いたというように、山を染めた金色がそこかしこの木々まで広がり、町はすっかり秋の化粧をしています。朝の陽はまっさらでした。陽があたためてくれないものですから、風もまたまっさらなのでした。
きつねのこんは少しつめたい町のなかを大きな鞄を抱えて、風なんかへっちゃらで、駆けていきます。
こんの目に、朝の町は大変うつくしく映りました。それはきっと、秋の景色がこんたちきつねの毛並みとよく似ていたからでしょう。
町のどこを駆けてもこんを邪魔するものはなにもありません。まだ誰も歩いていない町のなかで、こんは一人自由でした。つむじ風のように十字路を曲がっても、飛行機のように両手をいっぱい広げても、けして叱られたりはしないのです。
僕が本当に飛行機のように空を飛べたら、あの山を越えてみせるのになあ。
こんの足が乾いた土を蹴るたびに鞄はがさがさ鳴りました。大きな鞄には、いっぱいに手紙が詰まっています。縦長のや厚いのや青いのや花柄の、ひとつとして同じものはありません。色々な手紙をこんは町中に届けて回ります。それがこんのお仕事でした。
 
    中 略

その日の放課後のことです。ここんがこんに言いました。
「パンを焼くから、明日あそびにおいで」
それを聞くと、こんは嬉しくなってすぐに返事をしました。
「それはとても素敵だね。ぜひあそびにいくよ」
明日は土曜日で、郵便配達のお仕事もありません。休日はいつでも素敵ですが、ここんのお誘いはもっともっと素敵に聞こえました。
だってこんは知っているのです。ここんの家には立派なオーブンがあって、毎朝おいしそうな匂いをさせていることを。小麦の匂いを思い出してこんは鼻をひくひくさせました。
「きみがパンを焼くの?」
こんが尋ねると
「もちろんだとも」
ここんは胸を張って言いました。白金のここんの胸毛がふわりと膨らんで、それはそれは立派に見えました。当たり前のことですが、きつねが十匹いたら毛並みはみんな違います。ここんの毛は金糸のようでした。毛先までつやがあって、丁寧に毛繕いされていて、よく晴れた昼間には耳や頬の辺りがまるで透明に見えるのです。
それに、ここんは何をさせてもたいてい一番でした。むずかしい計算問題でも真っ先に手を挙げて正解を言いますし、美術室の後ろにはここんが描いた公園の絵が貼ってあります。
もっとここんと話してみたいと、こんはずっと思っていました。ですが休み時間に分厚い本を眺めているのを見ると、なんだか話しかけてはいけないような気がして、誘われるままボール蹴りや縄跳びの仲間に加わるのでした。

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文庫/36ページ/¥700

きつねの男の子 こん と ここん が友だちになるまでの物語

よろしくお願い致します。


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