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i.lab社内R&D 「Voice Mask」プロジェクト:連載⑤ 既存商品のベンチマーク

こんにちは、i.labです。

特許取得を機に活動を再開したi.lab社内の取り組み「Voice Mask」プロジェクト。連載第5回目の今日は、既存商品のベンチマークについての記事です。

前回(プロトタイピング編)の記事はこちら↓

何のために既存商品のベンチマークをするのか?

連載③:アイデアの完成度の高め方」を覚えていますか?そこでは、できるだけ早い段階でユーザーにアイデアを提示し、フィードバックを得ながら「螺旋状」にアイデアの完成度を高めていくプロセスを紹介しました。Voice Maskプロジェクトでは、今まさにこの螺旋状プロセスの一周目を行っています。第一ステップの最小限のプロトタイプ作りは前回までで完了しているので、次はいよいよターゲットユーザーにアイデアをぶつけ、Voice Maskの提供価値や利用シーンの仮説を一つ一つ検証するステップです。

インタビュー前にあらかじめ既存商品をベンチマークし比較しておくことで、現時点でのVoice Maskの価値や利用シーンが明確になり、市場におけるポジショニングを確認できます。そうすることで、ユーザーにアイデアの特徴や機能、利用シーンを紹介する際の言葉選びや説明の仕方について、より効果的に考えることができるようになります。ユーザーの心により響く言葉は何か、既存商品を比較例として提示するか、利用シーンをよりイメージアップしやすい写真は何か、など、ただ闇雲に準備するよりも仮説を持って望むことができます。

成果物イメージと比較項目を明らかにして調査する

i.labで何かを調査する際は、効率的に情報収集するために、必ず仮説や調査後の成果物のイメージを事前に持って行います。前述の通り、今回は市場におけるVoice Maskのポジショニングを明らかにしたかったため、4象限のマトリクス(あるいは別のダイアグラム)で分類・整理することを成果物イメージとして考えていました。既存商品は、「商品概要」や「ユーザーにとっての価値(=目的の情報)」、「消音の仕組み(=手段の情報)」、「課題(=Voice Maskで解決できるかもしれない機会)」の4つの観点で調査し、各商品をパワーポイントのスライド一枚の情報量で整理しました。観点を揃えて比較することで後の分類作業を効率化し、また得られる情報は探せばキリがないため、パッと見てすぐに理解できる適切な情報量としてスライド一枚の制限を設けました。

さて前談はここまでにして、早速調査結果を見ていきましょう。

消音に関連した既存商品

①サウンドマスキングスピーカー(例:ヤマハ、コクヨ、オカムラ)

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概要
会話音を打ち消すための特殊なサウンドを発するスピーカー。天井、パーテーション、テーブルなどに設置して使用する。空間設計や音響設備の開発・販売を行う大手企業が牽引する。商品例として、ヤマハの「スピーチプライバシーシステム VSP2」やコクヨの「アタッチ サウンドマスキングスピーカー」、オカムラの「Sound Conditioning System」がある。

ユーザーにとっての価値
・隣接した会議室において、相互で会話を聞き取りにくくする。
・オープンスペースでの会話を第三者から聞き取りにくくする。

消音の仕組み
・2種類以上の音が聞こえる時、一つの音が他の音にかき消され聞き取りづらくなるという聴覚のマスキング現象を利用(参考文献
・各メーカーが独自に開発した、聞き心地の良さを保ちながら会話を聞き取りづらくするマスキング音を周囲に向けて流すことで、空間の快適さを損なわずに会話のプライバシーを守る。

課題
・利用シーンがオフィス空間に限定されている。
・据え置き型で、持ち運び等は不可能。

②防音室(例:神田産業、OTODASU、ヤマハ、カワイ)

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概要
防音性能の高い素材を壁面に用いた箱型のスペース。個人の自宅への設置を想定した商品が主で、様々な防音性能・価格帯の商品が存在する。
比較的入手しやすい安価な商品には、神田産業の「だんぼっち」やCoolish Musicの「OTODASU」、ピアリビングの「おてがるーむ」がある。また、管弦楽などを自宅で演奏したい人向けの防音性能が高い商品には、ヤマハの「アビテックス」やカワイの「ナサール」が代表的。

