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デザインの歴史から、デザインの可能性を学ぶ【ILY,BootCamp #05レポート】

Hello, people.

“デザイナーとしてのマッスルを鍛える”ことを目的に、定期的に開催している「ILY, Boot Camp」。
今回は、19世紀以降のデザインの変遷をたどりながら、デザインの概念や生活とのかかわりについて勉強した様子をレポートします。

「デザイン」という言葉が一般的に使われるようになったのは20世紀初頭 と言われています。そこから約100年あまり、「デザイン」はどのような歴史をたどってきたのでしょうか。

生活と芸術の交わり ― 19世紀後半

アーツ・アンド・クラフツ運動

歴史


1800年代後半、産業革命から起こった商業主義による大量生産によって、世の中には安価で低品質な量産品があふれていました。
そんな中生まれてきたムーブメントが「アーツ・アンド・クラフツ運動」です。
機械によって作り出されたものが流通しているからこそ、“中世の手仕事の美しさや職人技を芸術として尊重しよう”という考え方のもと、芸術的な手仕事で日常の空間をデザインし、生活の質を向上させようとしたのです。
その思想は、家具や什器、壁紙、字体などに表れ、後のアール・ヌーヴォーやウィーン分離派にも大きな影響を与えました。
「アーツ・アンド・クラフツ運動」時代の代表的なデザイナーが、イギリス出身のウィリアム・モリスです。植物模様の壁紙やステンドグラスはあまりにも有名で、“モダンデザインの父”と呼ばれました。
ウィリアム・モリスは「役に立たないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない」と述べ、生活と芸術を一致させようとするデザイン思想とその実践は、以降のモダンデザインの源流になったとも言われています。

アール・ヌーヴォー

歴史2

ウィリアム・モリスのような、生活と芸術を交わらせる思想のもと、自然との調和やライフスタイルを織り込んだ芸術が生まれます。
それが「アール・ヌーヴォー」です。
「アール・ヌーヴォー」は、日本やアラビア、ケルトなどの装飾様式や文様を取り入れ、西洋の伝統にとらわれない新しいライフスタイルを生み出しました。
建築家のアントニオ・ガウディや、ガラス工芸家のエミール・ガレ、画家のアルフォンス・ミュシャなど、多岐にわたる分野で多くの芸術家が活躍。
花や植物などの有機的なモチーフや曲線の組み合わせによる自由な装飾性など、自然からインスパイアされたデザインが特徴で、アントニオ・ガウディは「美しい形は構造的に安定している。構造は自然から学ばなければならない」と、自然の中に最高の形があると述べています。

産業デザインと芸術 ― 20世紀前半

ドイツ工作連盟

歴史3

20世紀に入ると、アーツ・アンド・クラフツの成果を引き継いだまま、近代的な機械生産を視野におさめたうえで製品の質的向上を目指す思想が芽生えます。
そうした理念を持って設立されたのが「ドイツ工作連盟」です。
「ドイツ工作連盟」は、“芸術家、産業界の企業家、職人の協力を通して、産業製品を発達させること”をスローガンに、近代社会にふさわしい芸術と産業の統一を目指しました。
ヘルマン・ムテジウス、アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド、ブルーノ・タウト、ヴァルター・グロピウスなどの工芸家、建築家、実業家が参加し、その活動はインダストリアルデザインの始まりであったと言えます。

バウハウス

歴史4

1919年、工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な教育を行う世界初の学校「バウハウス」が設立されました。
それまでの装飾性に富んだデザインとは異なり、合理主義・機能主義・表現主義を混合したデザインは、モダンデザインやインダストリアルデザインの方法論として確立。
そのシンプルなデザインは機械的な大量生産に適しており、産業革命で巻き起こった製品の合理性を追求する流れの中で、爆発的に広がっていきました。
初代学長のヴァルター・グロピウスは、バウハウス設立時に「あらゆる造形活動の最終目標は建築である」と宣言しましたが、デザインの合理性から、家具のデザインやユーザーインターフェースのグリッドレイアウトなど、現在でも幅広い分野にバウハウスの影響が波及しています。

