見出し画像

大人になった今、彼との別れを思い出した話

新しい第一歩


上京する前日ー。
私に駆け寄る彼は何故か照れ臭そうにしていた
小さなオレンジ色の花束を背中から出しながら「これお花屋さんが選んでくれたから良い花言葉いっぱい詰まってるねん。良かったら受け取って!明日から新しい第一歩やもんな、一番応援してる」
とプレゼントしてくれた

いつもの帰り道の公園
彼は私よりも上京を喜んでくれた
ずっと夢見ていた東京での暮らしに
不安がいっぱいだったけど
応援してくれる彼を見ていたら
私ちょっと頑張れるかもと
勇気が湧いてきた

「いつかお互いの夢叶えて一緒にいれたらいいな。俺も早く追い付かないと」
キラキラした目を向ける彼に
私も本当にお互いが夢を叶えられる気がした

ふたりの世界

「お疲れ様!まだ仕事中かな?今日はクリスマスやな〜 会いたいなぁ…今日は」
何気ないLINEを送るのはいつしか私だけになっていって、彼からの返事は少しずつ遅くなっていった

彼と遠距離がスタートしてもうすぐ半年
まだ10代だった私たちには会いに行けるお金もなく、兵庫と東京の距離はとてつもなく
離れているように感じていた

それでも毎日今日は何をしてたとか
何を考えてたとかLINEで送りあって
お互いが安心できるよう支え合っていた

彼は地元でダンスの先生をしながら
ダンサーを目指していた
出会った時からダンスも歌も演技も
飛び抜けて上手くてみんなの憧れの先輩だった
それでもショーケースに出演したりやダンスユニットに挑戦したりと夢を叶えるために人一倍練習の日々を重ねていた

私は地元を離れて
東京で音楽をやっていこうと
一歩踏み出したけど
すぐホームシックになったり
慣れない一人暮らしに苦戦する毎日だった

それでも
「今日はめっちゃ空が綺麗やったんよ」
とベランダから見える夕日の写真が届いたり夜明けまで電話をして「頑張ってるね」と言ってもらえることが何よりも頑張れる糧になっていた

ひとりぼっちだと感じる日々も
彼と連絡をとっていると
まるで隣に寄り添ってくれているような
ふたりだけの世界が寂しさを包んでくれた

夜明けのドライブと彼の街

画像2

寒い冬を超えて、やっと少しずつ日が延びてきた頃 東京では目黒川に桜が咲き始めたと
ニュースが流れていた

「目黒川の桜めっちゃ綺麗らしい、見にいきたいな」
何気ないLINEを送るのはいつしか私だけになっていって彼からの返事は少しずつ遅くなっていった

一人暮らしで初めて高熱が出た夜や、安いスタジオを調べて知らない駅へ行ってみたこと、家事を効率よくこなせるようになったこと
彼に私のひとつひとつを知ってほしいと思うと同時に、彼がいなくなったらどうしようという怖さを覚えていった

そんな日々が続き
不安がピークに達したあの日
私は気付いたら品川駅へ向かっていた

彼に何かあったんじゃないか

会いにいって確かめた方がいいのかな

そんなことを考えながら
新幹線乗り場にはついたけれど
大阪行きの電光掲示板を見上げたまま
改札前で立ち止まってしまった

急に行ったら迷惑かな
でも寂しい時はいつでも力になるからって言ってたしな 
ただ忙しいだけかもな、、
会いにいくのはやめとこうかな、

そんな言葉が頭を駆け巡っては
何時間も駅内を歩いていた

気付けば人で溢れていた駅のお土産屋さんも
数えられるくらいに人が減っていた

電子掲示板を見ると
東海道新幹線 新大阪行き 21:17 最終電車です
…会いにいこう

やっと決心して急いで新幹線に乗り込んだ
名古屋を過ぎたあたりで
彼に連絡入れてみたけど未読のままのLINE

このまま会えなかったらどうしようと
勢いだけで飛び出してきた自分に
不安を抱えたまま彼の地元に着いてしまった

周りは真っ暗で特にツテもない
どうしようと焦っていた時に1人の男の人に声をかけられた

「迎えに行ってあげてって連絡があってさ」

彼の地元の友達だった

不安げな私に何故か納得したような顔で
「色々不安やったやろ、今から話すことあいつには聞いてない事にしといたってな」
と彼が連絡をあまり返さなかった理由を話してくれた