ユーザーにとっての価値
・自宅での通話・ライブ配信などの音声や管弦楽の演奏音が周りの迷惑になることを防ぐ。
・周囲から遮断された環境で作業に集中できる。

消音の仕組み
・防音性能の高い素材(ウレタンフォーム、グラスウール、段ボールなど)で囲われた空間を作り、空間内部の音が周囲へ漏れないようにする。

課題
・据え置き型で、持ち運び等は不可能。
・防音性能を高めるにはある程度の密閉性が必要なため、防音室内の快適性(通気性)との両立が困難。

③防音マスク(例:BELTBOX、JTT)

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概要
防音性の高い素材で口の周りを覆うタイプの商品。歌や語学学習などの発声練習への利用を想定しており、マスク型のもの、マイクに口元を覆うカバーが付属しているものなどがある。例として、BELTBOXの「ポータブルボーカルダンパー」やJTTの「ミュートマイク2+」などがある。

ユーザーにとっての価値
・自分の発声が周りの迷惑になることを防ぐ。

消音の仕組み
・防音性能の高い素材(ウレタンフォーム、シリコンゴムなど)で口の周りを覆い、発声が周囲へ漏れないようにする。

課題
・個人のレビューによれば、口元を完全に覆った状態で使用すると呼吸が難しく、長時間の使用は困難。また、マイクと併用する場合はマスク内で声が反響しノイズが発生する場合がある。一方で、隙間を開けるなどして密閉性を低くすると、防音性能も低くなる。

④マイク付き防音マスク(例:Hushme、The PHASMA)

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概要
防音性の高い素材で口の周りを覆うマスクに、通話・配信用のマイクを内蔵した商品。代表的な商品に、ウクライナのスタートアップが開発した「Hushme」やスペインのゲーム会社が開発した「The PHASMA」がある。

ユーザーにとっての価値
・オープンスペースでの会話を第三者から聞き取りにくくする。
・自分の通話・配信などの音声が周囲の迷惑になることを防ぐ。

消音の仕組み
・防音性能の高い素材(ウレタンフォームなど)で口の周りを覆い、発声が周囲へ漏れないようにする。
・マスク内部にマイクを内蔵し、周囲に音を漏らさずに声を拾える構造になっている。

課題
・Hushme(2020年7月発売)は、個人のレビューによれば、音質がかなり悪く籠もったような声になる。防音性もそれほど高くなく、ある程度音漏れしてしまう。また、マウスピース内が密閉されているため通気性が悪く、長時間着けていると息苦しくなる。
・The PHASMAは未発売(2021年11月発売予定)。

Voice Maskのポジショニング

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横軸を利用シーン(据え置き型で空間で使う⇔携帯型でどこでも利用可能)、縦軸を商品の密閉度合い(発話を打ち消す開放型⇔発話を漏らさない密閉型)で分類すると上図のように整理できます。Voice Maskは、「携帯して使える発話を打ち消す開放型商品」という市場におけるポジショニングが確認できました。「個人が携帯して使える」、「声が篭りづらい」、「密閉されないので使い心地が良い」といったキーワードも確認できたので、提供価値や利用シーンを伝える際に使えそうです。

ちなみに、今回はユーザーへの提供価値や利用シーンを確認することに重点を置いた分類のため、実現のための技術的なハードルは一旦無視しています。調査の中でわかったのですが、Hushmeは企画段階ではマスキングのためのノイズを出す機能があったようですが、製品段階ではその機能がなくなっています。技術的なハードルがかなり高いのかもしれません。今後、螺旋状のプロセスを繰り返し行なっていく中で実現可能性も加味したポジショニングを確認していくことになります。

余談ですが、Voice Maskは上記の分類でも使用した「発話に対するノイズキャンセリング」の特許に加え、「唇の動きを画像認識して、発話内容を補足的に把握、声量不足をカバーする」の特許もあります。つまり、小声でも声が伝わる、さらに究極的には発話なしでも唇の動きだけで会話が可能になるわけです。今後、こうした特徴も加味しながら既存商品との差別化要因を図っていきます。

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いかがでしたでしょうか?本エントリーでは、Voice Maskの市場におけるポジショニングを確認するための既存商品のベンチマーク結果とその考察を整理しました。次回はプロトタイプと本調査結果を使って、ユーザーへの仮説検証インタビューを実施するための準備編についての記事になります。次回の更新もお楽しみに!

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i.labでは、Voice Maskの実現に向けて一緒に協業していただける技術者や研究者、企業を募集しています。ご興味がある方は以下までお問い合わせください!

問い合わせ先
メール:h-suzuki<at>ilab-inc.jp
担当者:i.lab ビジネスデザイナー 鈴木斉