スイス・スタイル

モダンデザインの流れは建築や芸術だけにとどまらず、グラフィックデザインにも及びます。「スイス・スタイル」は「国際タイポグラフィー様式」とも呼ばれ、客観的な情報伝達を目指して生まれたグラフィックデザインの様式です。
厳密かつ秩序立ったフォーマットが特徴で、“問題解決のためのデザイン”を目的としています。
SanSerif書体やグリッドの利用、モノクロ素材の使用や左揃えの文字組みなど、清潔感・可読性・客観性を追求したデザインは、現在のフラットデザインやデジタルデザインに大きく影響を与えています。
ヨゼフ・ミュラー・ブロックマンは、理念を伝える客観的記号として「スイス・スタイル」を用い、「倫理的な基礎による職業把握がある場合にのみ、活字の美しさがデザイナーにひらけてくるのであり、含蓄のある仕事のよろこびが与えられ、不撓不屈の探求者の青春を維持させ、そして発見者のたのしみを体験することができるのである」と述べています。

誰かのためのデザイン ― 20世紀後半

CIデザイン

歴史5

1950年代以降、企業ロゴマークの商業的価値への関心が高まり、「CIデザイン」という概念が形成されました。
「CI(コーポレート・アイデンティティ)デザイン」とは、企業や組織の精神、理念、倫理などを簡潔かつ効果的に表すためにビジュアライズし、社会に向かって発信する手法で、企業のイメージ向上や事業展開を容易にする効果を持っています。
「CIデザイン」は以下の3要素で構成されます。

・MI(Mind Identity:マインド・アイデンティティ)
・BI(Behavior Identity:ビヘイビア・アイデンティティ)
・VI(Visual Identity:ヴィジュアル・アイデンティティ)

この3つの要素から企業のあるべき姿を体系的に整理し、それに基づいて自社の文化や特性・独自性などをイメージ、デザイン、メッセージとして発信することで、企業としての存在価値を高め、他社と差別化します。
アメリカで活躍したレイモンド・ローウィは「良いデザインはユーザーを幸せにし、メーカーを黒字にし、美学のある人の気分を害さない」と言い、工業製品や店舗デザインなど、さまざまなデザインを手がけました。
日本ではマツダ(東洋工業)による導入が最初で、その後、組織のアイデンティティや哲学とデザインが結びついた戦略概念として定着していきます。

ミニマリズム

歴史6

1960年代には、要素を最小限度まで切り詰めようとした「ミニマリズム」という思想が台頭します。
「ミニマリズム」は、完成度を追求するために装飾的趣向を凝らすのではなく、それらを必要最小限まで省略し、非人間的な緊縮性、単純な幾何学的構成、工業的に加工された材料によって特徴付けられたスタイルです。
合理主義や機能主義を突き詰めることで、フォルムと機能が一致。量産を念頭に置いた商品の規格化、標準化が進められました。
「ミニマリズム」のプロダクトは、立方体や幾何学形の利用や、統一された色彩、組み立てや構図の排除などが特徴です。
アドルフ・ロースやドナルド・ジャッドなどが活躍し、建築家のミース・ファン・デル・ローエの思想「Less is more / God is in the details」は「ミニマリズム」の神髄と言えるでしょう。

ユニバーサルデザイン

歴史7

1985年、年齢、性別、人種、国籍、障害などの有無にかかわらず、すべての人が可能な限り最大限まで利用できるように配慮された製品や環境デザイン「ユニバーサルデザイン」が提唱されました。
「ユニバーサルデザイン」には“公平性/自由度/簡単性/明確性/安全性/持続性/空間性”の7原則があり、現在推進されているSDGsなどの概念につながっています。
できるだけ多くの人が利用可能にすることを基本とする「ユニバーサルデザイン」の提唱者であるロナルド・メイスは、自身も幼い頃から車いすで生活しており、「ユニバーサルデザインとは、見えないデザインである」と述べています。
1964年東京オリンピックのピクトグラムも、この「ユニバーサルデザイン」コンセプトのもと、デザインされています。

