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第11回 海外エンタメ考 意識高いとかじゃなくて


「yom yom vol.64」2020年10月号(2020年9月18日発売)より、冒頭部分を公開しています。

本稿で取り上げている主な作品は、映画「スペシャルズ!」「ある画家の数奇な運命」、海外ドラマ「ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー」ほか。

*第11回の全文はWEBマガジン「wezzy|ウェジー」に転載されています。


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障害者の家族の「セルフケア」について考える。


優生思想は何がどういけないのか

 7月27日に石原慎太郎が、「業病(ごうびょう)のALSに侵され自殺のための身動きも出来ぬ女性が尊厳死を願って相談した二人の医師が薬を与え手助けした事で『殺害』容疑で起訴された」などとTwitterに投稿した。ALSに対して、前世の悪業(あくごう)の報いでかかるとされた難病を意味する業病などという言葉を使うとは。

 その少し前、RADWIMPSの野田洋次郎が、藤井聡太棋聖が史上最年少でタイトルを獲得したことを受けて、「前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。お父さんはそう思ってる #個人の見解です 」などと投稿したという。私はこれらの投稿をネットのニュースで知ったので、前後の文脈などは知らない。

 いずれも大変な問題発言であり、忌むべき優生思想だとして批判・非難の的となり炎上案件となったのは当然のことだろう。私自身はあきれるというより恐ろしくてたまらない。こうした発想がSNS上の発言には本当に多い。私がTwitterから遠のいた理由は複数あるのだが、一番は不用意に目にしてしまう言葉の暴力にぶん殴られることに耐えられなくなったからだ。

 私には重度の知的障害を持つ弟がいる。だから優生思想や「生産性がない」云々といった件には、怒りで我を忘れるほど頭に血がのぼることもある。かと思えば、もう全てが嫌になって全世界をシャットアウトしたい、と精神の引きこもりとなることも少なくない。特に2016年の相模原障害者施設やまゆり園の殺傷事件以降、これほど多くの人々が犯人の考えに多かれ少なかれ賛同しているのか。そう実感することが格段に増えて、人生で最もネガティブな心境に陥ったまま完全には這い上がれていない。

 もちろん悲劇のヒロインぶるつもりはない。世の中にはこの事件と向き合い、闘っている人たちがたくさんいることはわかっている。いまだこの問題にちゃんと向き合えていない自分に、一体何年障害者の家族をやっているのか。そんな苛立ちと失望を覚えて悲しくなることもある。ここでいう闘うというのは、Twitterをやるやらないとは関係ないことだけれど。

 優生思想の何がどういけないのかを知るために、別に難しい勉強をする必要はない。映画ファンならナチスドイツ関連の作品などで、しばしば遭遇してきた問題だ。例えば『善き人のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の『ある画家の数奇な運命』(10月2日公開)。現代美術家のゲルハルト・リヒターをモデルにしたドイツ映画で、ナチスドイツで精神障害者や身体障害者に対して行われた強制的な安楽死政策を扱っている。安楽死政策はのちにホロコーストへとつながっていく。

 序盤で美術の道に進む主人公クルトは少年時代に、ナチ政権下のドイツで芸術を愛する叔母エリザベトが精神のバランスをくずし、安楽死政策によって殺されてしまう。このことはクルトに大きな影響を与え、クルトは叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じて逃亡した西ドイツで自分のアートを追求し続ける。その過程で美術学校で出会い恋に落ちたエリーの父で元ナチ高官(エリザベトを死に追いやった張本人)が、クルトと娘に対してとったある行動は、優生思想の何が問題なのかを実にわかりやすく示すものであり、この現代にこうした思想に基づく発言を多く目にすることに危機感を覚える。


*全文は、「yom yom」発売後に「wezzy|ウェジー」に転載されています。








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著述業 映画・海外ドラマ評論/インタビュー、コラム、エッセイを執筆。「小説すばる」「yom yom」「日経エンタテインメント!」「BAILA バイラ」「エクラ」「シネマトゥデイ」ほか。更新休止中  連絡先はこちらへ https://www.imasachie.com/