#8『ウィル・レ・プリカ』
第一惑星 パラサイト・エデン
(八)星空計画
スーパーの生花コーナーには、いつも花がならんでいる。通年ではカスミソウにユリ。春が近づけばモモの花。秋口になればリンドウが挿され、別棚には鉢ものが並ぶ。いま時期は、年末年始の名残でキクやシキミもまだ残っている。
外気温とそう変わらない、あるいは風がないぶんだけ温かい店内は、端まで等間隔で並んだ直管蛍光灯で青白く照らされている。ハルアキは青果コーナーの特売を前に、玉ねぎの袋を買い物かごに入れた。
「ねぇねぇ、ハルちゃん。お菓子コーナー行こうよ」
クーがシルバーリングをつけた指で、向こうを指さした。
ショッピングモールでの一件が落着してから一週間が過ぎ、ふたたび休日を迎えた午前中。ハルアキ、クー、ラン、サクヤの四人は、そろって十三番街のスーパーに来ていた。というのも、冒険に行くならまずは作戦会議だとサクヤが言いだし、ならお菓子とジュースがいるでしょとクーが乗った。宅配を頼むという話もあがったが、宅配料金を考えると、自分の足で歩いたほうがうんと安く済む。
「サクヤと先に行ってろ」
久しぶりのスーパーにウズウズしているサクヤを顎で示し、また値札とにらめっこする。大根も安いが、まだ家にある。人参はいつもより少し高い。蓮根は擦ってひき肉とあわせてやればふわふわのハンバーグになるし、小さく丸めてミートボールにするのもいいだろうか……この知恵は、店長の手伝いをしているうちに、身についたものだ。
「真剣ですね」
「おわっ!」
すぐとなりから聞こえたから、驚いてしまった。
「クーと行ったんじゃないのかよ」
「いつもいっしょにいるわけじゃありませんよ」
ランはくすくすと笑った。
「クーはあまりこういう買い物をしないので。つい気になって」
「べつに、おもしろくもないだろ」
蓮根の袋をかごに入れて、足を進める。目端で、各種メーカーのよりどりセールの内容を確認しながら、生鮮コーナーの手前にある卵の棚へ。十個入りをふたパック。これも、休日限定のセール対象商品だ。
「お前って、いつも何食ってんの?」
「クーがコンビニでバイトしてるので」
「ああ。廃棄商品だっけ」
基本的には、不正や食中毒などの諸問題を防ぐために廃棄商品の持ち帰りは禁止されているが、店によってはオーナーが許可している例もあるらしい。
「あとはてきとうに。宅配を頼むこともあれば、パンとか、カップ麺とか……」
「栄養偏るだろ。野菜食え」
ランがまたくすくすと笑った。
「んだよ」
「いえ。なんだか兄さんみたいだな、って」
「兄貴がいるのか?」
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