社会をつくる、見えないデザイン ― 21世紀

UI – UX

歴史8

デジタルデバイスやコンテンツが爆発的に広まった21世紀。
誰もが容易にソフトウェアやサービスにアクセスできるようになった今、「UI – UX」という概念は欠かせないものとなりました。
「UI」とは「ユーザーインターフェース」。モノとヒト、サービスとヒトなど、二者が情報交換する接触面や、やりとりそのものを指します。
「UX」は「ユーザーエクスペリエンス」。サービスのよって得られるユーザーの体験を指し、ユーザー側の一連の操作や表示がもたらす達成感・満足感を追求する概念です。
「UI – UX」に適したデザインをつくるためには、ユーザーの満足度とビジネスの要求を同時に満たすことのできる設計が必要です。
「UI – UX」に関する事例として、「LINE」が挙げられます。
これまで、電話やメールなど、個人間でしかやりとりできませんでしたが、LINEによってグループでの情報・データ共有が手軽にできるようになりました。また、LINEは子どもからシニアまで、幅広い年代が使いやすい仕組みで設計されており、コミュニケーションの満足度を飛躍的に高めた「UI – UX」デザインと言えるでしょう。

ソーシャルデザイン

歴史9

約100年の間に、手仕事で生み出したものやビジュアルデザインを“芸術作品”とした「デザイン」は、アイデンティティや理念、誰にでも等しく優しい利用環境など、モノだけではなく“コト”や”社会“を含めた「デザイン」へと、その対象範囲を広げてきました。
そうした中で、近年注目されているのが「ソーシャルデザイン」です。
「ソーシャルデザイン」とは、温暖化、少子化、高齢化社会、貧困問題などの世界的な課題に対する解決方法をデザインで導き出す考え方のこと。“社会への貢献”が前提にあり、NPOや地方自治体から企業などのCSR・経済活動の一環として行われることもあります。
たとえば、コスメブランドの「LUSH」は、“動物実験反対”を掲げ、実際に動物実験をせずに商品を作り、その理念が一目で分かるロゴなどの企業活動を展開しています。
また、「スターバックスコーヒー」は、手話を共通言語とし、耳の聞こえないスタッフがサービスを行う店舗をオープンしました。障害の有無や個人の価値観を超え、それぞれの個性や特徴が尊重され、能力が発揮できる環境と機会を創出し、“多様性と人間らしさ”を軸としたビジネスを促進しています。
どちらのケースも、“動物実験“や”多様性“といった社会的課題に対して、単純なビジュアルデザインだけでなく、ビジネススタイルや企業制度にまで、”社会をどう築くのか“といった視点でのデザインが反映されています。

これからのデザイン、私たちのデザイン

歴史10

お金持ちのものだった芸術のアンチテーゼとして、万人が利用するインダストリアルデザインが生まれる。今度は産業デザインから人の手をそぎ落とし、機能性を追求した結果、手仕事や伝統技術が再評価される……前時代の踏襲と批判を繰り返しながら、さまざまな「デザイン」が生まれてきました。
また、“見せるもの”だったデザインは、産業が発展し、社会が成熟していく中で、“課題を解決するもの”へと進化を遂げてきました。
プロダクトそのものに「デザイン」が反映されていたのが、そのプロダクトやサービスを使う人や社会にフォーカスされるようになってきた。
その歴史を知ることは、“本質的な課題解決のため、クライアントに沿ったソリューションを提供する”ことを大切にしている私たちにとって、「デザイン」ができることを改めて考えるとともに、その可能性を感じます。

バウハウスのカリキュラムは、基本と実技に分かれています。“システムを知り、素材を知り、構造を知り、表現を知ることで、あらゆる芸術に応用できる“とし、デザインの普遍的原則を学ぶ基礎課程を重要視していました。
歴史を学ぶことは、デザインの基本を学ぶこと。学びの点を積み重ね、つないで、新しい発見や考え方へとアウトプットできるよう、私たちはこれからも学び続けていきます。

Thank you, we love you.

私たちILY,は、ロゴ制作やビジュアルデザインなどの”見た目のデザイン”にとどまらず、MVV策定や事業・サービスのコンセプト設計などの”コトのデザイン”もご提供しております。お気軽にご相談ください。


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