親が急に倒れたこと
面倒をみれるのが彼だけだと
親の代わりに家計を支えるために深夜バイトを始めたこと
夢を目指すのを諦めざる終えないこと
毎日必死に働いてること

何も知らなかった恥ずかしさと
会いたいという気持ちだけで
押しかけてしまった自分の勝手さに
罪悪感で埋め尽くされた

「あいつも色々考えながら大変やと思うねん。だからどうか分かってあげてね。あ、もう少しで終わるみたいやから俺は帰るね」

と彼の車へと案内してくれて
彼の友達は帰っていった

いつもより冷たく感じる車内で
彼を待っていた
こんなに遅くまで働いているんだ…
急に来てやっぱり迷惑だったかな…
謝らないとな
そんなことを考えていたら
深夜4時過ぎに彼が車のドアを開けた


「ごめんね。こんなところまで会いに来させて」
謝ったのは彼からだった

私は何て言えばいいのかわからなくて
ただ首を横に振っていた

そこからお互いしばらくは無言だった

きっと友達から話を聞いたんだなって
彼は分かっていただろうし、私も彼の目の下のクマや疲れた顔に何も触れなかった

「紹介したいところがある」
と彼はゆっくりと車を走らせた

背の低い建物がぽつんぽつんとまばらにあるだけの静かな街へどんどん入っていった

「見えるかな?ここが俺の育った小学校!」
今までの空気が何事もなかったように
彼は笑顔で育った街を紹介してくれた

「その狭い通りが…」
「レッスンはここでやってて」
小さい頃のエピソードやあったかい家族の話を優しい口調で話しては、色んなところを巡ってくれた

私はいつの間にかその明るく優しい彼の話を聞いて笑顔になっていた

薄明るくなってきた街の間に
朝日が登り始めた

彼は駅前で車を止めて
「一番応援してるから」と
少し崩れそうな笑顔で言った

なんとなく私たちもう別れるんだな
とその時に感じてしまった

急に襲ってくる別れの予感に
喉の奥がつっかえた
涙を必死に堪えながら
私は「彼を支えていきたい」と
話してみた

けれど
「お前には行くべき場所がある。毎日忙しいやろ?ちゃんと身体も休めないと。もう朝やから東京に帰り」
と泣きそうになっている私を見ないまま
彼は私の肩にポンっと一瞬手を置いた

私ももうここには戻ってこれないんだと
小さな決心をして

「さよなら」

別れの時にこの言葉を使ったのは後にも先にもこの一度だけだった

そこから東京までの帰り道は
新幹線の窓を見つめながら
彼の育った街を思い出していた

品川駅についてしばらく経った後
お互い短くやりとりをして私たちは
別れることになった

家に帰ろうと品川駅を進むと
お花屋さんにオレンジ色のお花を見つけた。

新しい第一歩 

私は絶対に夢を叶えようと心に誓った


「 さよならふたり 」

彼との別れから4年が過ぎた頃
この曲をSeikeさんと書き始めました
当時はリリースに至らなくて眠ってしまったままの曲だったけど、「今さら、君に」のアルバム制作中にSeikeさんがこの曲を送ってきてくれてアルバムに入れようと今回リリースすることに決定しました。

彼と別れた後は、辛くて苦しくて泣いてばかりの日々だったけど、こうして今は優しい思い出として振り返ることができて幸せです。

色んな思い出があるけど
幼いながらにどんな時もふたりのことを思ってくれていた彼に本当に感謝してます

ありがとう


是非、聴いてください。

「さよならふたり」


・各種配信サイトへ

・3rd mini album「いまさら、君に」


宜しければサポートお願いします。あなたのその想いで私は救われます。これからも紡ぐ言葉や音があなたの心に響いますように。